LaTeXを学ぶ上で最初の関門となるのが環境構築です。LaTeXを取り巻く環境は日々進歩しており、最新の情報はとにかくネットを参照するしかありません。とはいえ、ひと昔前と比較すればLaTeXの環境構築の難易度はだいぶ下がってきてはいます。本ページではオーソドックスな3つの方法についてご紹介しますので、お好きな方法で環境構築を進めてください。なお、奥村・黒木「LATEX 美文書作成入門」2章にも詳しい解説がありますので、そちらも適宜参照するようにしてください。
まずは最も簡単な環境構築の方法をご紹介します。それはクラウドサービスを活用するというものです。代表的なサービスとしては2つ存在します。1つ目はCloud LateX(クラウド・ラテフ)、日本の株式会社アカリクの運営する日本発のエディタサービスです。2つ目はOverleaf(オーバーリーフ)、世界で最も多いユーザー数を誇るエディタサービスとなります。それぞれの方法について簡単に使い方を紹介します。
Cloud LaTeXを利用するにあたり必要な準備は「アカウント登録をする」、これだけです。登録する際にメールアドレスが必要になるのですが、Googleアカウントをお持ちの方はそちらでも登録することができるので、初めに必要な準備は限りなくゼロに近いといえます。以下、箇条書きでコーディングできるようになるまでの手順を列挙します。
① このサイト(Cloud LaTeX新規会員登録)から登録する。
② プロジェクトを作成する。
ページ中央付近の「新規プロジェクト」というボタンをクリックします。すると以下のようなポップアップが出ますので、適当なものにチェックを入れて「作成」をクリックします。「既定テンプレートのプロジェクト」とすると、テンプレートが初めから用意されたプロジェクトが作成されます。初めてLaTeXに取り組む場合はこちらを選択するのが良いかもしれません。「空のプロジェクト」とすると、文字通り何のファイルも入っていない空のプロジェクトが作成されます。慣れてきたらこちらを選択していただいて大丈夫です。
図2. 新規プロジェクト作成画面
③ プロジェクト内でtexファイルを開く。
「既定テンプレートのプロジェクト」を作成された前提で解説します。プロジェクトの中に入ると次のような画面が表示されるはずです。
図3. Cloud LaTeXのエディター画面
左側はそのプロジェクト内にあるファイルを表示しているスペースです。ちょうどPCのフォルダのイメージですね。真ん中のごちゃごちゃ書いてあるスペースが実際にコーディングをしていく画面です(細かい命令については後述します)。右側がコンパイルした結果(pdf)を出力する画面です。コンパイル[注1]とはソースコードをコンピュータに読み込ませる作業のことです。右上にコンパイルというボタンがあるので、これをクリックしてみましょう。すると、
図4. コンパイル結果
確かにソースコードの右側にpdfが出力されました!あとは適宜texファイルのソースコードを加筆編集することで文書を作成することができます。なお、プロジェクト内では複数のtexファイルを作成することが可能です。新しいtexファイルは左上の+マークをクリックすると追加することができます。めちゃくちゃ簡単でしょ?
Overleafは「アカウントの登録」に加えて、ある「おまじない」が必要になります(もちろん比喩表現です)。以下、Overleafでのコーディングができるようになるまでの手順を列挙します。
① このサイト(Overleaf新規会員登録)から登録する。
まずは上記のリンクからOverleafに登録してください。Cloud LaTeX同様、メールアドレスがあれば簡単に登録することができます。
② Projectを作成する。
初めにログインすると中央に[Create First Project]というボタンが表示されます。これをクリックして[Blank Project]を作成しましょう。すると、Titleを入力するポップアップが出現するので適当なタイトルを決めて入力してください。このとき、タイトルは日本語名でも構いませんが、ある設定をしなければコンパイルエラーとなってしまいます。初めは英語のタイトルを入力しておくのが無難です。なお、2つ目のプロジェクト以降は下図のような画面が表示されるので、左上の[New Project]をクリックして、[Blank Project]を選択すると、適宜新しいProjectを作成することができます。
図5. Overleaf
新規プロジェクトにはデフォルトでmain.texというtexファイルが生成されています。しかし、このままでは日本語を取り扱うことはできません。
③ おまじないを唱える。
Overleafで日本語の文書を出力するには工夫が必要です。まずは、コンパイラをデフォルトのpdfLaTeXからLaTeXに変更してください。現在のコンパイラは[Menu]→[Settings]→[Compiler]で確認できます。次に「latexmkrc」という名前のファイルを作成してください。拡張子は必要ありません。latexmkrcの中身は次のように記述してください。
$latex = 'platex'; $bibtex = 'pbibtex'; $dvipdf = 'dvipdfmx %O -o %D %S'; $makeindex = 'mendex %O -o %D %S'; $pdf_mode = 3; $ENV{TZ} = 'Asia/Tokyo'; $ENV{OPENTYPEFONTS} = '/usr/share/fonts//:'; $ENV{TTFONTS} = '/usr/share/fonts//:';
