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古代・中世ヨーロッパの神話・伝承: 現代文化の源泉: 中世文学

古代・中世ヨーロッパの神話・伝承に関心を抱いた人を対象に、現代文化の源泉となっている代表的な作品の邦訳書やテキストデータベースを紹介します。

中世ヨーロッパ概観

『ローランの歌』、『ニーベルンゲンの歌』、『エッダ』......

前頁の『アーサー王物語』を含めて、高校世界史の教科書や資料集で見たことがある人もいるこれらの作品は、正式にはヨーロッパ中世に成立しました。「中世」という時代の範囲については、教科書的には476年(西ローマ帝国の滅亡)から1453年(英仏百年戦争の終結、東ローマ帝国の滅亡)という区分がありますが、区分を定めるのは妥当かどうかを含めて学術的議論が続いています。

本頁では、これらの作品を、「シャルルマーニュ伝説」と「北欧神話」という2つのカテゴリーにまとめています。

シャルルマーニュ伝説

現在のフランスやドイツ、イタリアの元となったフランク王国を築いたカール大帝(742-814年, 仏語読みではシャルルマーニュ)が文学作品の主題となると、その忠臣として「十二勇士」の存在が創作されました。代表的な騎士は、聖遺物を収めた聖剣デュランダルとほとんど傷つかない鋼の肉体を携える猛将ローラン、彼の親友で名剣オートクレールを扱う知将オリヴィエ、後述の『狂えるオルランド』で大活躍するアストルフォやブラダマンテです。

11世紀末に現在の形で成立したとされる『ローランの歌(ロランの歌)』は、8世紀時点でスペインに進出していたイスラム勢力(後ウマイヤ朝)との戦争を描いています。スペインからの帰還中、養父ガヌロンの裏切りのために殿軍に指名されて敵中に取り残されたローランは、親友オリヴィエと共に、シャルルマーニュの救援が来るまで持ちこたえるべく奮戦します。.

ルネサンス期イタリアでは、シャルルマーニュ伝説に設定の追加が施されました。ルドヴィーコ・アリオスト(1474-1533年)の叙事詩『狂えるオルランド』(1516年)では、『ローランの歌』では最期しか描かれなかった十二勇士の冒険譚が縦横無尽に展開されます。中国の王女アンジェリカに振られたオルランド(ローランの伊語読み)が発狂して全裸で彷徨すれば、魔法の槍・本を持つアストルフォがヒッポグリフで月からオルランドが失っていた理性を取り戻してきます。また、ブラダマンテは、相思相愛のムスリム騎士ルッジェーロとの再会を求めて、幾度の困難を乗り越えていきます。総じて、ファンタジー色が大幅に強まっています。

伝説の全容を把握するには、アメリカの文筆家トマス・ブルフィンチ(1796-1867年)が物した下記のアンソロジーが便利です。

北欧神話と派生作品

ラグナロクという神話世界の終末で有名な北欧神話に関して、アイスランド語をはじめとする北欧の古語で書かれた原典が中世に成立しています。

北欧神話の核となる原典は、韻文の『古エッダ』及び散文の『スノッリのエッダ』です。前者の中で最も注目したいのは「巫女の予言」で、アース神族と呼ばれる神々の一派の主神オーディンに対し、古代北欧において宗教儀礼や予言を司る巫女が世界の始まりからラグナロク、そして世界再生の希望を語ります。この他、主要な神々としては、天候を司る雷神トールや、悪戯や計略で場を引っ掻き回すトリックスターのロキが挙げられます。

中世ドイツの英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』1200-1205年頃)の主要人物である、竜の血を浴びたことで背中を除いて鋼鉄の不死身な肉体を持つジークフリートは、類似した逸話を有する北欧神話の剣士シグルズ(シグルド)と起源を一にするとされています。

イギリス文学史の本を読むと大抵冒頭に登場する作者不詳の英雄叙事詩『ベオウルフ』8世紀頃)は、現代英語とは似て非なる古英語(Old English)で書かれています。怪物グレンデルや竜との闘いを中心とした英雄ベオウルフを詠った詩ですが、舞台が現在のデンマークにあたる点で北欧の伝説としても扱えるのかもしれません。

なお、叙事詩『カレワラ』(1849年)の元となったフィンランドの民間伝承は、上述の「北欧神話」とは別系統にあります。言語系統を見ても、他の北欧諸語が英語やドイツ語等と同じインド・ヨーロッパ語族に属するのに対し、フィンランド語はハンガリー語やエストニア語を含むウラル語族に分類されます。