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アニメと聖地巡礼――深夜アニメはまちを救う?: <大洗町> ガールズ&パンツァー

近年の深夜アニメとその「聖地化」現象について、まちづくり、まちおこしの観点から事例紹介をしていきます。

作品の概要


出典:茨城交通―ガールズ&パンツァー応援PROJECT<http://www.ibako.co.jp/girls-und-panzer/wrappingbus_2.html>


①作品概要

戦車を使った武道である「戦車道」が華道や茶道と並び大和撫子の嗜みとされている世界。
戦車道が嫌いな主人公・西住みほは戦車道のない県立大洗女子学園へとやってきた。
ところが、転校そうそう生徒会長に呼び出され、必修選択科目で戦車道を選択し、戦車道全国大会へ出場するよう強要される。
しかも、集まったメンバーは個性派ばかり。
友達とのフツーの女子高生活を夢見るみほの、ささやかな願いは叶うのか――?
戦車×女子高生という異色の組み合わせで描くハートフル・タンク・ストーリー。


出典:ガールズ&パンツァー公式サイト <http://girls-und-panzer.jp/intro.html


②放映期間

2012年10月~12月


③聖地となった地域

茨城県茨城郡大洗町


聖地化の展開

3つめに紹介するのは、アニメ「ガールズ&パンツァー」の舞台となった茨城県大洗町です。

大洗町は、直近では最も成功した聖地化事例とみてよさそうです。

ここでは商工会へのインタビュー記事を交えつつ、紹介を行っていきたいと思います。


◆アニメ製作の経緯

アニメ「ガールズ&パンツァー」が製作され、その舞台として大洗町が選ばれるきっかけは、製作者側からの発案でした。

バンダイビジュアルに所属するSプロデューサーは、子ども時代に大洗に海水浴に来て以来、この町が好きだったといいます。

しかし、2011年3月の東日本震災以降、大洗町が観光客の減少などで打撃を受けていることを知り、この窮地に何か手助けをしたいと考え、この町を舞台とするアニメ製作を思い立ったのだそうです。

この際、ロケハンの許可等地元とのパイプ役を担ったのが、地元のとんかつレストラン「クックファン」(図1)の代表であるT氏でした。

T氏に白羽の矢が立ったひとつの理由として、彼がクックファンと同時に、「(株)Oaraiクリエイティブマネジメント」という大洗町のまちづくりを目的とした会社の代表を務めていたことが挙げられます。

以降、このT氏を中心として大洗町の聖地化が展開されていきます。


図1:アニメ劇中に登場するクックファン

出典:観光いばらき<http://www.ibarakiguide.jp/seasons/girls_und_panzer.html>


◆聖地化に対する姿勢と「4つのD」

T氏が、はじめてアニメ化の提案を受けた時、脳裏には「らき☆すた」をはじめとした聖地化の事例が浮かんだと言います。

しかし、T氏自身はアニメというコンテンツについては全くの素人であり、ほかの地域を念頭に置いて当初から聖地化によるまちおこしを狙うというスタンスを放棄しました。

つまり、T氏の考え方としては、まずはじめにT氏を含めた町の人々が「ガールズ&パンツァー」に親しみを持ち、そこからいかに楽しんでタイアップの取り組みができるかを重視したと言います。

この考え方は大洗町の取り組みの中で明確に現ています。他の事例と比較して、各々の事業者が作品を深く理解し、そこからよりストーリー性の高い企画や商品が生み出されています。具体的には、「アニメにちなんだ商品はその関連スポットでしか売らない」といった方針を事業者間で共有したりなどしました。

また、いくつかのコラボ商品が生まれた詳細な背景については、下記の参考文献に挙げたサークルちょこびゐる(2013)などをご覧ください。


要するに、アニメそれ自体をコンテンツとして利用するというよりは、アニメのストーリー性を地域本来の魅力に付与して「聖地」化するという手法が採られたわけです。

そして、神山・木ノ下(2014)では、大洗町のこうしたスタンスを、聖地化に成功する秘訣、戦略としての「4つのD」という観点から分析を行っています。


まずは、①徹底(Deepness)です。ここでは、アニメの中で主人公たちの学校が「戦車道」の大会で優勝するという話に合わせて、町内を挙げて「祝 大洗女子学園 優勝おめでとう」といった横断幕やのぼりが掲げられ、あたかも地元の高校が優勝したかのように町全体が「祝勝ムード」を醸成しているといった取り組みが紹介されています。


次に、②回遊(Detour)です。大洗町ではアニメに登場するスポットに関して、「戦車が衝突した旅館」や「戦車が破壊された場所」といった地点を地図に記したものをファンに配布し、また少なくない商店がアニメの登場人物の設定やストーリーに沿った商品やサービスを展開することで、大洗町を訪れたファンは、町全体を回遊することになります。


