冒頭でも述べた通り、LaTeXは数式を非常に綺麗に出力できるツールとして数物系の分野では大変重宝されている組版ソフトです。当然、複雑な数式の取り扱いこそ、LaTeXの真骨頂であると言っても過言ではありません。以下ではLaTeXにおける数式入力の基礎を伝授します。
基本的な数式入力は2通りです。
特殊相対性理論では$E=mc^2$という式が重要です。
[出力]
特殊相対性理論では\(E=mc^2\)という式が重要です。
$$で囲まれた部分が数式用フォント(イタリック体)で出力されます。また、数式中では単純な空白は無視されます。後述するように数式中で空白を挿入する場合には工夫が必要です。
特殊相対性理論では\[E=mc^2\]という式が重要です。
[出力]
特殊相対性理論では\[E=mc^2\]という式が重要です。
今度は数式部分が改行されて出力されました。数式番号をつけるには、後述する通り数式環境を使用します。
前述したようにLaTeXの数式中では、スペースキーによる単純な空白は無視されてしまいます。空白を挿入する際には以下のようなコマンド群がよく使われます(厳密にはこれらのコマンドは通常のテキスト中でも使用可能です)。
他のコマンドについては適宜[1]をご参照ください。
[1] "【LaTeX】水平方向の空白(スペース)のコマンド11個," 「数学の景色」(2024/2/19 閲覧), URL: https://mathlandscape.com/latex-hspace/
上付き文字と下付き文字は「^」と「_」を用いて表現します。例えば次のような塩梅です。
時空の歪みと物質分布を結びつけた\[R_{\mu \nu}-\frac{1}{2}Rg_{\mu \nu}=8\pi GT_{\mu \nu}\] はアインシュタイン方程式と呼ばれます。
[出力]
時空の歪みと物質分布を結びつけた\[R_{\mu \nu}-\frac{1}{2}Rg_{\mu \nu}=8\pi GT_{\mu \nu}\]はアインシュタイン方程式と呼ばれます。
添字が複数ある場合は例の「R_{\mu \nu}」のように{}を用いて添字部分全体を囲む必要があります。これは忘れやすいので、添字が1つであっても囲む癖をつけておくとミスが減ります。
数式を書く上ではギリシャ文字の入力は必要不可欠です。基本的には英語名の前に\をつければ出力できます。
入力 | 出力 | 入力 | 出力 | 入力 | 出力 | 入力 | 出力 |
\alpha | \(\alpha\) | \beta | \(\beta\) | \gamma | \(\gamma\) | \delta | \(\delta\) |
\epsilon | \(\epsilon\) | \zeta | \(\zeta\) | \eta | \(\eta\) | \theta | \(\theta\) |
\iota | \(\iota\) | \kappa | \(\kappa\) | \lambda | \(\lambda\) | \mu | \(\mu\) |
\nu | \(\nu\) | \xi | \(\xi\) | o | \(o\) | \pi | \(\pi\) |
\rho | \(\rho\) | \sigma | \(\sigma\) | \tau | \(\tau\) | \upsilon | \(\upsilon\) |
\phi | \(\phi\) | \chi | \(\chi\) | \psi | \(\psi\) | \omega | \(\omega\) |
また、大文字のギリシャ文字は、アルファベットと同一のものを除けば、先頭を大文字にすれば出力できます。
例:\Gamma → \(\Gamma\)、 \Lambda → \(\Lambda\)、 \Omega → \(\Omega\)
LaTeXには膨大な数学記号が用意されています。全てを暗記するのは無謀なので、有名なものやよく使うもののみを記憶しておいて、残りはその都度調べるようにしましょう。
[例]級数和と積分
区分求積法の公式は\[\lim_{n\rightarrow\infty} \frac{1}{n}\sum^{n}_{k=1}f\left(\frac{k}{n} \right)=\int^{1}_{0}f(x)dx\]
[出力]
区分求積法の公式は\[\lim_{n\rightarrow\infty} \frac{1}{n}\sum^{n}_{k=1}f\left(\frac{k}{n} \right)=\int^{1}_{0}f(x)dx\]
ここでは以下のようなコマンドが使用されています。
入力 |
出力 |
入力 | 出力 | 入力 | 出力 |
\lim | \(\lim\) | \rightarrow | \(\rightarrow\) | \infty | \(\infty\) |
\frac{hoge2}{hoge1} | \(\frac{hoge2}{hoge1}\) | \sum | \(\sum\) | \int | \(\int\) |
数式中では以下のような事柄に注意しましょう。
