UCD/HCDに関して、産学界からさまざまな手法が紹介されています。『使いやすさのためのデザイン:ユーザーセンタード・デザイン』という本の中で著者等が、UCDの手法を「調査や分析のための手法」、「デザインのための手法」、「評価のための手法」に分けています。今回では「デザインのための手法」から、学生がコンセプトデザインの段階で簡単に利用できる三種類の手法を選んで紹介します。
参考:
[7]山崎和彦, 吉武良治, and 松田美奈子. "使いやすさのためのデザイン-ユーザーセンタード・デザイン." (2004).
ペルソナ手法とは検討対象となる商品、サービスなどから仮想の人物(ペルソナ)を想定する手法です。ペルソナ手法を活用すれば、デザイナー・開発関連者は「誰が何のためにその商品を使うのか」についてより明確にし、ユーザーに対する戦略を中心にしながら、事業、ユーザーと技術のバランスをとったデザインストラテジーの作成が可能です。
簡単に説明すると、商品、サービスをデザインする際、まずは商品、サービスのユーザーの個人像を予想しておく手法です。ペルソナにおいて、ユーザー本人のスペック(基本情報と特徴)、何か困ったことがあるか(課題)、ならび、製品・サービスを経由して達成したいゴール(目標)などを記入します。
図8:ペルソナの記入例(筆者による作成)
ペルソナはデザイナー・開発関連者個人の想像ではなく、さまざまな調査に踏まえてユーザーのニーズを把握した上、その中の代表的な人物像を選んで作成します。これは次の段階に行われる発想、設計、実装などの基礎とも言えるでしょう。
シナリオ手法とは検討対象となる商品、サービスなどを利用する場面(シナリオ)を想定する手法です。シナリオ手法の活用で、デザイン上の課題を発見し、ユーザー視点からその改善策を取り組むことが可能です。
シナリオではペルソナを参考した上で、特定なユーザーが製品・サービスなどを利用する時、どんな行動をとるか、どんなできことがあるか、どんな価値が実現するかなどを、文字または図などで表現します。目的・好みによって表現の方法が異なるため自由度が高いですが、ここでは一部の研究者に使われる9コマシナリオを例として示します。
図9:シナリオの作成例:9コマシナリオ(筆者による作成)
9コマシナリオでは、まずはターゲットとされたユーザーのペルソナを明確にした上、ユーザーが向き合う状況、その過程にとる行為、引き起こす変化などを絵で述べます。そして、最後にこの一連の活動で達成する主要ゴール、および副次的ゴールを表現します。シナリオでユーザーが商品、サービスなどを利用する際、どんな課題を解決すべきか、どんな価値が求められるかなどの問題が明らかになります。
9コマシナリオはあくまでユーザーシナリオを記述した方法の一つです。コミック、文書、システム図など、いろいろな方法がシナリオの作成に用いられますが、最終の目的はユーザーが製品・サービスの利用を経由して何を求めるかを明らかにすることです。
ユーザーのペルソナとシナリオを明確にしてから、いよいよ実際にデザインをする段階に入っていきます。そして、デザイン案を進める際にいかにユーザー視点からデザイン案の試作・修正をするかについて、ここではペーパープロトタイピング手法を推奨します。
ペーパープロトタイピングとは、紙で実際にアプリやサイトを「実装する」ことです。 例えば、あるアプリを開発する場合、機能やインタフェースについてさまざまな発想・提案がありますが、通常の開発においてコンテンツが使いやすいかどうかは、開発が終盤になるまでわからないため、インタフェースや手触りが重要なモバイル系のアプリを紙とペンでインタフェースをシミュレートして低コストで検証します。
ここでは動画で、ペーパープロトタイピングのやり方を見ましょう。ペーパープロトタイピング手法を用いて、「コンセプトデザイン」と「設計の洗練」の段階でアプリのユーザビリティを検証、修正することが可能です。
リンク:https://www.youtube.com/watch?v=yafaGNFu8Eg
システムのインタフェースを考案する際のメリットが多いので、ペーパープロトタイピングはデザイナーに愛用されていますが、製品、サービスをデザインする際にも活用できます。紙などの簡単に手に入られる安価な材料で試作品を簡単に表現できれば、インタフェースと同じく利用する場面をシミュレートすることが可能です。
この段階でさまざまなデザイン案の評価・修正を繰り返すことで、最終案(複数の候補案がある場合もある)を決定します。そして、本格的なデザイン試作、およびその後の実装に進みます。