九州大学法学部の教員が新入生におすすめする本2025: か・さ

大きなものの見方、いろいろな角度からの見方ができた方が法学が面白くなります。よく知られた本ですが、そのためのヒントとして。

大学には人生を変える出会いがあるものです。本書は比較法がご専門の青木人志先生（一橋大学）による半生記で、大学生活を通じた人との、学問との出会いが綴られています。終章「法という「劇場」——法ができるドラマ、法の上のドラマ」は優れた法学入門になっています。同著『グラフィック法学入門 （第2版）』（新世社、2021年）もおすすめです。

法学の勉強を始めると、日本法が意外に「洋風」であることに気付きます。本書は民法を題材に、西洋語に由来する「権利」「法律行為」「所有」「占有」「公序良俗」といった法律用語の成り立ちを解説しています。若い皆さんにはぜひ今のうちから諸外国語を学んでもらいたいと思います。

15世紀末フランスを舞台にしたリーガル・サスペンス小説（直木賞受賞）。フランス王ルイ12世と王妃ジャンヌ・ドゥ・フランスの婚姻無効訴訟をめぐって、主人公であるパリ大学の学僧フランソワが王妃の弁護に立ち奔走します。法や裁判の仕組み、大学の様子が詳しく描かれており、当時の雰囲気を追体験しながら楽しく読めるはずです。

私が法学部に入学したのは、今から約30年前になるが、憲法、民法、刑法などの基本科目を学び始めるや否や、法学は抽象度が高く、学ぶべき知識量も多いことに気づかされた。暗記しなければならない事柄も少なくなく、さらに、技術的かつ精緻な議論が展開されるため、それらの科目を学びながら、少なからず戸惑ったことを覚えている。そうしたとき、各科目の全体像を俯瞰できる入門書を1冊読んでから本格的な教科書や体系書に取り組むと、理解がスムーズになったと感じている。その経験に照らせば、法学部に入学された皆さんにも、法学入門を読んでいただくとよいのではないかと考えている。優れた法学入門は数多く存在するが、本書は、法が社会で果たす機能や法学の学び方を分かりやすく解説しており、入門書として特にお勧めできる。また、本書については、出版元である有斐閣の月刊PR誌「書斎の窓」に、小粥太郎教授（民法）と清水剛教授（経営学・経営史）が、それぞれの専門分野の視点から興味深い書評を寄せておられる。これらの書評はインターネットで公開されているので、関心のある方はぜひ目を通していただきたい。

私たちは、数多くの科学技術や文化芸術に囲まれ、それらの恩恵を受けて日々の暮らしを送っている。知的財産法は、科学技術に関わる特許法の保護対象である「発明」や、文化芸術に関わる著作権法の保護対象である「著作物」などの「人が生み出したもの（知的成果物）」が、生み出され（「創出」）、世の中に送り出され（「媒介」）、享受される過程に関わる様々な主体（アクター）の行動に影響を与える。発明家やアーティストの重要性は言うまでもないが、私たちがこれらのアクターが生み出す知的成果物を享受するためには、知的成果物を送り出す「媒介者（メディア）」の存在も不可欠である。現代社会には、テレビなどの「マスメディア」に加えて、YouTube、X（旧Twitter）、Facebookなどの「ソーシャルメディア」があふれており、ソーシャルメディアを通じて何かを発信する際には、皆さん自身がメディアとして振る舞っていると言える。「メディア」という言葉は、今やすっかり日常用語となっているが、その語源は、本書が示すとおり、聖と俗を結ぶ「憑坐（よりまし）」であった。本書を読むと、メディアという存在の根源的な意味を知るだけでなく、著者の博覧強記ぶりに圧倒されるだろう。私は、本書の著者のような研究者こそが、「本物の学者」であると考えている。新入生の皆さんには、大学生活の中で、本書のような「知の凄み」を感じられる書物に数多く出会ってほしいと願っている。

私は、この5年ほど、いわゆる「空飛ぶクルマ」の社会実装について、人文社会系と自然科学系の両分野の研究者と文理横断的な研究に従事してきた。「空飛ぶクルマ」とは、「電動・垂直離着陸型・自動操縦の航空機などによる身近で手軽な空の移動手段」である（「空の移動革命に向けたロードマップ（改訂案）」（2022年）による）。歴史を振り返ると、鉄道、自動車、航空機などの新たな移動手段は、人々の移動のあり方を劇的に変え、その変化は生活環境や都市環境のみならず、生活習慣、価値観や世界観等の、多岐にわたる領域に及んでいる。新しい移動手段が及ぼすインパクトが大きいからこそ、登場しつつある「空飛ぶクルマ」の様々な可能性と課題について、幅広い分野の、様々な立場の人たちが手を携えて議論を行う必要がある。その際に、鉄道、自動車、航空機等の歴史から学ぶべき教訓は多いだろう。本書は、「空飛ぶクルマ」と同じく「垂直離着陸機」であるヘリコプターが、どのように開発され、社会に実装され、どこに社会的な普及の限界があったのかといった点について、技術と社会との関わりを含めて興味深く論じている。私自身への戒めでもあるが、一見すると新しく見える課題に向き合うときこそ、「温故知新」という視点を忘れずに学ぶ必要があると考えている。

法と経済学という法学と経済学の双方の知識を要する学際領域について、幅広く検討した良書です。法学部での法学の学習や、基幹教育での経済学の学習をした2年生以降に読むと理解しやすいと思います。卒業後の実務でも色々と役立ちますので、興味のある部分を中心に、在学中に一読してみることをお勧めします。

法学部では、判例を勉強する機会に数多く直面すると思います。その際、判例の読み方を知っておくと、判例の勉強がかなり容易になります。本書は、判例の読み方について定評のある書籍であり、法学部での勉強の際に適宜、参照することをお勧めします。司法試験、公務員試験等の試験を受ける方が、合格する上でもとても有益です。一部、難解に感じる部分もあるかもしれませんが、繰り返し読んで判例の理解を深めてみて下さい。

「人間がいかに生きるべきかを見て、現に人が生きている現実の姿を見逃す人間は、自立するどころか、破滅を思い知らされるのが落ちである」（131頁）。

「わたしはデモクラシーを知りたかった。少なくともそれに何を期待すべきか、何を恐れるべきかを知るために」（第2巻上28頁）。

「私にとって貴族とは、常に自己超克しようと努力する生、あるいは既存の自己を超え出て、自らに義務や要求を課することへ向かう生のことである」（140頁）。

物事を分析するということがどういうことなのか。その基本を学べる素晴らしい入門書です。

一時期大ブームを引き起こした本です。具体的な事例をもとに、各思想に基づく多様な考え方を学ぶことができます。何が正しくて何が正しくないのか、悩みながら楽しく読める本です。

一般向けに書いたものですが、社会科学的な思考を実践に生かすとはどういうことなのかがよく分かると思います。公務員志望の方だけでなく、誰にとっても役立つ内容だと思います。

法学・政治学を学ぶに当たっての必読文献。我々にとって当たり前とも思える国家や法を改めて問い直す必要性を感じさせる重要な書籍。