10の短編を集めた短編集。どの物語が胸に響くか、残るのかは人によって変わってくると思います。
医者になる、医学部生になってから読んだ自分としては、作中でいいな、こうありたいなと思ったことを自分に取り入れていったような時間でした。
”話題がなくなったら、本人が一番輝いていた時期のことを聞く。そうすれば、治療は決して悪い方にはいかない。”
”逃げんで、踏みとどまり、見届ける。”
抜き出してみるだけではごくごく当たり前の言葉かもしれません…。なんのことだ?とも思われるかもしれません。
ただ物語の中で、この言葉に出会った時この言葉の重みが変わってくると思います。
10の短編のどこで出てくるかは敢えて書きませんが、ぜひ探してみてもらいたいです。
読後には帚木さんが描きたかったという、実際の医療現場を担う、名医でも悪医でもない普通の良医のことを知れると思います。
帚木さんが言うように、
良医というのは患者にはすぐには見えない。じっくりとつき合わなければ彼らの優れたところは分からない。
ものかとも思います。この本を通して普通の良医のことも知ってもらえたらと思います。
文庫版の後書きでは他にも医学生、医師にも考えさせられるような文がしたためられています。ぜひそちらまで読んでみてもらいたい一冊です。
医者のキャリアってどう積むの?一生ってどうなるの?
何になりたいのか?より、どんな人になりたいのか?ばかりを考えていた高校時代…その時出した、出てきた気持ちに従って、ただただ医者になりたくて医学部に入った自分は医者になってからのことは右も左も分からない状態だったので1年か2年の頃に読んでみた一冊です。
当時は何もわかっていないので、こうなんだ!とこれがスタンダードなのかと思っていましたが、今思うとどちらかと言えばこんなキャリアの積み方もあるんだと、視界を広げてくれる本だと思います。
医者のキャリアってどうなんだろうな?自分はどうしたいんだろうな?と悩んでみたことのある方には一度手に取ってみては?とお勧めできる作品です。
もうひとつの風に立つライオン!
この本は「第26回宮崎医科大学すずかけ祭医学展ライオン企画」によって編集された、もうひとつの風に立つライオンです。
さだまさしさんの「風に立つライオン」という歌をキーワードとして、国際医療、地域医療に携わる医師の人生を、自分達の将来の姿として見つめてみたい、という思いが込められています。
国際医療、地域医療に携わってきた6人の医師とさだまさしさんへのインタビューからは、それぞれの医療への真摯な考え、命への柔らかく温かな視線が感じられます。
また医学生へのメッセージもふんだんに盛り込まれています。実際に在野の第一線で働き続けてきた人が、それぞれに練り上げてきた自身の言葉には深みも重みもあり、ふと足を止めて考えさせられます。
医師を志す人にも、またこんな医師もいることを知らない人たちにも読んでみてもらいたい一冊です。
永遠の0を見て感動しただけで終わらせたくなくて、戦時中の医師のことも知っておきたくて読んだ一冊です。
作者は九医卒の医師でもある帚木さん。学士鍋や日本医事新報などの体験談、膨大な資料を読み込んで自分の体験のように語られる物語は胸をざわつかせるような”気持ちの悪い”描写にあふれています。横になった時にふとその描写がよぎるのはそれだけ言葉に力があるからでしょう…。
永遠の0の最後では「戦争を生きた人々はその時の気持ちを隠して何事もないようなふりをして生きている」というようなセリフがありました。中学生のころに一度だけ祖母の口から語られた戦争体験。その時の祖母の表情はどう表現したものかと今でも忘れられません。
蠅の帝国の中では「誰かに話しておきたい。しかし通常の話とは違い、口にするのは勇気がいる。それがその人の顔を瞬間的に無表情にするのだ」と描写されていました。祖母も似たような顔をしていて、その顔を見てしまうと自分はもうそれ以上は聞けませんでした…一度きりの話だと一心に耳を傾けていました。
ぜひ!なんておすすめはしかねるけど、知っておきたいという方は一遍だけでも読まれてみては?と思えた一冊です。