これはコンパイルの設定を記述しているおまじないです。
以上で日本語を出力するための設定は終了です。下図中央のフレームでコーディングし、適宜右上のRecompileをクリックすれば文書を作成することができます。
図6. コンパイル結果
[注1] より正確には、プログラミング用語で「プログラミング言語で書かれたコンピュータプログラムを解析し、コンピュータが実行可能な形式のプログラムに変換すること」を指します。今回の場合、texファイルを読み込んで原稿を出力する一連の作業のことです。
TeX LiveはTeX関連ソフトの集大成で、世界で最も普及しているTeXディストリービューション[注1]です。日本語の組版に必要な要素も全て盛り込まれているので、基本的にTeX Liveをインストールしておけば心配ありません。なお、本ボックスにおけるインストール方法の記述は基本的にこちら("TeX Live," 「TeX Wiki」)に基づいています。必ず最新の情報を参照しながらインストール作業を進めるようにしてください。
Windows OSにTeX Liveをインストールする方法はいくつかありますが、ここではネットワークインストーラを用いる方法をご紹介します。まずはInstalling TeX Live over the Internetにアクセスしてください。TeX Liveをインストールする手順や注意点が記述されているページが開くはずです。
図7. Installing TeX Live over the Internet
ここでページ上部のinstall-tl-windows.exeまたはinstall-tl.zipのどちらかをダウンロードしてください[注2]。いずれかのファイルをダブルクリックすれば自動的にインストールが進行します。ネットワーク環境に依存しますが、インストールには数時間かかりますので時間のある時にインストールするようにしましょう(私は寝る前にインストールしていました)。また、セキュリティの関係で「Windows によって PC が保護されました」と表示されることもありますが、その場合は「詳細情報」→「実行」→「インストール」でインストールを再開してください。「TeX Liveへようこそ!」という画面が表示されればインストール完了です。
初めてLaTeXをインストールする際にはトラブルがつきものです。典型的なトラブルとしてはウイルスバスターにインストールが拒否されるというものですが、他にも様々な要因があります。一つ一つをここで解説することはできないので、詳細はTeX Live/Windowsなどを参照してください(セットアップの事例を確認することもできます)。
[注1] 処理系やマクロ一式をまとめたもの。
[注2] install-tl-unx.tar.gzというファイルもありますが、こちらはWindowsへのインストールの際に必要なサポートプログラムが省かれたものなので、ダウンロードしないよう注意してください。
TeXworksはソースコードの編集[注3]やコンパイルをするためのソフトで、TeX Liveをインストールすると使用できるようになります。本ボックスの記述はこちら("Windows - TeX Live - TeXworks を使ってみよう," 「LaTeX入門」)に基づいておりますので、適宜ご参照ください。
TeX Liveに付属しているTeXworksは既に日本語に対応しており、特別な設定をすることなくそのまま使い始めることができます。「すべてのプログラム」の中からTeXworks editorをクリックすると、まっさらなエディターが開かれます。
図8. TeXworks
ここに適当な文字を入れてコンパイルできるかどうか確かめてみましょう。例えば以下のような文章を打ち込んでみてください。
\documentclass{article} \begin{document} Hello, world! \end{document}
図9. TeXworksの編集
エディタ左上の再生ボタンのようなものをクリックするとコンパイルが始まります(Ctrl+Tというショートカットキーも使えます)。初めは保存ウィンドウが開くので適当なファイル名を付けて保存してください。最終的に以下のようなpdfが出力されれば成功です。
図10. コンパイル結果
[注3] このように文章を編集するソフトのことをテキストエディタ、あるいは単にエディタと言います。Windowsにおける「メモ帳」やMacにおける「テキストエディット」などもエディタの一種です。
MacTeXもTeX LiveをベースとしたTeXディストリビューションです。TeX Liveの他にいくつかのアプリケーションがオプションとしてインストールされます。なお、本ボックスにおけるインストール方法の記述は基本的にこちら("MacTeX のダウンロードとインストール," 「LaTeX入門」)とこちら("MacTeX," 「TeX Wiki」)に基づいています。
基本的なインストールの手順はWindows OSにTeX Liveを入れる時とほとんど変わりません。まずはhttps://tug.org/mactex/mactex-download.htmlにアクセスしてください。ページ上部に「MacTex.pkg」というインストーラが表示されていると思いますのでこちらをクリックします。
