私の卒業論文のテーマは「サシバエ(ハエ目:イエバエ科)の飛翔と牛の忌避行動の関係」です。サシバエは世界的な畜産害虫で、牛をはじめとする哺乳類を吸血します。このサシバエの吸血により、牛畜産において様々な被害が出ています。1つ目は乳量・肉量の減少です。サシバエにたかられた牛は、体にとまっているサシバエを振り落とすために、忌避行動(身震い、頭・尻尾を振り回すなど)をとります。この行動が、余計な体力の消耗や摂食時間の減少に繋がり、生産される乳量や肉量が減少してしまいます。もう1つは病原体の媒介です。サシバエは様々な病原体を機械的伝播することが分かっています。特に日本では牛伝染性リンパ腫が深刻で、2000年代から発症個体が急増しています。これらの病気を発症した個体は、法律に基づき殺処分されるため、その被害は深刻です。
このように深刻な被害を出しているサシバエに対して、生産者の方々は殺虫剤散布による防除を行っています。しかし、その多くは生産者の感覚頼りで、サシバエの大量発生が確認されたのちに散布をしています。一般的に害虫の防除はモニタリングの結果に基づき、大量発生が起きる前に取り組まなければならないため、サシバエに対してもモニタリングに基づいた防除が必要となります。
現在研究者によって行われているサシバエのモニタリング法は2つあります。1つ目は粘着シートによるトラップに捕らえられたサシバエの集計です。しかし、この方法は設置・回収・集計などの手間がかかるため、多くの仕事を抱えている生産者にとっては大きな負担となってしまいます。2つ目は牛の前脚にとまっているサシバエ数の集計です。この方法は、トラップによる方法と比較すると、あまり手間はかかりませんが、サシバエと他のハエを判別するのが難しい点がデメリットとして挙げられます。
このように、現状、生産者でも簡単に実施できるようなモニタリング法は確立していません。そこで、私は新たなモニタリングの指標として牛の忌避行動が活用できるのではないかと考えました。サシバエの飛翔程度と牛の忌避行動の頻度に相関があれば、サシバエのモニタリングに活用することができます。さらに、この方法は牛の忌避行動を観察すればよいため、生産者にも負担があまりかかりません。
そこで、本研究はサシバエの飛翔活動と牛の忌避行動頻度の関係を明確にすることを目的とし、サシバエの有効なモニタリング法について議論を進めました。論文は英語で執筆し、イントロダクションからディスカッションまで2068 words、11ページになりました(グラフを除く)。
時期 |
やったこと |
3年生 7月 11月 3月 4年生 8月 12月 1月 2月 3月 |
卒論テーマ決定 野外調査開始 学会で中間報告
学部内で中間発表 野外調査終了、卒論執筆開始 卒論提出 学部内で最終発表 学会で最終報告 |
私は以上のようなスケジュールで卒論に取り組みました。テーマについては、研究室全体でサシバエの生物的防除に取り組んでいたため、指導教員と話し合い、その実用化に必要な要素の1つであるサシバエのモニタリングに着目しました。野外調査は月に1回、福岡県内の酪農農場で実施し、約1年間継続しました。また、何度か発表を行いましたが、最初の発表でベースとなるスライドを作成し、それ以降の発表では、毎回データや情報を追加する形をとっていたので、あまり準備に時間はかかりませんでした。卒論執筆の際は、結果をどのように組み合わせて分析し、それをどのグラフで示せば読者に印象を残すことができるかについて、指導教員だけでなく、同じ研究室の先輩とも多くの議論を交わしました。執筆に向けて読んだ先行研究の数は把握していませんが、参考文献の数は29個になりました。
上のスケジュールで示したように、私は4年生の12月に野外調査を終え、卒論の執筆を開始しました。部活動も12月まで続いたため、仕方なかった部分もありますが、その結果、卒論の提出がギリギリになってしまいました。今振り返ってみると、野外調査やデータ分析が終わっていなくても、イントロダクションやマテリアルアンドメソッドはある程度書くことができるので、それらにもう少し早めに取り組んでおくべきだったと反省しています。特に私のような体育会系の部活動に所属している方は、4年生の秋ごろまで活動されることが多いと思うので、何事も他の人より早めに開始し、コツコツと取り組むことをオススメします。