・はじめに
・「映画」とは
・写真技術
-写真の歴史
-カメラ・オブスクラを作ってみよう
・動画技術
-動画の歴史
-フェナキスティスコープを作ってみよう
・投影技術
-投影の歴史
-幻灯機を作ってみよう
・写真×動画×投影
・映画の発明
・おわりに
被写体の像を固定する写真の技術と、動きを表現する動画の技術の二つが揃い、被写体の動きを再現することが可能となりました。この被写体の動きの再現物をスクリーンに映し出せば、現在の上映形式の映画が完成することになります。すなわち残る技術は投影の技術です。
投影の技術を利用したものとして古くから存在するものが影絵芝居で、中国の「影戯」やトルコの「カラギョウズ」といったものが代表例です。東南アジアでは15世紀ごろに始まったジャワの影絵芝居「ワヤン・クリ」のように、伝統芸術として人々に親しまれています。ヨーロッパでも18世紀後半から19世紀にかけて影絵芝居の流行が起こっています。中国やペルシャを起源とするとされる走馬灯や、ロウソクを使ったドイツのクリスマス飾りなども、動く影を楽しむ視覚文化という意味では、映画に先立つものと言えるでしょう。
図1:ワヤン・クリ
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Wayang_Pandawa.jpg
投影技術を用いたもののうち、映画との関連で重要なものとして挙げられるのは幻灯です。幻灯はスライド映写機の原型にあたるもので、ガラス種板に描かれた絵を光によって壁に移す機械です。この幻灯は教会で知識の普及や宗教的啓蒙のために使われており、その原理はイエズス会の神父アタナシウス・キルヒャーによって、1646年出版の『光と影の大いなる芸術』で初めて紹介されました。
図2:幻灯機
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Laterna_magica_Aulendorf.jpg
キルヒャーの頃の幻灯は光源がロウソクやオイルランプだったために光が弱く、はっきりと投影できないという問題がありました。しかし1782年に登場したアルガンド燈、1826年に登場したライムライトといった輝度の高い光源が使用可能となったことにより、その問題は解決されていきました。
一方、ドイツのヨハン・ツアーンが円盤上に配置した複数の種板によって擬似的な動きを表現する方法が1685年に紹介され、18世紀にオランダのピエール・ファン・ムッセンブレークらによって機械仕掛けの種板が開発されるなど、幻灯に動きの要素が加えられて行きます。
そして1790年ごろにはベルギーのロベールソンによる、幻灯機を使ったショー「ファンタスマゴリア」が行われました。この興行は幽霊や骸骨、フランス革命の最中に処刑された有名人が幻灯によって出現するという、いわばお化け屋敷のようなもので、場所もパリ10区にあるカプチン派修道院の廃墟となった礼拝堂という、おどろおどろしいムードに溢れたものでした。
移動可能な台座に幻灯を乗せて幽霊たちを縦横無尽に動かしたり、レンズの焦点を移動させることで像を大きくしたり消したりするなど、あの手この手で観客を驚かせる工夫がなされていたそうです。
図3:ファタスマゴリアの様子
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Scène_de_fantasmagorie_XVIIIe_siècle.jpg
こうした技術が現在の作品制作に用いられている例を見てみましょう。
↑の動画では、息をスクリーンに見立てて、動画を投影しています。
↑は投影とパフォーマンスの合わせ技ですね。