LaTeX単体でもある程度数式入力は可能ですが、複雑な数式や記号を記述するにはAMS-LaTeX[注1]を使用するのが便利です。AMS-LaTeXを使用するには、プリアンブルの部分に
\usepackage{amsmath,amssymb}
と記述します。amssymbは主に数式環境中でのフォント関係の命令を担うものですが、大体amsmathとセットで使用するものと考えて差し支えありません。
[注1] AMSとはAmerican Mathematical Society(米国数学会)の略称です。
ここでは代表的な4つの数式環境をご紹介します。
最もオーソドックスな数式環境です。出力としては前述した別行立て数式に式番号が付与されたような形式です。以下のように記述します。
\begin{equation} E=mc^{2} \end{equation}
[出力]\[E=mc^{2} \tag{1}\]
複数の数式を中央揃えで出力することができます。以下のように記述します。
\begin{gather}
E=mc^{2} \\
R_{\mu \nu}-\frac{1}{2}Rg_{\mu \nu}=8\pi GT_{\mu \nu}
\end{gather}
[出力]
\begin{gather}
E=mc^{2} \tag{1} \\
R_{\mu \nu}-\frac{1}{2}Rg_{\mu \nu}=8\pi GT_{\mu \nu} \tag{2}
\end{gather}
改行したい場所で「\\\」と記述すれば改行させることができます。
式変形が複数行に渡る際、等号の位置で揃えたいような場面もあります。そんな時はalign環境が便利です。揃える基準は&で指定します。以下のように記述します。
\begin{align} Re[e^{ix}]&=\cos x \\ &=1-\frac{x^{2}}{2!}+\frac{x^{4}}{4!}- \cdots \end{align}
[出力] \begin{align} Re[e^{ix}]&=\cos x \tag{1} \\ &=1-\frac{x^{2}}{2!}+\frac{x^{4}}{4!}- \cdots \tag{2} \end{align}
複数行に渡る数式全体の中央に式番号を振りたい場合は、数式環境中にaligned環境を入れ込みます。
\begin{equation} \begin{aligned} Re[e^{ix}]&=\cos x \\ &=1-\frac{x^{2}}{2!}+\frac{x^{4}}{4!}- \cdots \end{aligned} \end{equation}
[出力]
\begin{equation}
\begin{aligned}
Re[e^{ix}]&=\cos x \\
&=1-\frac{x^{2}}{2!}+\frac{x^{4}}{4!}- \cdots
\end{aligned}
\tag{1}
\end{equation}
数式環境全般に適用できるTipsと注意点をいくつかご紹介します。自身で学習する際に、試してみてください。
レポートや論文を執筆していると、文中で式に言及したい場面があるかと思います。LaTeXにおいて式番号の参照は次のように行います。
まず参照したい数式にラベルを付けておきます。
\begin{equation}
E=mc^{2} \label{Einstein}
\end{equation}
これは\(E=mc^{2}\)という式に「Einstein」という参照名が付けられた状態です。この準備を済ませた上で、本文中で\ eqref{Einstein}とすると、参照名に応じた式番号が出力されます(表示の都合上バックスラッシュの後にスペースが空いていますが、実際に入力する際にこのスペースは不要です)。
[例]
\begin{equation} E=mc^{2} \label{Einstein} \end{equation} 式\eqref{Einstein}は世界で最も有名な公式の1つです。
[出力]
\begin{equation}
E=mc^{2} \label{Einstein1} \tag{1}
\end{equation}
式\eqref{Einstein1}は世界で最も有名な公式の1つです。
その都度式番号を手打ちする方法の場合、式番号の変更があった際に逐一参照部分も修正する必要がありますが、その点labelコマンドとeqrefコマンドを用いると式の加筆修正に応じて自動的に参照部分も修正されるので執筆時の労力を大幅に節約することができます。
数物系の文書を作成する上では行列の記述も欠かすことができません。例えば、
\begin{equation}
\begin{pmatrix}
a & b \\
c & d
\end{pmatrix}
\end{equation}
のような行列式を出力するには、数式環境中で以下のように記述します。
\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}
