Skip to main content

★樹状細胞とiPS細胞: 樹状細胞療法と多機能幹細胞

医学部の授業は座学ばかりで皆さんお疲れさまです。今日は実際に学んだことが世の中でどう生きているのか少し見てみましょう。

腫瘍とは

 細胞は分裂、増殖、破壊を繰り返し常に新しいものに置き換わっています。

 その周期はちょうどよくプログラミングされているため、臓器の機能は保たれたまま生命維持がなされています。


 しかし、細胞は分裂の際にコピーミスを起こすことがあります。人の遺伝子は30兆の塩基対からなっており、分裂のたびにそれを複製するのですが、必ずいくつかの複製を間違えてしまいます。もちろんコピーミスを修復する機構も備わっていますが、完全に修復がされることは無く、コピーミスは細胞が分裂するたびに蓄積していきます。たとえば細胞の増殖をつかさどる重要な遺伝子にコピーミスが起きたとすれば、その細胞は際限なく増殖する可能性があります。

 腫瘍とは自律的に増殖するようになった細胞の集団のことで、まさに細胞分裂を繰り返してコピーミスが積もり積もった結果といえます。腫瘍には良性のものと悪性のものがありますが、悪性のものは基本限りなく増殖を繰り返したり、血管やリンパ管、腹膜を伝わってほかの臓器に転移したのちにその場所でも際限なく増えて、血流などの循環を悪くしたり、もとからある正常な組織を押し潰したりして体を痛めつけます。

腫瘍の治療の変遷

 腫瘍はそのままほおっておくとその細胞の集団が偶然死なない限り延々と他の臓器を侵蝕し続けます。

 治療するには抗がん剤を全身に循環させて腫瘍細胞を死滅させるか、一網打尽に手術で取り出すか、それが不可能なら放射線を用いて全身の悪性腫瘍を焼き殺すとかあります。このように腫瘍の治療には抗がん剤療法、外科的摘出術、放射線療法の3つが今まではメインの治療でしたが、今第4の治療として免疫療法が注目されています。

 先の項で述べた免疫は、外界からの異常を駆逐するだけでなく、体内の自己の異常にも働き腫瘍を取り除こうとします。これを腫瘍免疫と呼びます。腫瘍は普通では作らないタンパク質を生産し、これを腫瘍特異抗原(TSA)と呼びます。また腫瘍は通常より多くタンパク質を作ることがあります。これを腫瘍関連抗原(TAA)と呼びます。細胞障害性T細胞は腫瘍免疫の主役で、腫瘍特異抗原や腫瘍関連抗原を見つけるとそれを生産している癌細胞を「非自己」とみなして癌細胞を殺します。

 腫瘍免疫が完全に働くなら困ることはないのですが、やはり腫瘍細胞も元々は自分の細胞の一部なので、免疫寛容という機構が働いて、すべて免疫で駆逐されることはありません。そしてどんどん大きくなって検査で見つかりやすくなり、手術や抗がん剤などの適応となります。

樹状細胞療法

 樹状細胞は白血球の一種で、抗原提示機能に優れた細胞です。ウイルスや細菌感染時の免疫や、ワクチン接種時に免疫応答の制御を担う中心的な細胞です。樹状細胞はヘルパーT細胞や細胞障害性T細胞に抗原提示をすることで、ある特定の細胞免疫に働くよう賦活化させます。この働きを用いた樹状細胞療法のひとつである、抗腫瘍免疫療法がいま注目されています。それは体内から樹状細胞を取り出してきて、体外で腫瘍特異的な抗原に接触させたのちに、患者さんに投与することで、人為的に腫瘍細胞に対する免疫応答を引き起こすというものです。

 

 この治療のメリットは、特定の抗原を標的にすることで、他の正常な細胞の攻撃を避けて腫瘍細胞を選択的に攻撃することで、高い治療効果と副作用の軽減が見込まれることです。腫瘍特異抗原は近年かなりの数が同定されましたが、多くの抗原は細胞表面でなく、細胞の中にある細胞質や核に存在します。そういった細胞内の腫瘍特異抗原を標的にするためにも細胞障害性T細胞の賦活化が必要になるのです。

iPS細胞を樹状細胞療法に利用する意義

 先の抗腫瘍免疫療法に用いられる樹状細胞は、現在は末梢血から採取した白血球中の単球をGM-CSF というサイトカインで分化誘導することにより作られています。しかし末梢血の単球は体外で増殖させることができないため、樹状細胞治療に必要な数を得るためには、大量の血液が必要になります。また、分化誘導のしやすさも患者ごとに個人差があり、必ずしも一定量の樹状細胞を確保できるとは限りません。

 つまり末梢血を利用した樹状細胞療法には患者の負担や細胞数確保の難しさという問題があり、広く普及するには難しいのです。

 そこでiPS細胞が登場するのですが、iPS細胞を利用して樹状細胞を作ることが可能になれば、患者に負担をかけることなく十分量の細胞を確保できるようになります。

コラム4

馬出図書館の面白い蔵書の話

図書館の3階に特別展示室があるのをご存知ですか?

館長室の横の部屋で、いつもはカギがかかっているのですが、この間特別に見学させていただきました。

一度は歴史の教科書で見たことのあるターヘルアナトミアや解体新書、ダーウィンの進化論の初版本、シーボルトの日本旅行記など博物館展示レベルの書物が丁寧に保管されていました。

電子化されて九州大学古医書のホームページで公開されています。ぜひご覧になってください。

Link=九州大学貴重古医書コレクション