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アニメと聖地巡礼――深夜アニメはまちを救う?: <湯涌町> 花咲くいろは

近年の深夜アニメとその「聖地化」現象について、まちづくり、まちおこしの観点から事例紹介をしていきます。

作品の概要

 

 

出典:「TVシリーズ 花咲くいろは」公式サイト<http://www.hanasakuiroha.jp/tv/>

 

 

①作品概要

東京育ちの女子高校生である主人公・松前緒花は、借金を作った恋人と夜逃げした母・皐月と離れ、石川県の湯乃鷺温泉街にある旅館・喜翆荘(きすいそう)を経営する祖母・四十万スイの許に身を寄せることとなった。

この旅館で住み込みアルバイトの仲居見習いとして働きながら学校に通うことになった緒花は、個性的な従業員達と共に働き、戯れ、様々な人間ドラマの中に身を置いて経験を積み重ねることで成長を遂げてゆく。

御花を中心に、若者たちの成長を描く青春おしごとストーリー

 

出典:Wikipedia――花咲くいろは  <https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8A%B1%E5%92%B2%E3%81%8F%E3%81%84%E3%82%8D%E3%81%AF

 

 

②放映期間

 

2011年4月~9月

 

③聖地となった地域

 

石川県金沢市湯涌町

 

聖地化の展開

3つめにご紹介するのは、アニメ「花咲くいろは」の舞台となった金沢市湯涌町です。

 

◆押し寄せるファン

 

湯涌温泉観光協会のO事務局長は、「アニメ効果は絶大」と語ります。

2011年4月に行ったイベントでは、開始の5時間前からファンが長い列をつくりました。

また、同協会は5月から、石川県内の各地を背景にした登場人物のポスターを販売。2,000組が約3カ月で売り切れるほどの人気だったそうです。

さらに、同観光協会に所属する旅館における7~8月の宿泊者数は、前年に比べ3割近くも増えました。そして宿泊客はこれまで県内の人が約6割を占めていたのが、逆転して県外の人の割合が高くなったといいます。

湯涌町においては、アニメによる「聖地化」のインパクトは非常に大きかったことが推察されます。

 

◆聖地化のきっかけ

 

湯涌温泉観光協会副会長のYさんは、「花咲くいろは」に関わるようになったきっかけについて以下のように語ります。

曰く、放映の約1年前、2010年2月頃、制作会社から「作品の舞台にしたい」と観光協会に声がかかりました。

そこで、当時、青年部の代表だったYさんに白羽の矢が立ったのです。Yさんはアニメはあまり見る方ではなく、昔見た「サザエさん」が最後だったそうです。
最初は正直、「うさんくさいな」とも思ったそうですが、最終的には制作会社の熱意に押されるかたちとなりました。

地域にとっても、温泉の利用者が年10%の勢いで減っていたので、現状を変えるために何かしたいという思いもあったのです。

 

ですが、当初は不安も多かったと言います。特に、湯涌地区は昔ながらの温泉街で、年配の常連客も多い地域です。
そこへいわゆる「アニメオタク」が来るようになると、客同士のトラブルが起きないかや、逆にそういった若い人たちにここが受け入れられるのか、など不安の種は尽きなかったと言います。
しかし、いざ受け入れてみると、ファンの人たちはとてもマナーが良かったと回想します。

 

旅館やその内部を撮影する時は一言声をかけてくれる。さらに、驚いたことに、後述する湯涌ぼんぼり祭りの時は、前日に来たファンが町に落ちているゴミを拾ってくれたのです。冬に雪かきに来てくれた人もいたそうです。

 

◆ぼんぼり祭り、アニメの世界が現実に

 

作中に登場する「湯乃鷺温泉」では、毎年10月に「ぼんぼり祭り」という祭りが行われています。

もちろんこれは架空のお祭りです。
なんと、観光協会は、作中と同じ名前を関した祭りを、アニメと同じく10月に、湯涌温泉で開催することを思いついたのです。

「作品の中でぼんぼり祭りは、神様が出雲へ帰る時、道に迷わないよう明かりを灯(とも)し、そのお礼に願い事をかなえてくれる、という話です。これを作品のクライマックスに持ってくると聞き、良い話だなと思い、実際にやってみたいと考えたのです。」

こうYさんは述懐します。

ぼんぼり祭りを開催するにあたって気を付けたことは、「声優を呼ぶようなアニメイベントにしない」ということ。聖地化した地域でありがちな、”イベント臭”は一切排除し、伝統的なお祭りとして定着してほしいという思いをこめたそうです。

祭りの当日には、約3,000人のファンが全国から駆け寄り、今までにない賑わいをみせました。

 

図1 ぼんぼり祭りの様子

 

出典:湯涌温泉観光協会ホームページ<http://yuwaku.gr.jp/bonbori/>

 

 

◆本質を見失わない

 ぼんぼり祭りは、その後、地域のお祭りとして毎年開かれるようになり、2014年の第4回ぼんぼり祭りでは、1万2,000人以上の人々が湯涌町を訪れるまでになりました。

このように、湯涌町はアニメと上手に共生できている事例ですが、Yさんは、アニメをまちづくりに利用する際の方向性として以下のように語っています。

「(大事なことは、)協会としてポスターなどは作っていますが、個々の店では、アニメにちなんだツアーを組むとか名刺を作るとかアニメに乗っかった商売はしない、ということです。温泉地としての本質を見失わないためです。今後も、多くの人に湯涌温泉を知ってもらい、来てくれたお客さんに安らぎを提供できる場にしていきたいです。」(括弧内筆者)

聖地化はあくまでも地域本来の魅力を周知するためのチャンスとして活用する湯涌町の戦略が、かえって多くのファンを地域の虜にしているのかもしれませんね。

 

<参考文献>

 

由谷裕哉(2011)「アニメ『花咲くいろは』の聖地巡礼と湯涌ぼんぼり祭り : 聖地巡礼ノートに注目して」『小松短期大学地域創造研究所年報』 第3号。

毎日新聞2011年9月19日地方版

朝日新聞2012年10月21日地方版