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私の卒論ができるまで: 古川琢磨(九州大学文学部・2015年卒): Q&A

九州大学の図書館でティーチングアシスタントとして働く院生が学部時代に卒業論文にどのように取り組んだかを紹介します。

目次

初めに

  • 私の卒論シリーズ
  • 今回の先輩は古川琢磨さん

 

どんなことを書いたか

  • 卒論の内容と長さ

 

できるまでの道のり

  • 最終提出までのスケジュール
  • ここがポイント
  • 卒論企画書の例

 

Q&A

  • 普段の生活との両立
  • 活用したツール

 

終わりに

  • オススメ本
  • 後輩へのメッセージ

 

おまけ

  • 卒論の内容をもっと詳しく

このガイドの作成者

普段の生活との両立

Q1. サークル、バイト、就活、授業など普段の生活とどのように両立しましたか?

 

A1. 特に4年次に関してお答えします。

 

・授業: 卒論以外の単位を取り終えていましたが、前期は指導教員の演習や関心のある授業、文学部司書課程の科目を計6コマ(うち1コマはクォーター科目)、後期は司書課程の科目を3コマとっていました。僕の場合は司書課程の授業を受け始めるのが遅かったのですが、2年前期から受講している人は早ければ学部3年次に司書課程の全単位が揃う見込みです。

 

・サークル: 精力的に活動していました。これまでより執筆量がやや落ちたものの、年間を通して単著の短編小説・評論(10-20ページ)を計3本書き、秋に開催された九大祭への出展企画にも参加しました。年末年始は3日で小説を1本書きつつ、来たるべき推敲の作業のために頭をリフレッシュさせました。

 

・院試: 5月頃から試験対策に着手し、研究の傍ら毎日1-2時間は院試関係のことをやるようにしていました。僕が受験した九大大学院人文科学府には専門分野の試験とは別に外国語の試験があり、言語・文学専攻英語学・英文学専修の場合は英語以外の言語を選びます。僕は学部2-3年次に学んでいたドイツ語を選択し、独文和訳の問題に対応すべく単語をひたすら暗記していました。8月に入ると、専門分野を含めた院試対策を集中的にやりました。

 

・バイト: 継続的なバイトは出来ておらず、九大生協書籍店の棚卸しなどの一日完結型のバイトが見つかれば応募して勤めました。言い訳じみていますが、継続的なバイトを持てていなかったからこそ、大学院進学と同時にCuterに応募する余力があったのかもしれません。

 

 

Q2. 研究室には一日何時間滞在していましたか?

 

A2. 平均して7-8時間です。平日は午前9時から12時の間に来て、午後5時から9時の間に帰っていました。本文執筆シーズン(12月)に入ると、滞在時間を10-12時間に延ばしました。

英文研究室を含めて、人文社会系の研究室のほとんどがコアタイムを設けていません。必要な文献を図書館で借りるなどして手元に揃え、自宅や図書館で研究を進める人もいます。ただ、僕は主に研究室で研究していました。文学部の研究室は各種辞典・事典や研究書、パソコンを備えているだけでなく、学生同士の交流の場でもあります。そこで僕は孤独にテキストと向き合うだけでなく、院生の先輩に質問・相談をしたり、同期や後輩とコーヒー片手に談笑したりして一息つくこともありました。自主的に研究室に行くと大抵美味しい思いが出来ます。

活用したツール

Q1. 卒論に取り組むために特別に活用したツールはありますか?
    図書館って卒論に役に立つんですか?

 

A1. 普段どこで研究を進めるにしろ、図書館が所蔵する資料や提供するツールに助けられます。

 

i. 作家事典

特に盛んに研究されている作家に関しては、日本語や英語で事典が出版されています。作家の生涯や各作品の概要、キーワード、主要な先行研究が網羅的にまとめられているため、テーマ探しや文献集めの際に参照すると有益です。

マーク・トウェインに関しては、『マーク・トウェイン文学/文化事典』(朝日由紀子[ほか]編、彩流社、2010年)という事典が日本語で出ています。

 

ii. 文献を探すためのツール

論文を探す際、僕は九大図書館の検索ツール「世界の文献」"Google Scholar"を使ったことがあります。特に電子ブックや電子ジャーナルの論文を集める際には、九大図書館が作成したCute.Guides「電子ジャーナルの探し方」及びその末尾にある九大で使えるeリソース利用ガイドのリンク集が有用です。用法を守れば、九大が契約している大量の電子ブックや電子ジャーナルを存分に使うことが出来ます。

ただ、僕は紙媒体の図書や論文を中心に使いました。文学系の論文は情報の鮮度が比較的長持ちします。50年前の文献が当然のように引用され、他の作家や批評家による100年前の書評が参照されることもあります。僕が先行研究を読み始める際には指導教員から最初に読む論文のコピーを1点頂きましたが、その論文で用いられた文献を末尾にある文献リストから探して芋づる式に読んでいきました。いくつか読んでいくと、自分が扱う作品やテーマに関する「研究史」がおぼろげながらも見えてきます。卒論レベルでは、最新の論文も参照出来ればより望ましいのですが、先行研究を系統的に読んで研究史を把握することが出来れば充分評価されます。

