「ユーザーセンタード・デザイン」という言葉、デザインを学んでいる皆さんは、きっと耳にしたことあるでしょう。「ユーザーセンタード・デザイン」はUser-centered Designを日本語にしたもので、UCDとも略されます。
「ユーザーセンタード・デザイン」の他にも、「ヒューマンセンタード・デザイン、人間中心設計 」などの似ている言葉は授業や論文でもよく見られると思います。それらの概念にはどんな関係があり、ぞれぞれ一体どんなものなのでしょうか?
図1 ユーザーセンタード・デザインのコンセプト図(筆者作成)
本ガイドは、「ユーザーセンタード・デザイン」を中心に、その定義、手法、活用事例、ならびに関連する概念について説明しています。本ガイドを読んだ皆さんが、ユーザーセンタード・デザインに興味を持ち、理解した上で、自分の作品、研究に役に立ていただければ嬉しいです。
ユーザーセンタード・デザイン(以下はUCD)について一言で説明すると、デザイナー・関連開発者がどうデザインするかを決めるのではなく、ユーザーがどのように製品やサービスを使うかによって、どうデザインするかを決めることです。
UCDの内容を紹介する前に、UCDの概念について、まずは3つの代表的な定義を見ましょう。
UCDはアメリカの認知科学者であるドン・ノーマン(Donald Norman)によって提唱されました[1]。ノーマンはステファン・ドレイパー(Stephen Draper)と共著した本 User Centered System Design: New Perspectives on Human-Computer Interactionの中に、下の通りに述べています:
The purpose of the system is to serve the user, not to use a specific technology, not to be an elegant piece of programming. The needs of the users should dominate the design of the interface, and the needs of the interface should dominate the design of the rest of the system. (p.61)
システムの目的は、特定の技術を使用することでもなく、プログラミングの良い成果を出すことでもなく、ユーザーにサービスを提供することである。システムにおいて、ほかの部分の設計はインタフェースのニーズによって支配されるが、インタフェース自体の設計はユーザーのニーズによって支配されるべきである。
そのあと、イギリスの人間工学学者ブリアン・シャクル(Brian Shackel)はサイモン・リチャードソン(Simon Richardson)と共著した本Human Factors for Informatics Usabilityの中で、次のように書いています[1]:
Designers must understand who the users will be and what tasks they will do. This requires direct contact with users at their place of work. If possible, designers should learn to do some or all of the users’ tasks. Such studies of the users must take place before the system design work starts, and design for usability must start by creating a usability specification. (p.31)
デザイナーはユーザーが誰か、どのようなタスクを実行するのかを理解しなければならない。これは現場にいるユーザーとの直接なコンタクトを求める。可能であれば、デザイナーはユーザーのタスクを一部または全部を行うことを勧める。このようなユーザ研究はシステム設計作業が始まる前に行われ、ユーザビリティ設計ではユーザビリティ仕様の作成から始められるべきである。
ノーマンとシャクルは認知科学と人間工学の視点からそれぞれのUCDに対する定義を作っていますが、その内容を見るとどちらともシステムをデザインの対象としています。
UCD以外に似た概念として「ヒューマンセンタード・デザイン」(「人間中心設計」は同じことを指す)という概念もシステム開発の業界に出てきました。これは人間を中心としたデザインという意味を指しています。実際に国際規格にも定義されています。国際標準化機構が制定したISO9241-210においてこう述べられています:
Approach to systems design and development that aims to make interactive systems more usable by focusing on the use of the system and applying human factors/ergonomics and usability knowledge and techniques. (p.2)
システムの使用への注目、および人間工学と使いやすさの知識・技術の適用によって、インタラクティブシステムをより使いやすくすることを目指すシステムの設計・開発へのアプローチである。
システムのユーザーは人間なので、ほとんどの場合にヒューマンセンタード・デザイン(Human-centered Design、以下HCD)をUCDとみなしても良いでしょう。現在、UCDとHCDの二つの概念は研究者たちに同一視される場合多いので、本ガイドでもUCDとHCDを同じものとして扱います。UCDはシステム開発に対する研究から生まれましたが、現在ではプロダクトデザイン、サービスデザインなどで幅広く応用されています。
参考:
[1]ユーサイト. 黒須教授のユーザ工学講義 (2011) <https://u-site.jp/lecture/20110329>
近年、国内外の産業界、学術分野で、UCDは注目を浴びており、製造業、デザイン業、コンサルティング業、IT業などにわたって、UCDの考え方を導入した会社が多くなっています。それらの業界に目指す人にとって、UCDは不可欠な知識だと私は思います。
ここでは、Youtube上のUCDに関する紹介用のビデオ(英語)をご共有します。
リンク:https://www.youtube.com/watch?v=UvK6T8Jl7ao