第3に、③継続(Durabirity)として、大洗町はアニメの放映以降継続してイベントを開催し続けていることに加え、時には意図的にイベントの情報を直前まで公開しないことでファンにサプライズ感を持ってもらうなど飽きられない工夫を行っています。


最後に、④対話(Dialogue)として、地域住民(主として商店関係者)とファンとの間のコミュニケーションが大洗町では盛んに見られます。こうした交流が生まれることで、ファンはまた大洗町に足を運びたくなるものです。

「(作中で)戦車が突っ込んだ旅館」として知られる「肴屋本店」(図2)の代表者は、 「今では多くのお客さんが『ガルパンファン』から『大洗のファン』になっている。お客さんと会話する楽しさを改めて思い出させてもらった気がします」とファンとの交流が地域の魅力を一層高めていることを語っています。(朝日新聞2014年09月26日茨城版)。


こうした大洗町のスタンス、戦略は、意図的かはたまた偶然か、見事に功を奏し、大震災以降疲弊していた町は、「ガールズ&パンツァー」によって徐々に活気を取り戻しつつあります。

調査では、聖地巡礼を目的に大洗町にやってくる観光客は1年間に15万9,000人、経済効果(直接効果)にして2.7億円にものぼるとされています。


図2:アニメ劇中に登場する肴屋本舗

出典:観光いばらき<http://www.ibarakiguide.jp/seasons/girls_und_panzer.html>


◆実働部隊としてのボランティア、よき理解者としての行政

深夜アニメによる聖地化の事例としては華々しい成功例のように思われる大洗町ですが、一方でその深夜アニメというコンテンツの特殊性から、町民の全員が「ガールズ&パンツァー」に理解があるわけではなく(そもそも知っているのかということも含めて)、町全体を挙げた取り組みには発展していません。そして、今後もそういったことはないだろうとT氏は言います。

現在ですらこうなのですから、聖地化の取り組みがなされ始めた当初は言わずもがな。当初はアニメで町を活性化させることについて、商工会の中からも懐疑の声が根強かったと言います。

T氏いわく、ポスター、パネルの作成や配布、イベントのスタッフなどに必要な人員も不足していたようです。

そんな特に実動部隊として活動してくれたのがボランティアの人々でした。

そのきっかけは、T氏の経営する「クックファン」の常連3人が、どうやらアニメ好きであるらしいことにT氏は目をつけ、ボランティアとして協力してくれることを頼みます。

これが端緒となって組織化された「勝手にガルパン応援団」などのボランティア組織(※1)が、縁の下から大洗町の聖地化を支えていたのです。


加えて、大洗町の盛り上がりには、行政の果たした役割も無視できません。2013年の3月に開かれた大洗町の春まつり「海楽フェスタ」では、「ガールズ&パンツァー」とのタイアップ企画の目玉として、実物の七十四式戦車が登場しました。

これは、小谷町長の尽力の下、陸上自衛隊への協力を取り付けたことで実現したものです。

また、同年7月の海開きイベント「大洗海開きカーニバル」では、大洗町と港湾管理者である茨城県の連携の下、同様に海上自衛隊と陸上自衛隊の協力を得て、訓練支援艦「てんりゅう」の一般公開や、一〇式戦車の展示が行われ、これまで想定していなかった数の来場者が大洗町を訪れました。

このように、各行政機関が連携して取り組みを行うことで、商工会だけでは成しえない企画も実現することができたのです。ここには、行政の柔軟な対応と丁寧で粘り強い合意形成の姿勢が確認できます。


以上のように、大洗町には「ガールズ&パンツァー」というアニメがもはや欠くことのできない重要なコンテンツとして定着しつつあります。

これを踏まえた上で、今後、大洗町はどのような戦略の下動いて行くのでしょうか。目が離せません。


※1 この他にもボランティア組織は2つあり、大洗町には計3つの「ガールズ&パンツァー」関連のボランティア組織が存在することになる。


<参考文献>

・神山裕之、木ノ下健(2014)「地域におけるコンテンツ主導型観光の現状と今後の展望 : 大洗の『ガルパン』聖地巡礼に見る成功モデル」『NRIパブリックマネジメントレビュー』第131号。

・サークルちょこびゐる(2013)『EGAPPE? エガッペ?-最近ちょっと気になる茨城をあなたに-』第1号。

<http://chocobeer.3rin.net/Date/20130429/>。

・水野博介(2014)「都市メディア論⑫『アニメの聖地巡礼』諸事例(2)」『埼玉大学紀要 教養学部』第50巻1号。