この本はライトノベルの中でもトップクラスに人気のある作品です。主人公キノは喋る二輪車エルメスと一緒に旅を続けており、訪れる各地で様々な文化や人々と触れ合います。どちらかというと楽しい旅行記という感じではなく、人間の業を強く描いているため物語の中では常にむなしい空気が流れています。
『わたし、解体はじめました』
畠山千春 木楽舎
理系図書館所蔵
福岡で狩猟生活を実践している女性のエッセイです。
狩猟生活を通して、著者は「命を頂く」という意味を考えていきます。イノシシの絞めかたから美味しいレシピまで掲載していますので、ぜひ参考にしてみてください。
『原色家畜家禽図鑑』
上坂章次 保育社
中央・理系・芸工図書館所蔵(芸工は禁帯出)
食用や産業用に用いられる産業動物についてイラストを交えて詳しく解説した本です。ペットショップではお目にかかれないようなウサギが多く掲載されています。ウサギの品種によって美味しかったり美味しくなかったりするそうです。イラストを見る限り今回使用したのは「ニュージーランド・ホワイト種」のようです。
家畜としてのウサギの飼育方法と繁殖方法を解説した本です。出版が昭和33年なのでだいぶ情報が古いかもしれませんが、繁殖方法に関しては事細かく記されています。自分でウサギを飼育して食べたい人にお勧めです。
今回は「キノの旅」2巻“人を食った話”に出てくるウサギの煮込みに挑戦します。主人公キノが人の言葉を話す二輪車エルメスと旅をしているある朝、雪で立ち往生している男たちに出会います。男たちに食料を分けてくれないかと頼まれたキノは、携帯食料を分け与える代わりにウサギを銃で仕留めて調理を始めます。人助けも悪くないと何回かウサギを仕留めてふるまっていたキノですが、男たちの本当の職業は・・・・。
小説から読み取れる料理の描写として、
・ ウサギを自ら仕留めて解体している
・ 野外で料理している
・ キノ(主人公)は料理が上手ではない
・ 食べた人が極限に空腹であったとはいえおいしいと言ってもらえる
・ 味はちょっとしょっぱい
・ 塩と胡椒を後から振りかけている
・ 雪を溶かした水で煮ている
・ 旅行中なので材料・調理器具も最低限
・ 鍋は男たちから大小二つのものを借りている
というのが読み取れました。
これらを考慮して、ウサギの煮込みを再現しようと思います。この料理はジビエを扱っているという点で誰も作ったことがなさそうですし、ウサギを食べたことがないので味の想像がつきません。
現行の法律では狩猟免許を持っていない私は、主人公のように手ずから銃でウサギを仕留めることができないので、ネットでウサギ肉一羽を購入しました。
じゃーん。
ぎゃいひー!といって逃げたいところですが、そうしたところで代わりにやってくれる人はいません。イノシシを一人で解体できる母方の祖母を恐山のイタコのように憑依させ(たつもりで)がんばりました。可愛いウサちゃんを解体するなんて無理とお考えの方はすでに解体されてあるウサギ肉を用いても構いません。
ウサギの解体についてはこの本を参考にしました。
「料理人のためのジビエガイド」 神谷英生 柴田書店 理系図書館所蔵
今回はスペイン産の冷凍ウサギを使いました。購入した時点で毛皮ははいであり、細菌感染防止のため腸は抜いてありました。このうさちゃんは大体1kgぐらいです。目は赤かったので毛の色は白だったのでしょう、野生のうさぎではないと思います。動物の解体は苦手な人も多いでしょうから、写真の掲載は取りやめました。
① 内臓を取り出します。取り出したらおなかの部分をしっかり流水で洗いましょう。
② 頭を切り落とします。うさちゃんのつぶらな瞳が心に刺さります。
③ 前脚を外します。骨と骨の継ぎ目にナイフを入れるのがポイント。
④ モモとバラの付け根を切ってモモを開きます。
⑤ モモを開いて大腿骨の付け根を切ります。
⑥ ナイフの先を骨盤に沿って入れてモモを外します。
⑦ ろっ骨を外して魚でいう三枚おろしの状態にし、骨を外して一口大の大きさに切ります。
これでウサギが解体できました。
頭以外の骨の部分はだしを取る際に使うのでとっておきましょう。ヨーロッパではウサギの脳味噌をポワレなどの料理で食べるそうですが、クロイツフェルト・ヤコブ病(人間版BSE)が怖いので食べませんでした。原因物質であるプリオンタンパクが熱変性しにくいためです。皆さんも脳みそは食べないようにご注意。また、解体に使用した道具はエタノール殺菌と火炎消毒をしっかりと行いましょう。消毒を怠るとウイルス感染でE型肝炎になる可能性があります。
材料
ウサギ 1羽分 (約1kg)
コンソメキューブ 1個
ローリエ 2枚 (キノの旅の世界では野草として自生していると仮定して・・・)
ローズマリー 2-3本 (キノの旅の世界では野草として自生していると仮定して・・・)
塩コショウ 適量
オールスパイス 適量 (なくてもいいです)
白ワイン 適量
オリーブオイル 適量
作り方
① ウサギ肉に塩コショウ、オールスパイスを振りかけて混ぜ、5分ほどなじませます。
② フライパンにオリーブオイルを塗ってウサギ肉を軽く焼き色がつくまで焼きます。この時に完全に火を通す必要はありません。
③ 同じフライパンでウサギの骨を焼きます。これも同様に軽く焼き色がつくまで。
④ 鍋(もしくはきれいに拭いたフライパン)に焼いたウサギの骨を入れ、水をひたひたになるまで入れて中火で熱します。この際にローリエとコンソメキューブを加えましょう。
⑤ 沸騰したらあくが出始めるのでこまめに取りましょう。個人的な感想ですがイノシシよりは灰汁が少ないです。
⑥ 10~15分ほど煮てあくが出なくなったら骨だけを取り出し、肉を加えます。この時に焼いた肉から出た肉汁も一緒に加えましょう。
⑦ 白ワインを回し入れ、ローズマリーを加え中火で煮ていきます。
⑧ 5分ほどたったらローズマリーを取り除きます。ローズマリーは結構薬臭いにおいがするので煮すぎに注意。この後煮汁が少なくなるまで煮ます。
⑨ 煮汁が少なくなってきたら塩コショウを加えて混ぜ、一煮立ちさせます。小説では塩辛いと表現されているので濃い目に味付けをしましょう。これで完成。
小説では本来直接肉と骨を沸騰したお湯に投入して煮るだけですが、ウサギのうまみを閉じ込めるために先にフライパンで焼きました。塩辛いのが苦手な人は味を調整してください。
友人がウサギ肉はとてもくさいと言っていたので臭みけしを徹底し、臭みに関しては覚悟をして肉を口に含みましたが全然臭くないです。ローリエとローズマリーのおかげだと思います。味は本当に鳥の胸肉のようにあっさりとしておいしいです。下味にオールスパイスを使っているので少しエスニックな味がします。研究室のメンバーやCuterに食べてもらった感想として、
・ あっさりとしている
・ 鶏肉みたい
・ しょうがの味がする
というものがありました。しょうがは入れていないのに不思議ですね。また先輩にウサギだと言わずにだまくらかして食べさせたところ、鶏肉と勘違いしていたみたいです。小説ではほとんど材料がないのでこういう味付けになりましたが、ウサギ肉自体が脂身が少なくてあっさりとしているのでトマトソースなど味の濃いソースがよく合うと思います。このほっこりとしてやさしい味は小説に登場する男たちを癒したでしょうね。