列の区切りが&、行の区切りが\\に対応しています。行列式はvmatrixによって出力できます。
\begin{vmatrix} a & b \\ c & d \end{vmatrix}
[出力]
\begin{equation}
\begin{vmatrix}
a & b \\
c & d
\end{vmatrix}
\end{equation}
他にも様々な様式の行列が出力できますので、適宜参考文献をご参照ください。
[1] "行列と行列式 - matri, pmatrix, bmatrix," 「LaTeX入門」(2024/2/5 閲覧), URL: https://medemanabu.net/latex/matrix-pmatrix-bmatrix/
以下の文書は実際に僕が執筆したものです(頑張りました)。これを数式も含めて再現してみましょう。
図24. アインシュタイン方程式超入門
少し長いですが、一例として以下のようなコードが考えられます。
\documentclass{jsarticle} \usepackage{amsmath,amssymb} %AMS-LaTeX \title{アインシュタイン方程式超入門} %タイトル \author{S. Tsukahara} %著者名 \date{\today} %日付 \begin{document} \maketitle %%%概要を出力したい人はこのように記述 \begin{abstract} 本稿ではアインシュタイン方程式の導出を超ざっくりとレビューしてみる。 \end{abstract} %%% \section{変分原理} %1章 変分原理は物理学のあらゆる分野において基礎的な役割を果たしている。変分原理によれば、運動方程式の解は作用を停留するものとして与えられる: \begin{align} \delta S=0. \end{align} 例えば力学の場合は, \begin{align} \delta S&=\int^{t_{2}}_{t_{1}}\delta L dt \nonumber \\ &=\int^{t_{2}}_{t_{1}}\left(\frac{\partial L}{\partial q}\delta q+\frac{\partial L}{\partial \dot{q}}\delta \dot{q} \right) \nonumber \\ &=\left.\frac{\partial L}{\partial \dot{q}}\delta q \right|^{t_{2}}_{t_{1}}+\int^{t_{2}}_{t_{1}}\left(\frac{\partial L}{\partial q}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}} \right)\delta q dt .\label{Svari} \end{align} となるので、$\delta S=0$となるべしとすれば、解析力学でおなじみのEuler-Lagrange方程式が導出される: \begin{align} \frac{\partial L}{\partial q}-\frac{d}{dt}\frac{\partial L}{\partial \dot{q}}=0. \label{ELeq} \end{align} ここでは簡単のため1粒子系を考えているが、他粒子系へも直ちに一般化できる。 \section{重力場の方程式} %2章 一般相対論の場合も基本的な精神は何も変わらない。一般相対論(いわゆるEinstein重力)の作用は以下のような表式をしている。 \begin{align} S[g;\phi] =\int_{\mathcal{V}}\frac{R}{16\pi}\sqrt{-g}d^{4}x+\frac{1}{8\pi}\oint_{\partial \mathcal{V}}\epsilon \left(K-K_{0} \right)|h|^{1/2}d^{3}y +\int_{\mathcal{V}}\mathcal{L}_{\mathrm{matter}}\sqrt{-g}d^{4}x. \end{align} 1つ目の積分はEinstein-Hilbert項、2つ目の積分はGibbons-Hawking-York項と呼ばれている。3つ目の項は物質場の寄与を表している。この作用にて、計量$g_{\mu \nu}$について変分を取れば、一般相対論における基本方程式であるアインシュタイン方程式が導出される: \begin{align} G_{\alpha \beta}\equiv R_{\alpha \beta}-\frac{1}{2}Rg_{\alpha \beta}=8\pi T_{\alpha \beta}. \end{align} \end{document}
ちなみにこの回答例の中では数式環境を全てalignで統一していますが、1行のみの数式であればequation環境を用いても出力される文書は殆ど変わりません。ただ微妙に数式の上下のスペースが変わるので、その点のみ注意が必要です(おそらく殆どの人は気づかないレベルです)。