まず、見出しにある「パワースペクトル」について紹介したいと思います!
前回のガイドでは「音の波形」を使って、
「音の大きさ」や「音の高さ」についてお話ししました。
ここでは、新たな見方で音を見直してみましょう!!
その新たな見方というのは、次のように
音のグラフの縦軸を「音圧レベル」に、
横軸を「周波数」に取り直すことをさします。
なお、この図は上が低い音を、下が高い音の場合を示します。
そして、この図の右側のグラフが「パワースペクトル」です。
「パワースペクトルは、棒グラフの一種だ」
と考えていただくとわかりやすいかもしれません。
図の左側の「音の波形」に、どの周波数がどれくらい含まれているかを表します。
たとえば、低い音の場合だと、2 Hzが一番多く含まれており、
その次に多いのが 4 Hz、そのまた次に多く含まれるのが 6 Hzだということです。
(なお今は、棒グラフのそれぞれの高さは適当に決めていますので、
棒グラフの高さに深い意味はありません。)
ここで、前回のガイドを読まれた方は疑問を感じるかもしれません。
なぜなら、「音の高さ」つまり「周波数」は
1つの音に対して1つしかないはずなのに、
音を「パワースペクトル」に表すと、
周波数がたくさん存在することになってしまうからです。
この疑問を解決するために、「パワースペクトル」の特徴を説明しましょう!
「パワースペクトル」には、大きく2つの特徴があります。
一つは、棒グラフ内の最左の縦棒の位置が
「波形の周波数」と対応していることです。
低い音の場合は、最左の縦棒の位置が 2 Hz のところにあり、
高い音では、最左の縦棒の位置が 7 Hz のところにあります。
つまり、「音の波形」での1秒間の繰り返し回数と同じであることがわかります。
もう一つの特徴は、パワースペクトル内の縦棒の間隔も
「波形の周波数」と対応していることです。
すなわち、低い音であれば、
2 Hz の倍数である 4 Hz、6 Hz、8 Hz…も「パワースペクトル」に現れ、
高い音であれば、
7 Hz の倍数である 14 Hz、21 Hz…が現れることになります。
この2つの特徴のために、「パワースペクトル」では、
周波数がたくさん存在しているように見えるのです。
ここでは、前ガイドの「『ハモる』とは何だろうか?」の冒頭で述べた、
「音にはたくさんの『高さ』が含まれている」について詳しくお話しします。
普段「ドの音」として聞いている音には、
実は「ソの音」が融合しているのでした。
そして、そのからくりは、次のように音の波形が上手く融合していることでした!
この図で大切なことは、2つの音が上手く融合した場合には、
融合後の音の「波形の形」は融合前と異なるけれど、
「音の高さ」は融合前と同じ(今の場合は「ド」と同じ)であるということです。
これをパワースペクトルの視点から改めて見ていきましょう!
上のそれぞれ3つの音をパワースペクトルとして表し直したものを右に載せました。
この図を見ると、パワースペクトル内の縦棒の位置や間隔は、
融合前(今の場合は「ドの音」)と融合後で変化していません。
すなわち、波形の1秒間での繰り返し回数である「周波数」は
変化しないことを意味します。
一方で、「ドとソがまざった音」は、
もとの「ドの音」に比べ、縦棒の高さが変化しています。
実は、パワースペクトルの縦棒の高さは、左図の「波形の形」と対応しており、
波形の変化は縦棒の高さの変化として現れます。
したがって、パワースペクトルを用いても、
「波形の繰り返し回数である『周波数』が変わらないこと」と
「波形の形自体は変わること」の2つを説明できることがわかりました!
勘の鋭い読者のみなさんは、もうお気づきかもしれませんが、
「ドの音」のパワースペクトルの一部(左から3番目と6番目の縦棒)と
「ソの音」のパワースペクトルがちょうど同じ位置に存在するために、
こういったことが起こります。
つまり、「音にはたくさんの『高さ』が含まれている」というのは、
今の場合、「ドの音」のパワースペクトルの一部が
「ソの音」のパワースペクトルそのものになっていることであり、
このことが融合の重要なポイントになっている訳です!!
最後に、実際のパワースペクトルを載せておきます!!
これはパイプオルガンのものです。
出典:吉川茂ら 編著,音響テクノロジーシリーズ13 音楽と楽器の音響測定
さて、上の説明での「波形の形の違い」について、もう少し考えてみましょう!
「音の高さが同じで、波形の形が異なる音」の波形の形の違いは、
パワースペクトルでは、次のように縦棒の高さが違うのでした。
では、ここに赤色で補助線を書いてみましょう!!
補助線を書いてみると、以下のようになります。
ここで、左右2つの補助線の違いを見てみましょう!
左図の補助線は右下がりになっています。
一方で、右図の補助線は山が2つ存在するような形になっています。
これらの補助線は、2つの音がどのような特徴を持っているかを表します。
たとえば、左図の音では「最左の縦棒が最も高い」という特徴を、
右図の音では「左から3番目と6番目の縦棒が突出している」という特徴を
表すことができます。
このような補助線のことを「 包絡線(ほうらくせん)」といい、
包絡線の表す山や谷などを「 包絡(ほうらく)」といいます。
特に、パワースペクトルの包絡のことを「スペクトル包絡」と呼びます。
実は、この「スペクトル包絡」が「音の形」なのです!!
今の例では、「スペクトル包絡」が
どのような恩恵をもたらしてくれるのかわかりにくいと思いますが、
次ページでは、この「スペクトル包絡」が
「音を形作っている」ことを見ていきます!!