図11. Downloading MacTeX 2023
「Download with Safari strongly recommended.」とあるので普段他のブラウザを使う方も、ここは大人しくSafariを使いましょう。ファイルサイズ5.2GBとこちらも中々マッチョなディストリビューションなので、時間に余裕のある際にダウンロードすることをお勧めします[注1]。なお、こちらのページを下にスクロールしていくと、MacTeXのインストール方法やディストリビューションの中身、注意点なども記載されていますので、インストール前に一読することをお勧めします。
ダウンロードされたMacTeX.pkgをダブルクリックすればインストールが始まります。画面に表示される指示に従って「続ける」「同意する」を選択してください。インストールが終了すると「インストーラをゴミ箱に入れますか?」というポップアップが表示されますので、適宜「残す」か「ゴミ箱に入れる」を選択してください(どちらでも大丈夫ですが、残しておいても使い道はないので捨てるのが一般的です)。
[注1] MacTeX 2016が2.5GBだったようですので、わずか8年弱で倍以上のサイズになっています。どんだけアップデートしたんでしょうか。
TeXShopはMacTeXをインストールすると使えるようになるテキストエディタです。MacTeXをインストールすると、アプリケーションフォルダ内にTeXというフォルダが作成されます。その中にTeXShopのアイコンがありますのでダブルクリックで起動してみましょう。
図12. アプリケーションフォルダの中身
すると、以下のような画面が開きます。
図13. TeXShop
ここに適当な文字を入れてコンパイルできるかどうか確かめてみましょう。例えば以下のような文章を打ち込んでみてください。
\documentclass{article} \begin{document} Hello, world! \end{document}
図14. TeXShopの編集
上部のタイプセットをクリックするとコンパイルが始まります。最初は保存場所や保存名に関するポップアップが表示されるので適当な場所に保存してください。コンパイル中は以下のような画面が表示されます。
図15. コンパイル途中
最終的に以下のようなpdfが出力されればOKです。
図16. コンパイル結果
基本的なインストール作業は前述した内容で完了しているのですが、TeXShopのデフォルトの設定では日本語の文書を出力することができません。例えば、次頁「基本的な操作」でもご紹介する和文の文書クラス「jsarticle(jsbook)」のLaTeX文章をコンパイルすると、次のようなエラーを吐きます(エラーコードは[1]より引用)。
This is pdfTeX, Version 3.14159265-2.6-1.40.15 (TeX Live 2014) (preloaded format=pdflatex)
restricted \write18 enabled.
entering extended mode
(./hello.tex
LaTeX2e <2014/05/01>
Babel <3.9k> and hyphenation patterns for 78 languages loaded.
(/usr/local/texlive/2014/texmf-dist/tex/platex/jsclasses/jsarticle.cls
/usr/local/texlive/2014/texmf-dist/tex/platex/jsclasses/jsarticle.cls:38: LaTeX
Error: This file needs format `pLaTeX2e'
but this is `LaTeX2e'.
See the LaTeX manual or LaTeX Companion for explanation.
Type H for immediate help.
...
l.38 \NeedsTeXFormat{pLaTeX2e}
?
エラーに相当する箇所を赤文字で強調しています。これはコンパイルの設定が日本語を出力できるものになっていないことが原因で起こるエラーです。これを解消するために、もう一手間かけてあげる必要があります。
TeXShopを起動すると左上に以下のような画面が表示されているはずです。
図17. TeXShop起動時のメニューバー
一番左の「TeXShop」から「環境設定」をクリックすると、TeXShop環境設定のウィンドウが開きます。
図18. TeXShop環境設定
左下に「設定プロファイル」という部分があるのでこれをクリックしましょう。すると、次のような小さなウィンドウが開きます。
図19. 設定プロファイル
「pTeX(ptex2pdf)」を選択し、改めてTeXShop環境設定ウィンドウ右下の「OK」をクリックします。これで日本語文書を出力するための設定は完了しました!あとは適当に日本語を含む文書をコンパイルして、日本語がきちんと出力されるかどうかをご確認ください。
[1] "MacTeX - TeXShop で 日本語を使う方法," 「LaTeX入門」(2024/3/18 閲覧), URL: https://medemanabu.net/latex/mactex-texshop-ptex-platex/