♦ 日焼け止めクリームの化学
夏に大活躍する日焼け止めクリームですが、一体「何から」「どのように」肌を守っているのでしょうか?
①. 紫外線の効果
紫外線は可視光より低波長帯に位置する光線で、波長に応じて2種類の肌トラブルをもたらします。
紫外線A-肌表面に紅斑(炎症)を引き起こします。これが"日焼け"です。紅斑と一緒に発生する酵素は蓄積すると"シミ”になります。
紫外線B-肌内部まで到達し、DNAの破壊を引き起こします。この破壊が”肌老化”につながります。
きれいな肌を保つためには、紫外線AとBの両方を防ぐことが重要です。クリームが紫外線AとBをどの程度防ぐかを示した指標が"SPF"や"PA"です。
SPF (Sun Protection Factor)-紫外線Bの防止効果を表す指数。照射量を10倍減らすならSPF=10となります。
PA (Protection grade of UVA)-紫外線Aの防止効果を段階的に表す指数。4段階に分けられます。
②. 紫外線吸収剤と吸光反応
紫外線の防止には、分子の"吸光反応"が利用されます。概要にとどめますが、分子に紫外線が照射されると次の種類の化学反応が起こります。
構造的に"安定な左"の状態は紫外線を吸収することで、(よりエネルギーが高く)"不安定な右"の状態になります。分子は安定な状態に戻ろうとするので、吸収したエネルギー(熱)を放出し左の状態に戻ります。※ちなみに構造の安定性は"ケト-エノール平衡"と呼ばれる原則に基づいています。興味のある方はこのキーワードで調べてみるといいですよ!
クリームの多くは"紫外線吸収剤"としてこの様な構造の分子を含みます。肌の白さは分子の吸光反応によって守られていたのです…!!
③. 効果の持続性
クリーム選びで重要なことはSPFやPAだけではありません。水や汗でクリームが落ちたり劣化すると、クリームの効果は著しく減少します。
実用面でより重要なことは"クリームがどれだけ肌表面に持続されるか"です。
油など水と馴染みにくいものを"撥水成分"と言います。クリームにも撥水成分が含まれており、これが肌表面で薄膜を作ることで防水効果を得ることができます。
問題はほぼ必ず"ムラ"ができることです。ムラができると相対的に撥水性の低い部分から膜が剥がれてしまいます。しかも肌にはもともとムラがあるためムラの改善にも限界があります。
そこで注目され始めたのが、全く異なるメカニズムの耐水機能、”凹凸膜の撥水性”です。
大気中で水滴は球体状ですが、これは空気もまた撥水的なために水との接触面積を減らそうとするからです。膜が非常に細かい凸凹で構成されていると、凹中に入り込んだ空気が入り込み、膜と水との接触が著しく阻害されます。
「効果長持ち!」のフレーズは、この界面幾何学特性に裏づけされたものだったんです!
ちなみに、このメカニズムを用いると油分含有率が減るため、"みずみずしい”使用感のクリームの開発にもつながりました。