陸上で船体を作る場所を総称して、船台と呼びます。船台は大きく分けて、スロープ(狭義の船台)か、地面を掘って作ったドックの2種類があります。スロープ式船台では、漁船など小型の船から数万総トンの船まで建造されます。それ以上の大型船の場合、ドックで建造されるのが一般的です。ドックは、図のように地面を掘って作られ、入り口の門によって水面と隔てられています。
現在、船の建造法は、船体をいくつかのブロックに分けて同時に建造し、最後につなぎ合わせる、ブロック式建造法が一般的です。ブロック式建造法は、第二次世界大戦時に、アメリカで輸送船を効率よく建造するために採用されたのが始まりでした。
「リバティ船」とよばれたこの規格型輸送船は、当時としては画期的なブロック工法と溶接が採用され、1941年から1945年のわずか5年間のあいだに、2710隻が建造されました。
リバティ船の1つ「ジョン・W・ブラウン」(出典:Wikipedia 「リバティ船」)
ブロック式建造法以前は、船台に船の下から上に順番に骨組みを組んでいく、一体型建造法によって船が建造されていました。この方式では、船の下が出来上がるまで、上の方は作れません。
ブロック式建造法なら、同時に複数のブロックを作ることができるので、工事期間を短縮することができます。また、船台を専有する期間が、ブロックのつなぎ合わせ期間だけですむので、一つの船台でより多くの船を建造することが可能になります。
船体の加工は、まず素材の鋼板や鋼材に切断や曲げ、部材取付の目印になる線を引くマーキングからはじまります。現在この工程は、NC切断機によって機械化されており、マーキングと切断が同時に行われます。
曲げ加工は、冷間加工と熱間加工に分けられます。冷間加工は、プレス機やローラーを使って鋼板を曲げるものです。熱間加工は、ガスバーナーによる加熱と水による冷却を繰り返すことで、鉄を膨張・収縮させながら曲げていくものです。
熱間加工(ぎょう鉄)の仕組み
曲げの工程は造船業のなかでも特に作業者の経験や勘、ノウハウに依存している工程で、技能の伝承に非常に時間がかかるものです。そのため、より高度かつ効率的な人材育成を進めるため、近年では、3Dバーチャルリアリティ技術を活用した造船技能訓練機の開発も進められています。
(参考:造船業における人材の確保・育成 https://www.mlit.go.jp/common/001053849.pdf)
かつては、鋼船の部材同士の接合には、リベット(鋲)が用いられていましたが、現代では一般的には溶接によって接合されます。一般的な鋼製の船では、電気溶接が用いられています。電気溶接による接合は強度が高く、密閉性にすぐれ、また材料や工数を減らすことができ経済的にも優れているといった利点があり、造船技術のなかで最も重要な技術の一つです。
切断や曲げを行った部材を接合していき、段階的に大きなブロックにしていきます。各段階は、小組立、大組立、総組立と呼ばれています。最終的にドックや船台の上でブロックを取り付けていき、船型が出来上がっていきます。
船をはじめて海に浮かべることを進水といいます。進水式は、船の建造における記念すべき重要なイベントです。
進水式のようす(出典:写真AC)
スロープ式船台での進水は、巨大な船体がスロープを滑り降りていくため、大変迫力があります。特別なイベントとして大々的に行われ、進水式と同時に船の命名をします。一方ドック建造では、ドックに水を注入して船を浮かべるのですが、これは地味な作業なので進水式は行わず、船の完成時に命名・引き渡し式を行うことが一般的です。
進水した船を岸壁に係留して、色々な装置や備品を取り付け、船として使えるようにしていきます。
これを艤装といいます。
艤装は、船体艤装、機関艤装、電気艤装の3つに分けられます。
1. 船体艤装
機関・電気を除く船全体の取り付け工事です。荷役装置やハッチカバー、係留装置の他、居住区の内装工事なども行われます。
2. 機関艤装
エンジンやタービン、ボイラー、プロペラといった推進機関に関連する部分の据え付けや配管工事を行います。
3. 電気艤装
船全体の電気配線や、電気機器の取り付け、また操船に必要なレーダーや通信機器の取り付けを行います。
また、ブロックを製作する段階で、あらかじめ配管などをブロックに取り付けておくといったことも行われています。
これを、先行艤装といいます。
工事がすべて完了すると、海上での試運転が行われます。一般的に2日から5日ほどをかけて、主に以下の3つの項目をじっくり試験していきます。
1. 性能および保証値の確認
契約書通りの性能が出ているかの試験です。振動や騒音の計測や速力の試験が行われます。
2. 操縦性能の確認
旋回力の試験や、緊急停止の試験が行われます。
3. 装備品の試験
艤装などで装備された機器が規則を満足しているかが確認されます。
また、この際にヘリコプター等をチャーターし、船の空撮を行うことがよく行われています。
近年ではこの空撮にドローンを導入する試みも行われています。
海上公試のようす(出典:A" LINE/フェリーができるまで)
そしてすべての試験が終わり、契約された引き渡し日が来ると、引き渡し式が執り行われ、船が造船所から船主に引き渡されます。
引き渡し式には、地域の代表者や市民、楽団が参加することもあり、たいへん大々的で華やかなイベントです。
無事に引き渡し式が終わると、船は岸壁から離れ、そのまま処女航海の旅へ出ていきます。
造船所や船主関係者にとっては感慨深いひとときとなります。
引き渡しを終え、岸壁を離れるバラ積み貨物船(著者撮影)