さて、事例の紹介は以上をもって終わりです。
ここまで読んでくれた皆さん、まことにありがとうございました。
このガイドをみて、聖地巡礼という現象や、アニメツーリズム研究について関心を持っていただけたら幸いです。
はじめにも述べたかと思いますが、アニメツーリズム研究はいまだ過渡期にある研究テーマです。
聖地巡礼をめぐる興味深く面白い事例は、まだまだたくさん埋もれていると思います。
加えて、これまでの研究蓄積も量・質ともに決して十分なものとはいえず、ポジティブにとらえれば可能性に溢れたテーマだともいえます。
例えば、山村(2013:10)はアニメツーリズム研究のこれまでの動向として、
「らき☆すた」の聖地である「鷲宮町の成功以降、コンテンツ・ツーリズムに関する議論は、まちおこし、すなわち観光まちづくりの文脈で論じられることが一般化」しており、そこでは「地域サイドと著作権者(製作サイド)との間でのタイアップの在り方やライセンス・ビジネスの在り方が中心的な論点と」なっていると総括しています。
もちろん、こうした政策論的・観光開発論的な研究も重要ですが、アニメツーリズムを活用したまちおこしが成功/失敗する条件を探るといった研究では見落とされている論点も多いです。
例えば、成功/失敗の基準が多くの研究では経済効果などの数値指標を基準に論じられることが多いですが、今後の研究ではそうした数字には表されないインパクトをも視野に含めるとともに、そのプロセスをより詳細に検討していく必要があるのではないかと考えています。
今回はその成功例と言えるような事例を取り上げてきましたが、アニメツーリズム=聖地巡礼への取り組みは、それが一過性に終わったり、あるいはまったく盛り上がることなく萎んでいくようなケースも多々見られます。
アニメは果たして地域を救う手がかりとなるのか、成功する事例と失敗する事例では何が違ったのか、盛り上がりを一過性のブームとして終わらせないためには何が必要なのか。
これからの研究に期待です!
最後に、ここまでで掲載されなかった参考文献の一覧を掲示しておきます。
アニメツーリズムに興味を持たれた方はぜひ一読を!
・遠藤英樹(2005)「『観光社会学』の対象と視点 リフレクシブな『観光社会学』へ」遠藤非駅・須藤廣編『観光社会学』明石書店。
・岡本健(2010)「現代日本における若者の旅文化に関する研究―アニメ聖地巡礼を事例として―」『旅の文化研究所研究報告』第19号。
・岡本健(2011)「コンテンツツーリズムにおけるホスピタリティマネジメント―土師祭『らき☆すた神輿』を事例として」『HPSPITALITY』第18号。
・岡本健(2012)「コンテンツツーリズム研究の枠組みと可能性」『CATS 叢書』第7巻。
・加藤英美里ほか(2013)「『らき☆すた』聖地鷲宮から学ぶコンテンツツーリズム――アニメ声優・商工会職員・研究者と考える地域振興」京都文教大学総合社会学部開設記念講演会。
・国土交通省ほか(2005)『映像等コンテンツの制作・活用による地域振興のあり方に関する調査』。
・聖地巡礼委員会(2013)『アニメ探訪 聖地巡礼ガイド』カンゼン。
・筒井隆志(2013)「コンテンツツーリズムの新たな方向性~地域活性化の手法として~」『経済のプリズム』第110号。
・中川裕幸ほか(2008)「アニメの著作権」『パテント』第61号。
・風呂本武典(2014)「コンテンツツーリズムにおける地域組織の構造と課題:地域エゴと閉鎖系の住民意識」『広島商船高等専門学校紀要』第36巻。
・増淵敏之(2008)「コンテンツツーリズムとその現状」『地域イノベーション』第1号。
・松宮朝(2007)「日本における内発的発展論の展開とその課題―費孝通氏の『模索論』からの示唆―」『愛知県立大学文学部論集』第56号。
・山村高淑(2011)『アニメ・マンガで地域振興~まちのファンをうむコンテンツツーリズム開発法~』東京法令出版。
・山村高淑(2012a)「コンテンツツーリズムをめぐる社会の動向と関連研究の今後の可能性」『CATS 叢書』第7巻。
・山村高淑(2012b)「自治体・アニメタイアップの先進例:TV放映前から連携、官民一体で推進委:千葉県鴨川市」『日経グローカル』第196号。
・山村高淑(2013)「コンテンツ・ツーリズムの可能性と課題:キャラクターやストーリーを地域で活用する際のいくつかの重要な論点」『都道府県展望』第654号。
・山村高淑(2015)「交流の仕組みとしてのコンテンツツーリズム:21世紀型の観光まちづくりを考える」『観光とまちづくり』第518号。
・森裕亮(2015)「コンテンツツーリズムは地域を救う? ::『アニメ・マンガ聖地巡礼』を活用した地域づくりを考えるアンケート調査・単純集計報告」 『北九州市立大学法政論集』第42巻、2-4月号。