大学生のための英語学習ブックリスト: まとめ：英語帝国主義

日本の帝国主義と「脱亜入欧」における英文学の果たした役割を批判する、「英文学」学とでも言うべき一冊。
エドワード・W・サイードらのポストコロニアリズムの影響があり、日本における英文学研究に反省を促す研究書。
おすすめ度：★★★★★

ジェイムズ・ジョイス研究者による英語帝国主義批判の書。ジョイス『ユリシーズ』では、多言語を含んだ英語を用いることで、英語を内部から脱構築していた。一般に、英語帝国主義批判にはナショナリズム的なものもあるが、この本では、ナショナリズムを回避しながら英語帝国主義が批判されている。
おすすめ度：★★★★★

フランスの哲学者ジャック・デリダによる日本講演をまとめたもの。表題にある「他者の言語」は、外国語という「他者の言語」に関する講演の題名からとられています。
デリダによれば、テクストの翻訳不可能性＝両義性に直面すると、ネイティブにとってさえ言語は「他者の言語」となるといいます（279-280頁）。イギリスやアメリカで話される英語だけが「英語」なのではありません。インドで話される英語もあれば、留学生などの非ネイティブによって話される英語もあるのです。このように「母国語」中心のイデオロギーを相対化することは、他者性の尊重や英語帝国主義を越えることにつながるでしょう。
おすすめ度：★★★★★

フランスのポスト構造主義哲学者ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリによる大著『千のプラトー』。「国家装置」によって領土化された「条理空間」（国家など）を、「平滑空間」（沙漠など）へと脱領土化する「戦争機械」としての「ノマド」（遊牧民）の思想が語られている。上下関係や二項対立に基づく「ツリー型」の秩序ではなく、「根」のように自由に他の項と結びつき逸脱していく多様体「リゾーム」（根）としてのアナーキーな秩序が示されている。

第4章「一九二三年十一月二〇日―言語学の公準」は、ドゥルーズ＆ガタリの言語論となっており、「英語」についても示唆に富む。

「一つの言語の世界的帝国主義を、それが他の言語にもたらす頽廃を告発することによって批判しても無駄である（中略）。なぜなら、英語あるいは米語のような言語は世界のあらゆる少数民族によって、実に多様な変化によって影響されなければ、世界的にメジャーであることはできないからだ。ゲール語や英アイルランド語が英語を変化させる仕方。黒人英語や数々の「ゲットー」が、米語を変化させ、ニューヨークがほとんど国語のない都市になってしまう仕方（そのうえ、英語とちがって米語は、少数派のこのような言語的活動なしには成立しなかった）」（122頁）。

英語（イギリス英語）／米語（アメリカ英語）がメジャー言語足りえているのは、黒人、あるいは植民地の人々によって話されてきた多様な英語があったからだった。そのようなマイナー言語なしには、英語というメジャー言語は存在しえない。大切なのは、黒人英語や植民地の英語を、地方主義的にローカルな英語として見なさないことなのであって、ローカリズムやナショナリズムの道具にしてはいけないということだ。むしろ、他の言語との結びつきによる言語自体の生成変化としての「クレオール」に注目することで、メジャー言語自体を脱領土化することである。

現在では、アメリカから商品の「お客様相談センター」に電話をすると、インドに繋がったりすることもあるようだ。そして、日本から「お客様相談センター」などに電話をすると、中国に繋がったりする。つまり、インドや中国ではビジネスとして、規範的な「英語」や「日本語」が強制されているということだ。ビジネス・レヴェルでの言語の強制は、旧植民地に対する帝国主義と同義である。日本人がいくら流暢に「ビジネス英語」を話したところで、まったく「国際的」ではない。

逆に、多様体としての言語の生成変化は、むしろ文学の世界で表現されてきた（例えば、ジェイムズ・ジョイス）。母国語ではない言語による文学を、ドゥルーズ＆ガタリは「マイナー文学」と呼んだ。それについては、ドゥルーズ＆ガタリによる『カフカ―マイナー文学のために』（1975）に詳しい。
おすすめ度：★★★★★