私の卒論のタイトルは、「植物進化的観点からみた異常環境ストレス下での藻類プロトプラストの細胞壁再生」です。
内容を簡潔にまとめると、藻類に分類されるミカヅキモから得られたプロトプラスト(植物細胞から細胞壁を取り除いた細胞)を、様々な培地条件で培養し、その細胞壁再生挙動について検討しました。
さらにざっくり言うと、「ミカヅキモを色んな培地で育ててみた!」という感じですね~
(ミカヅキモプロトプラストの写真、まん丸でかわいい)
プロトプラストは“植物細胞から細胞壁を取り除いた細胞”であり、これらを使えば細胞壁が形成される様子を0から見ることができます。陸上植物のプロトプラストを用いた環境ストレス応答の研究はすでに行われていたのですが、陸上植物以前の植物についての検討はまだ行われていませんでした。よって本研究では、植物の進化の歴史から見て、陸上植物よりも原始的な植物である藻類を対象に検討を行いました。そして藻類の中でも、遺伝情報が陸上植物に最も近縁であると報告されている接合藻類に分類されるミカヅキモを用いました。
実験の結果、ミカヅキモプロトプラストは高濃度のCa²⁺を添加した培地条件下でも、ほぼ完全に細胞壁を再生することができました。先行研究より、陸上植物のプロトプラストは高Ca²⁺濃度下では細胞壁を再生する能力が著しく低下するということが報告されています。以上より、藻類と陸上植物のCa²⁺に対する応答性(=環境ストレスに対する応答性)には違いがあることが分かりました。
はるか昔、植物は海で生息していましたが、進化の歴史と共に植物は陸上へと進出しました。ここで、海と陸上における生育環境の違いについて考えてみると、海水にはNa⁺、Mg²⁺、そしてCa²⁺といった様々な塩が溶け込んでいることから、海におけるCa²⁺濃度は陸上よりも高くなることが予想されます。よって、海を主な生息環境としている藻類は、高い塩濃度下でも細胞壁を形成することができる機能が備わっており、陸上への進出を境にして、植物の塩耐性は低くなったということが考えられます。
以上のことから、藻類は「陸上環境への適応」という点で陸上植物と進化的に大きく隔たりがあり、植物の生育環境の違いが環境ストレスに対する応答性に影響するのではないかという、植物のストレス応答に関する新たな知見を得ることが出来ました。
ちょっと小難しい話になってしまいましたね。つまり「“ 陸上への進出 ”をボーダーラインとして、植物のストレス応答には違いが出るのではないか!?」ということが本研究より示唆されました。
(卒論発表で用いた研究のまとめスライド、卒論執筆よりもスライド作りの方が大変でした)
私の卒論の分量は、25ページ(5457文字)でした。ほかの人と比べると割と短い方だと思います。卒論は文章量が多ければ多いほど評価が高くなるわけではないと思うので、しっかり自分の研究について伝わるように書けていたら十分だと思います。他の人と比べて、「全然書けてないなぁ」と思い悩む必要はないですし、それよりも「文章の構成はおかしくないか?」「実験結果や自分の主張が適切に伝わるような表現になっているか?」というところを重視して書き進めていくことが大切です。
ここからは、私の卒論ができるまでの道のり を、
● 卒論のテーマ決定方法
● 研究の進め方(~11月:部活動生中)
● 研究の進め方(11月~2月:部活引退後)
● 卒論執筆について
の順に、実体験を織り交ぜながら書いていきたいと思います。卒論完成までのスケジュールも載せているので、そちらも見ていただけたらと思います。
● 卒論のテーマ決定方法
私の研究室では、教授・准教授・助教の3人の先生方から提案された6つのテーマの中から1つ選ぶ形でした。それぞれのテーマについて詳しい説明を受けた後、同期で話し合ってそれぞれどのテーマを選ぶかを決めました。同期は私の他に3人いたため、他の人と希望が被らないかヒヤヒヤしましたが、全員が違うテーマを希望したのでスムーズに決定しました。
● 研究の進め方(~11月:部活動生中)
