前章で述べた通り、現在ボランティア活動は種類が多く、いろいろな活動に参加するチャンスも多いです。それらの活動に参加することは社会に高く評価されますが、その一方、「偽善」、「売名」、「自己満足」という声も未だに残ります[注2]。「ボランティアといっても結局自分のためだろう」みたいなコメントが頭によぎり、ボランティア活動で社会貢献をしたいが、他人の目を気にして第一歩を踏み出せなかった人がきっといるでしょう。
図5の示す通り、従来のボランテイア活動は、ボランティアの送り手が一方的に価値を提供するものであり、すべての活動は参加者のモチベーションに基づいて行われます。最初は社会・他人に対する善意を持ってボランティア活動に参加した人が多いかもしれないが、いくら善意の活動といえども自分に見返りがなければ長続きはしません。さらに、「善意のみでボランテイアをするってあり得ないから、絶対に何かを目当てでやったんだろう?」という考えはよりモチベーションに影響を与えます。このように、モチベーションというボランティア活動の土台が傾きやすいのは大きな課題です。
図5:従来の考え方
ボランティア活動の外部環境を変えることは難しいが、ボランティア活動を考える視点を転換することでモチベーションを向上させることができるはずです。「サービスデザイン」についての研究を行っている僕が、ボランティア活動を人が社会か他人に対するある種の「サービス」と認識して、ボランティア活動のあるべき姿を考えていきたいと思います。そして、サービスの研究によく使われる「価値共創」という概念を導入して、ボランティア活動を一つの「価値共創システム」として考えることを提案します。図6の示す通り、このシステムでは、サービスの「送り手」としてのボランティア、及びサービスの「受け手」としての対象者がメリットの獲得を通じて共に価値を生み出すことこそ、ボランティア活動の真のやりがいではないかと考えています。
図6:提案する考え方
このようにボランティア活動を見ると、ボランティア活動を有志者が行う一方的な奉仕活動ではなく、一人一人の社会人が生活環境を整えるための創造活動 と理解したほうが現実に合います。すると、ボランティアをするのは必要な社会勉強となって自己実現ともつながり、ボランティアをしないと逆に損すると意識すれば、モチベーションの向上は可能でしょう。また、社会評価目当ての見せかけではなく、お互いのためすべきこと だからボランティアをすることが当然と考えることができれば、全社会への普及と長続きの促進にも役にたつと考えられます。
なお、ボランティア活動を見る視点のみを変えるのは不十分で、有志者が自分の選んだ道に合わせて、適切にボランティア活動を選んで、適切な形で参加して、そして事後に適切な方法で得た経験から勉強する意識が重要です。意識をもって活動するのでなければ、ボランティア活動に参加してもメリットを獲得できないわけです。それで、次の章は学生がボランティア活動に参加することでどんなことが得られるかについて議論を行います。
出典:
[注2]総務庁(1994):「青少年のボランティア活動に関する調査」報告書