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★樹状細胞とiPS細胞: iPS細胞って?

医学部の授業は座学ばかりで皆さんお疲れさまです。今日は実際に学んだことが世の中でどう生きているのか少し見てみましょう。

細胞とは

 細胞とは、生体を形作っている最も基本な構造単位で、動物であれば細胞膜で外界と境界を作っています。細胞膜の中には遺伝子情報を持つ核や、生態系のエネルギーを作るミトコンドリア、体のパーツ合成する足場のリボソームなど様々な細胞小器官が含まれます。

 人間はおよそ60兆個の細胞からできているといわれていますが、例えば血液の細胞や肝臓の細胞、眼の細胞や髪の細胞はそれぞれ異なる形や働きをもっており、その細胞が集まって組織や臓器となるのですから、臓器が悪くなったからといってほかの臓器から持ってきて補うというわけにはいきません。

 そこで失ってしまった働きを取り戻すために、同じ働きを持つものを用意して代替します。たとえば肝不全の患者さんが家族から生体肝移植を受けたり、白内障の患者さんが濁った水晶体の代わりに人工のレンズを入れたり、髪が寂しい人がかつらを用意したりするわけです。


移植と免疫

 人間は、異物やウイルス、細菌などの攻撃から身を守る手段を持っています。つまり、「非自己」から「自己」を守る手段として免疫があります。多くの場合免疫は感染症から身を守り、怪我の治りを速くします。

 輸血や移植された臓器は、もとから自分の中にはないものなので、免疫でそれを排除しようとするのですが、その機構が過剰に働くと、血栓ができたり炎症が起きた末に多臓器不全になってしまいます。そうならないために輸血では血液型で有名なABO抗原やRh(D)抗原といったものを考慮して「自己」と認識できるものだけを移植したり、臓器移植ではHLAという白血球抗原が似た型の患者からの臓器を使ったり、拒絶反応を防ぐために血漿交換や免疫抑制剤の投与を行います。臓器移植では多くは家族からの提供がありますが、それはHLAの型が両親から少しづつ遺伝するためです。血縁のないドナーからの移植ではHLAの型が似た人を探すのはとても困難です。

 移植はとてもリスクを持つ行為で、努力をしても拒絶反応が出ることもあるし、生体移植ではドナーの臓器が不全になることもあり得ます。人工の代替臓器を使っても血栓ができやすいので薬を飲み続けないといけなかったり、臓器提供者の絶対数が少ないこともあり人工で生理的な臓器ができないかということが課題になっていました。

細胞の分化

 人はさまざまな種類の細胞でできていますが、それぞれの細胞を取り出してきて培養しても同じ種類の細胞しか生まれません。それは、細胞それぞれが、分化という遺伝子のうちある領域しか使わないという決まりを持っているからで、いったん分化した細胞はその決まりに従って細胞分裂をするからです。

 

 また、細胞分裂のタイミングも遺伝子によってプログラミングされており同じ周期で細胞が増えるようにコントロールされています。これは安定して同じ種類の細胞が生み出されるということや、細胞が不足になったり過剰になったりしないという利点を持ち、臓器が傷ついたときには元に戻るし悪性腫瘍や過形成を防ぐ能力があるといえます。

iPS細胞

 iPS細胞は人工多機能幹細胞(induced pluripotent stem cell)の略語です。

 多機能幹細胞とは、多くの異なった細胞型に分化できる能力(=多能性)を持った細胞のことです。たとえば受精後の胚細胞由来の細胞は非常に高度な多能性を持つことが知られていました。その後胚性幹細胞の多能性に関係する遺伝子が何十個か発見されました。

 ノーベル医学生理学賞の受賞で有名な、山中博士の研究はご存知ですか? 山中博士は2006年にマウスの細胞で、2007年にヒトの細胞でこの多能性に関する新しい発見をしました。それは何十個かの遺伝子群のわずか4つの因子を使うことで、すでに分化した皮膚細胞に多能性を誘導できるというものです。山中博士が4つの因子既に分化を終えた皮膚細胞に導入したところ、細胞が皮膚細胞に分化する前の未分化な細胞として、胚性幹細胞とほぼ同じ性質の細胞に変化したのです。

 このiPS細胞は新たな治療手段になる可能性があります。考えられる治療法としては、患者の皮膚細胞を単離して、iPS細胞に変えた後、次に目的の細胞型に分化させれば患者に移植できるという考えです。ここで分化された細胞は生体の臓器に近いものを作ることができ、拒絶反応のリスクも下がり、何より疾患のケースごとに提供可能になればドナーからの提供の順番待ちもしなくていいのです。次にiPS細胞が可能にする移植の例を挙げたいと思います。

 例えば神経細胞が再生できれば、腕や足の神経が変性して動かなくなった人に新 しい神経を移植することで、日常生活を取り戻させることが理論上可能です。神経は一度変性すると新しく再生しにくいですし、何しろ他人から移植して もうまく機能しません。自分に近い神経だからこそうまくいくのです。またiPS細胞で赤血球が再生できれば、難病の貧血や白血病の人も簡単に輸血ができるようになります。このようにiPS細胞の研究はまだ初期の段階ですが、ありふれた病気や新しい病気の治療法につながる可能性が大いにあります。


コラム2

聴診器の話

医学生は意外と出費が多いのです。

教科書は一冊一万円とかざらです。

数か月しか使わないから買わずに借りるとか先輩からもらうとかいうのもいい手です。

でも一生モノの買い物も時にはあります。

聴診器は1万数千円しましたが、メンテナンスさえすればずっと使い続けられます。

年配のお医者さんも学生と同じものを使っているとこも見たし、きっとこれから長いパートナーになることでしょう。

ちなみに今呼吸音を聞くのがとても難しく、大変苦労しています。

だれか聴診の練習に付き合ってくださいませ。

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