九州大学法学部の教員が新入生におすすめする本2025: た行

分からない言葉が漢字で書いてあると、とりあえず漢字の意味から推測しがちだが、法律用語の場合は由来を知っておくと助かることもある。授業で専門用語が出てくる前に、なんとなくイメージをつかんでおくといいのではないか。

読み物として。今読み直すと、ゴルギアスの次の論敵であるカㇽリクレスとの問答が印象深い。「自然の正義」とは「強者は弱者のものを力ずくで奪い、優者は劣者を支配し、そして立派な者はくだらない者よりも多く持つという、そういうこと」で「大国はより強いのだから、すなわち、より力があるのだから、自然の正義に従って、小国へ侵攻するのだ」という主張が、どう退けられたか。

債権各論分野の古典的名著。それほど前提知識がなくても、なんとなくは読めるのではないかと思う。現在の主流の考え方とは異なる部分も多いが、授業を受けて比べてみるのもよいかもしれない。

「入口の入口」になりうるという趣旨で、一般書を3冊挙げます。1冊目は、2024年に放送された連続テレビ小説「虎に翼」の史実部分の実質的な原作といってよい作品です。家庭裁判所という一風変わった裁判所が、なぜつくられ、どのような問題に直面しながら、現在に至ったのか。著者のきわめて周到で緻密な調査を土台として、本書は、制度にかかわる人びとの「まなざし」や制度のなかに宿る「魂」を浮かび上がらせています。本書は、実は、九州大学とも色々な意味で縁が深いのですが、その話は、また、授業で。

「永山基準」という言葉に触れずに卒業する法学部生はいない、といってよいでしょう。本書は、永山事件の控訴審判決（船田判決）に光を当てています。この事件では、その後、最高裁が死刑の適用基準として「永山基準」を示すことになります。一般性をもつ基準の背後にある、個別事案における具体的な事情、個としての被告人、そしてそれらと真摯に向き合おうとする法律家の苦悩を、本書は、丁寧に炙り出していきます。同じ事件で精神鑑定にあたった医師の苦悩を描いた、同じ著者の手による『永山則夫——封印された鑑定記録』（岩波書店、2013年、講談社文庫、2017年）も、ぜひ手にとってみてください。著者のきわめて綿密な調査・取材にも、きっと驚くはずです。

仮釈放となった無期刑受刑者を主人公として、果たして「罪」とは、「罰」とは、「更生」とは何か、を問う小説です。著者は、著名な小説家ですが、執筆の前準備として、裏づけとなる史料のみならず証言を得るために、徹底して取材を行ったことでも知られています。著者が、「刑務所・囚人もの」と称されるジャンルの作品についても、関係する職にあった者に丁寧な聴き取りを行ったうえで作品づくりにあたっていたことを知れば、細かな歴史や機微な心情の描写も、いっそう深く堪能することができるでしょう。

袴田事件の主人公は袴田巌さんという冤罪の被害者ですが、誤って死刑を言い渡すことになった裁判官もまた人生を狂わせられた、冤罪被害者でした。

偏見・差別構造を平和条約以降も残し続けた戦後の日本社会において、憲法の保障するべき個人の自由・平等とは何か考えさせられます。別の文脈ですが、しかし同じ趣旨で、同著者の『砂の器』原作の映画版（野村芳太郎監督、1974年）も名作でお勧めです。

専門知を軽視する風潮がありますが、改めて、言葉とは、知とは、理性とは何か、ひいては大学で学ぶとは何か、図書、図書館の重みを考えてみてください。

練習問題形式で、法学部生に必要な文章作成能力を身に付けることができる一冊です。

同じ本を、紙の本で購入した場合と電子書籍として購入した場合で、あなたがもつ権利は同じなのでしょうか。高校生向けのセミナーが100ページ程度でまとめられており、読みやすいです。

イラストが多用されていることに特徴があります。民法の講義が本格化する前に、一読をおすすめします。

混沌とした現在の世界を考察するヒントに富む書籍の一つとしておすすめします。

3人の裁判官を通して知られざる裁判の舞台裏や裁判での人間模様を描いた漫画です。ドラマや映画にもなりましたが、原作の漫画が断然おすすめ！弁護士による法律監修済み。登場人物である判事（裁判官）のモデルとなった方の本も「おすすめの本」として紹介します。あわせて読んだら、刑事裁判の深い面白さにはまること、間違いなし！

本書は今村核弁護士の足跡を追ったNHKドキュメンタリー番組「えん罪弁護士」を大幅に補充・再構成したもの。報われなくても弁護に人生をかける今村弁護士の姿は、人間は何のために生きるのか、考えさせられます。今村弁護士ご自身の著作として『冤罪と裁判』（講談社現代新書、2012年）もおすすめ。漫画『イチケイのカラス』の入間みちお判事（裁判官）のモデルが、この今村弁護士なのです！

本書は、捜査官による違法・不当な行為やそれを見逃す裁判官の優柔不断さが冤罪の原因となっていることを、多くの事例で明らかにしようとするもの。木谷明元裁判官は、最高裁調査官や東京高裁部総括判事などを歴任、30件を超える無罪判決を出されました。漫画『イチケイのカラス』の駒沢義男部総括判事（裁判官）のモデルが、この木谷先生なのです！