「用語の定義」に書いた通り、本ガイドではUCDとHCDを同じものとして扱いますので、ここでは両方のプロセスとも紹介します。UCDとHCDのプロセスについてはさまざまな説がありますが、まずは米IBM社のUCDプロセスを主として紹介します。
IBMのUCDプロセスは6つのステップで構成されています:
Step1 市場の定義:目標の明確化と活動の計画
このステップにおいて、商品(プロダクト、サービス、システム)について、ターゲットとされるユーザーが何のためにどんな気持ちで利用するかを明らかにします。その上で、ユーザー、競合商品、およびストラテジーの確立をします。
Step2 ユーザー情報と競合商品情報の理解:タスク分析と競争力の調査
このステップにおいて、ユーザーが商品の利用で達成したいゴール、そのために行う行動、ならびに競合商品を調査することで、ユーザーに関わる情報、ならびに競合商品に対する評価などを明らかにします。調査の結果から、ユーザーの要求事項をまとめ、新しいデザイン案の解決すべき課題を明確にします。
Step3 コンセプトデザイン:デザイン戦略とコンセプトデザインの視覚化
このステップにおいては、ユーザー調査と競合商品に対する調査に基づいて、ユーザーが商品を利用する際のシナリオを設定し、商品の基本要件を策定します。その上で初歩的なデザイン案を作成して、各案に対して比較・評価を実施します。
Step4 設計の洗練:設計と評価の繰り返し
このステップにおいて、各種の初歩的なデザイン案の比較・評価を通じて、デザイン当初の目的を満たすか、シナリオの妥当性、製品・サービスの有用性を確認します。その上で、問題点・要望・新しいアイディアを収集して早期段階のプロトタイプを試み、繰り返して洗練を行います。
Step5 評価と妥当性の検証:想定ユーザーによる評価と検証
早期段階のプロトタイプから得られた知見を活用しながら、詳細なデザイン案を実装します。そして、参加者を募集して利用の体験で評価を行います。デザイン案が「ユーザーの期待に応えているか」でデザイン評価をして、開発段階の修正・仕様変更をします。
Step6 市場での評価:ベンチマーク評価
以上の活動で出荷品を完成させます。そして、ユーザーの出荷品に対する評価を確認し、今後の開発に活用します。
以上のプロセスを図で表現すると、以下の通りです。
図5 IBMが規定したUCDのプロセス(山崎氏の論文を参考して筆者作成)
参考:
[2]日本人間工学会. プロダクトデザインの基礎:スマートな生活を実現する71の知識 (2014).
[3]山崎和彦, 吉武良治, 松田美奈子. "使いやすさのためのデザイン-ユーザーセンタード・デザイン
[4]山崎和彦. "ユーザーセンタード・デザインの展開 (1)." 日本デザイン学会研究発表大会概要集
HCDは最初にUCDと同じく、システムデザインに用いられるアプローチであり、国際標準化機構が設定したISO13407に定義されました。2010年の改定によってISO9241-210に変更されてきました。その中では、HCDのプロセスは以下のように規定されています:
まず、「利用状況の把握と特定」から始まります。この段階で、ユーザー、仕事、利用環境などの要素から、サービスや製品などをどう使うかを定義して記述します。
次に、「ユーザーの要求事項の明確化」においては、ユーザー情報に基づいて、デザイン案に対応すべき要求事項をまとめて明示します。この段階では、利用状況に関するユーザーと組織の運用面、財政面などの要求事項を明確化して記述します。
そして、「デザインによる解決案の作成」に進んで、デザインを実行します。この段階で、利用状況の分析などに基づいて、シミュレーション、モデル、モックアップなどを利用し、設計による解決案を具体化します。解決案に対して、想定したユーザーに利用させてフィードバックを得た上で、デザイン案を改善します。
そのあと、要求事項に対してデザインの評価を行います。この段階で、完成度の高いプロトタイプを利用して、ユーザーの目的が達成されるどうかを基準として評価し、より具体的なフィードバックから、最適なデザイン案を選定します。
最後にデザインの過程、成果を整理、報告します。ここでユーザーの要求事項が満たされていないことが判明した場合、適切な段階に戻って繰り返し、「満足する」といった評価が得られるまでデザイン案の修正を続ける必要があります。
図に表現すれば、下に示されるものとなります。
図6 人間中心設計のプロセス(ISO9241-210を参考して筆者作成)
参考:
[5]黒須正明, 高橋秀明. ユーザー調査法 (2016).
[6]日本規格協会. Z8530:2000 (ISO 13407:1999) (2000).
以上の2種類のプロセスをまとめると以下のような流れとなります:「計画の確立」、「ユーザー調査などの実施」、「調査結果に基づいてユーザー要求などのデザインコンセプトを明確化」、「デザインの実施・プロトタイプ」、「ユーザーによる評価」。図に表現すれば、下に示されるものとなります。
図7 ユーザーセンタード・デザインのプロセス図(筆者作成)
なお、システム・製品・サービスの設計・実装はこれで終わるわけではありません。ユーザー評価の結果から発見した課題に対して、新たな修正・改善したり、得られた知見を次回の開発に活かす場合もありますので、このプロセスは循環往復の形をとるのです。
UCDは製品・システム・サービスをデザインする手法として、そのプロセスについて異なる考え方があります。IBMのUCDプロセス、ISO9241-210のHCDプロセスはあくまでその中の二種です。本ガイドでは「UCDに関する本と論文の紹介」においてほかの関連資料も紹介しています。
それ以外にも、YoutubeでいろいろなUCDプロセスに関する紹介・議論が見られます。内容的に大きな違いはありませんが、ほかのデザイナー、研究者のUCDに関する考え方を直接にみることができますので、皆さんの参考になる動画を共有します。