部活動に所属していた時は、平日17:00~21:00で週2.3回練習があり、土日も練習や試合がありました。研究室では、火曜日に研究の進み具合について報告する"進捗報告会"、木曜日に担当者が英語の論文を選びその内容を紹介する"ゼミ"がどちらも毎週14:00~からあり、部活動との兼ね合いからまとまって実験できる時間があまり取れませんでした。特に、自分が進捗報告会やゼミの発表順番の時は、スライドの準備にも時間がかかるため、時間のやりくりが非常に大変でした。
卒論に取り組むうえで、犠牲にしなければならない時間があることはもちろんわかっていましたが、私としては、大学4年生というのは部活動ができる最後の年でもあったため、部活動にも手を抜きたくはありませんでした。研究に関する時間が十分に確保できない中でも、部活動前後の時間や移動時間等をうまく使いながら、卒論を進めていきました。
● 研究の進め方(11月~2月:部活引退後)
ここからがやっと本格的な卒論の始まりです。今まで部活動に割いていた時間をすべて研究へとシフトし、年明けてからは土日も学校に来る日々が続きました。部活動生の時に、もう少し研究に時間を費やしていればここまでのハードスケジュールにはならなかったと思いますが、自分としては部活動にも研究にも全力を注げたので後悔はしていないです!
● 卒論執筆について
私は農学部の地球森林科学コースに所属していましたが、卒論発表会は2/13に実施され、卒論提出はその一週間後の2/20が締め切りでした。卒論発表会後に卒論の執筆を始めましたが、発表の内容を文章に起こすことが中心だったので、意外と1週間で書き終わることが出来ました。私の場合、【卒論発表→執筆】の順だったので、圧倒的に卒論発表の準備にかける時間の方が多かったです。文章の添削は研究室の先輩にお願いし、またデータの見せ方や卒論の構成など様々なアドバイスもいただいて、無事完成しました。
時期 | やったこと |
2018年 10月 2019年 4月 7月 8月 9月 11月 12月 2020年 2月初頭 2月中旬 3月 |
高分子材料学研究室に仮配属。 研究室に正式に配属。卒論テーマ決定。 第一回中間検討会で、7月までの進捗状況と今後の研究計画の発表。 大学院入学試験を受験。 第二回中間検討会で、夏休み期間中までの進捗状況と今後の研究計画の発表。 女子ラクロス部を引退。(ちなみにここまで実験データはほぼゼロ) 第三回中間検討会で、卒論発表における大まかなストーリーの流れを決定。 研究室で卒論発表合宿が実施。 農学部 地球森林科学コース 卒論発表会が実施。 卒業論文の提出。 |
【卒論に取り組む上でよかったポイント】
こうしてみると、めちゃくちゃドタバタなスケジュールであったことが伝わると思います...その中でも無事にやり遂げられたのは、「研究室で頻繁に進捗報告会が行われていたこと」、そして「先輩方の手厚いサポートがあった」からこそだと思います。
こまめに進捗を確認する機会があり、実験の手法・実験データ・今後の研究計画などに関する意見をたくさんの人から頂けたため、自分の研究の方向性や進め方について定めやすかったです。また、先輩方に気軽に質問や相談ができる環境であったため、研究で行き詰まった時に頼れる存在がいて本当に心強かったです。
【ここは修正するべきだったポイント】
私は部活引退後の11月から本格的に研究を取り組み始めましたが、今思い返しても結構なハードスケジュールでした。そうならないためにも、やはり部活をやっている間でももう少しできたことがあったのではないかと感じています。先行研究についての論文をしっかりと読み込んで、研究の具体的なイメージをつかんでおくことや、引退してからスムーズに実験が始められるように道具や試料等の準備は早めに始めておくべきだったと思います。
何事においても、「準備」は肝心です。一番望ましいのは、部活動と研究を完璧に両立しながら進めていくことですが、私のように時期によってしっかりと取り組むべきことを分けて進めていきたいという人は、いざ研究を始めるという時に最高のスタートを切ることができるよう、できることから始めていきましょう!