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生命と数学: 食中毒の話

生態系には多くの数式が隠されているといわれています。それは生命が生き残るために進化の過程で試行錯誤した証なのです。

食中毒の話

 食中毒(food poisoning)とは、ごはんを食べたときに、細菌や動植物の自然毒、化学物質などが原因となって、急性におきる健康障害です。

 食中毒は人類の歴史とともにあり、たくさんの研究がなされました。毒草や毒キノコなどの自然毒については犯罪に使われることもありましたが、多くの食中毒については19世紀になるまで正体不明なままでした。

 日ごろ私たちが食中毒と呼んでいるのは、細菌性のものが多く、細菌性食中毒には、毒素型と、感染型があります。例として毒素型にはブドウ球菌(Staphylococcus)、感染型にはウェルシュ菌(Clostridium perfringens)が挙げられます。これら細菌性食中毒は、原因となる細菌が、野菜・生肉やヒトの皮膚に常在しており、それが食材という栄養豊富な場所で、適当な温度でどんどん分裂・増殖し、食物摂取時に感染型では体内で増殖し、毒素型では細菌の毒素によっておきます。


 【ブドウ球菌について】

 症状は嘔吐・下痢を伴う急性胃腸炎です。人生の中で”食あたり”として多くの方が経験されていると思います。食中毒の原因となるのはブドウ球菌の生産するエンテロトキシンという毒素で、食後1〜6時間(平均して3時間)で発症しますが、普通1〜3日で完全に治癒し、予後良好です。

 ブドウ球菌により食中毒が発生するためには、食品がブドウ球菌に汚染され、菌が増殖しやすい湿度・温度に一定時間放置される必要があります。エンテロトキシンを発生させやすい乳製品や、魚系練り物、豆腐に注意が必要です。おにぎりなどでも本中毒は置きます。

 本食中毒は年間を通じておきますが、ブドウ球菌の発育増殖に適した温度は30〜35度のため、6月から9月にかけて起きやすいです。約30分に一回分裂し、数十万個の菌体を摂取すると食中毒になります。おにぎりを手で握ることを考えてみましょう。人の手には数百万個の細菌が常在しています。手を良く洗っても数万個は残ることになり、夏のある日、湿度も温度も十分高い日におにぎりをにぎって、仮に500個の細菌がついたとしましょう。一時間後には500×2^2=2000個、二時間後には500×2^4=8000個、三時間後には500×2^6=3万2千個、四時間後には500×2^8=12万8千個!になってしまいます。十分食中毒を起こしうるだけ繁殖していることが分かりましたか?

 食中毒には十分お気をつけ下さいね。

 

参考:辺野喜正夫.細菌性食中毒、1959年

コラム4

進化とは何か?

長谷川眞理子 

『雄と雌の数をめぐる不思議』より

 生物の形や体の構造、生理的な働きを決定する情報は全て遺伝子の中に書き込まれています。発生の過程でそれらがひとつひとつ読まれて対応するアミノ酸と蛋白質が作られて生物の体を作り上げます。

 生物は互いに似通った遺伝子を持っている「種」というまとまりに分かれています。種の内部もまたいくつかの集団に分かれています。ヒトやネコやインコという鳥を見ても同種に属する個体は皆互いに良く似ています。それは多くの遺伝子が共通しているからです。種の枠を超えて多くの生物に共有されている遺伝子もありますが、種によって得意的な遺伝子の枠組みもまたたくさんあるのです。

 進化とは種を始めとする様々な集団の中の遺伝子頻度が時間とともに変化することをさします。魚から陸上生物が生じたり、恐竜から鳥の祖先が出て来たりすることを進化と言いますが、これらもまたある集団に生じた遺伝子頻度の変化ということなのです。