どこでもドア、カワイソメダル、もしもボックス、いやなことヒューズ、先取り約束器、ムードもりあげ楽団、ツーカー錠、タイムカプセル、どくさいスイッチ、四次元ポケット。
どんな道具か忘れたものもあるにしろ、これだけ並べば誰の道具かわかりますよね?
そう、ドラえもんです。
実は辻村深月は大のドラえもん好きということでも有名なんです。
今回のこの並び、これがそのまま”凍りのくじら”の各章のタイトルになっています。タイトルの道具がその章で描かれる物語を端的に表していて、その妙技に舌を巻いてしまいます。作中の随所に作者の藤子世界への細やかな愛情を感じることもできます。
”Sukoshi・Fuyuu(少し・浮遊)。地面から2,3ミリ浮いてる感じがする”と言われることもあるという現実から少し浮いたような作者ですが、この作品も少し不思議なミステリーとなっています。
現実にないSFでもあり、ミステリーでもあって、それでいて心の描写は鋭く繊細に描かれていて、なんだかこの気持ちわかるなぁと沁みてきます。時にそれはじんわりと温かいばかりでなく、自分もこんなものかもしれないとするどい痛みのように刺さることもありますが…。
そんなリアルではないけど、リアリティにあふれた所も辻村作品が人を引き付ける所以なのではないでしょうか?