各作家・作品研究における重要な文献は、文学研究でよく参照される論文集シリーズ"Cambridge Companions to Literature"に収録されていたり、それらの論文集の中にある参考文献リストに記載されていたりします。最新の論文であれば、研究室にある学術雑誌の新刊を眺めて探すことも出来ます。特定の作家名を冠した雑誌だけでなく、トウェインの場合はより射程の広い"American Literature"や"English Literature"と名の付く雑誌に論文が収録されていることがあります。

 

iii. 文学系英語論文の書式ガイド

文学系の論文を英語で書く際の書式の中では、米国現代語学文学協会 (Modern Language Association of America) が指定するMLAスタイルが有力です。このスタイルについてまとめたMLA Handbookが定期的に刊行されており、2019年時点での最新版は第8版(2016年)です。英文研究室にも卒論に必要なMLAスタイルについて簡単にまとめたマニュアルがありますが、これだけでは足りないこともあるため、ぜひMLA Handbookを参照しましょう。

MLA Handbookは日本語にも訳されていますが、翻訳されるまでタイムラグがあり、情報が古くなっていることがあります。原著の最新版を図書館で借りたり自分で購入したりしましょう。1,800円前後で購入出来ます。MLA Handbookに用いられる英語の語彙や言い回しはある程度パターン化されているため、皆さんの読解力と辞書を調べるリテラシーがあれば充分に読みこなせます。勇気を出してあたってみましょう。

 

図書館の中のイラスト

 

Q2. 手持ちのツールで特に使ったものはありませんか?

 

A2. 原書を通読する際にはA4-A3サイズのような大きめの裏紙をメモ用紙として準備しておき、卒論に使えそうな箇所があれば①引用や要約、ポイントと思った点そのページ数を書いていきました。A4用紙一枚を横書き二段組みのレイアウトにし、文字を小さめにして一段あたり50行分のメモを箇条書きで残していくと、最終的にはA3一枚とA4一枚分の分量(300行相当)になりました。これに番号を振ってトピックごとに分類すると、1つのトピックが卒論の各章の原型となりました。勿論、メモはしたものの卒論では引用・言及しなかった箇所も多数あります。修論では紙ではなくパソコンを使ってメモを作りました。

勿論、メモの取り方は他にもあります。例えば、四角型の付箋に大きな字で一つの事項をメモしていき、その後関連する付箋同士をパズルのように繋ぎ合わせることによって論を組み立てていく人もいます。これは発想法の一つであるKJ法に相当します。

卒論を書いていた頃の僕は主に研究室のパソコンを使って執筆していました。自分のノートパソコンは自宅に置いたままで、研究室で書き進めた卒論データのパックアップファイルをこまめに保存していました。誤って卒論データを消去したり、古い方のファイルで新しい方のファイルを上書きしてしまったりすることがあるからです。卒論の頃は本と比べて重いパソコンを持ち運ぶのを億劫に感じていましたが、大学院に入って学習スタイルを切り替え、ノートパソコンを大学に持ち込んで研究を進めていました。研究室のパソコンはあくまで共用の物ですので、自分で自由に使えるパソコンを携帯していた方が便利でした。

 

 

Q3. 様々な出版社が原書を出版していますが、どれを選べばいいのでしょうか?

 

A3. 特に盛んに研究されている作家の場合、その作家の研究者が必ずと言っていいほど使っているテキストシリーズが大抵は存在します。トウェインの場合、カリフォルニア大学出版局 (University of California Press) の"The Works of Mark Twain"シリーズが定番です。こういったシリーズでは、最新の草稿研究に基づいて「作家が意図したものにより近い」テキストが編集され、注釈や文献情報も充実しています。また、データベース"Mark Twain Project Online"で上記シリーズの電子版の無料公開が進み、単語検索の機能も付いています。

 

 

Q4. 原書を読む時に翻訳を使いましたか?

 

A4. 僕の卒論では、角川文庫に入っている『アーサー王宮廷のヤンキー』(大久保博訳、角川書店、2009年)を購入し、辞書を引いても意味が取れない箇所の訳を参照しました。過度に翻訳に依存して原文をおろそかにするのでなければ、注釈書のようにして使っていいと僕は考えます。同じ作品に複数の翻訳がある場合、どの訳が誤訳が少なく学術的に信頼出来るのかを、指導教員に尋ねたり作家辞典などを参照したりして調べられます。

 

 

Q5. 「できるまでの道のり」で挙げられた辞典・事典を再掲してください。

 

A5. 以下にリストアップします。他にも、様々な種類の辞典・事典があります。

 研究社Online Dictionary自分のSSO-KIDでログインして使用

 Oxford English Dictionary OnlineSSO-KIDでログインすれば学外でも利用可能

 八木谷涼子『なんでもわかるキリスト教大事典』(朝日新聞出版、2012年)

 

 

Q6. 文学研究で使う考え方や文学系の英語論文で使う表現についての本はありませんか?

       読書感想文と論文はどう違うんですか?

 

A6. このガイドの「終わりに」で紹介しています。

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オススメ本 その1――文学作品の分析方法

オススメ本 その2――英語論文の書き方

後輩へのメッセージ