ポジティブ・コンピューティングでは、人や社会をより活き活きさせて幸福にすることが主目的です。
では、ここでいう活き活きした状態とはどういう状態を指すのでしょうか?
ポジティブ・コンピューティングにおいて、幸福な状態のことを心理的ウェルビーイング( 以後「ウェルビーイング」とも表記)という言葉で表します。ウェルビーイング(well-being)とは、1946年の世界保健機関(WHO)憲章草案にて「良好な状態」を表す言葉として用いられています。そのため、心理的ウェルビーイングは、心理的に良好な状態と言い換えることができます。
では、心理的に良好な状態とはどのようなことなのでしょうか?
例えば、「身体の健康」は病気がない状態と定義されています。この考え方をそのまま当てはめるのならば、心理的に良好な状態を表すウェルビーイングは、精神機能障害がない状態とみなすことができそうです。しかし、ポジティブな体験を想起することで人生の満足度が上昇するということがダニエル・カーネマンが行った快楽心理学の研究(*1)から、ポジティブな感覚が占める割合が高い状態をウェルビーイングとする考え方もあるそうです。
このように、実はどの視点からアプローチするかで、心理的ウェルビーイングの定義が大きく変わります。本ガイドでは、現代のウェルビーイング理論でよく扱われるウェルビーイングに対する3つのアプローチを紹介します。
1.医学的アプローチによるウェルビーイング:
心身が機能的に不全でなく維持されていること。つまり心と体が病気でないこと。治療や予防ができる。
2.快楽的アプローチによるウェルビーイング:
気持ちいい、いい気分である状態であること。主観的な状態(State)としてのウェルビーイング。
3.持続的アプローチによるウェルビーイング:
人間が心身の潜在能力の発揮し、意義を感じていること。一言で言うと「いきいきとした状態」の実現としてのウェルビーイング。この状態のフローリシング(開花)という。
このように心理的ウェルビーイングには、様々な定義がなされています。
それらは、一見互いに矛盾しているように思えます。しかし、これらの定義に正解や不正解はありません。心理的ウェルビーイングは、様々な要素が絡み合った高次なものであり、どの側面を切り取るかで様々な捉え方ができます。つまり、これらの定義は、あくまでも異なる視点・分野からある側面を切り取ってアプローチしているだけであり、どのアプローチも実証的な裏付けがあります。そのため、どれか1つのアプローチのみを考慮するだけではなく、複数のアプローチを組みあわせて心理的ウェルビーイングを捉えることが大切です。つまり、ポジティブ・コンピューティングを考える上で、様々な分野の知識を活用していく必要があります。
今回、心理的ウェルビーイングについて一例を示すために、幸福に影響を与える要素、ウェルビーイング因子として「ポジティブ感情」と「動機付け」を紹介します。