前に述べたように、国家が国民を戦争に動員するためにマスメディアを利用したことにより、1930年代頃までマスメディアの効果は人々を操作できるほど強力なものであるという見解が主流でした。
しかしある研究によって、それまでの強力効果説は見直されることとなります。それがP.F.ラザースフェルドとE.カッツによる「コミュニケーションの流れ」研究です。一連の研究で明らかになったのは、”人々のコミュニケーションの流れは一様ではない”という、現在からみれば当然とも思える結果です。
しかしそこで注目すべきは自分が得た情報を積極的に人々に伝え、拡散する、「オピニオン・リーダー」という存在です。
ラザースフェルドとカッツは、1940年のアメリカ大統領選挙時の人々の投票行動における、マスメディア(当時は新聞とラジオが中心)の影響力の大きさについての調査を行いました。当初、マスメディアの選挙キャンペーンによって、多くの共和党支持者は民主党に、民主党支持者は共和党に投票するようになると考えられていましたが、結果はそのように投票意図を変更した人々は全体の1割にも満たない、というものでした。
ラザースフェルドらはこの結果を受けて調査を見直し、投票の意思決定は、有権者がそもそもどの政党や政治思想を支持しているかという「先有傾向」によって決まり、マスメディアからの宣伝も、自分の支持する政党の方を積極的に受け入れるのが一般的だという仮説を提起しました。これにより、「限定効果説」が研究領域に浸透していくこととなります。
また同時に、人々が投票意図を変更した理由としては、マスメディアの宣伝よりも仕事や友人付き合いなどの個人的影響の方が大きいという仮説を立てました。そこから人々の意思決定に影響力を行使する人物の存在を予想し、調査を見直した結果、他の人と比べてマスメディアへの接触が多く、他人から政治に関する相談を受け、相手を説得する、「オピニオン・リーダー」が一定数存在することを示しました。
この結果から、マスメディアの影響は直接的に受け手に流れるのではなく、マスメディア➡オピニオン・リーダー➡受け手という2段階の流れが想定されました。ラザースフェルドらはその後の研究においてこれらの仮説を検証し、「オピニオン・リーダー」については以下のような特徴を挙げました。
①被影響者との関係は、上下関係よりも水平関係が一般的
②複数の領域よりも単一領域でのオピニオン・リーダーが多い
③マスメディア以外の情報源を多く持ち、社交性が高い
④意思決定への影響源として、マスメディアを挙げる者が多い
インターネットが普及した現在、マスメディアから「オピニオン・リーダー」、そして受け手へというコミュニケーションの流れは単純化しすぎているという印象を持たれるかと思いますが、この仮説について重要な点は、「マスメディアからの情報の流れと影響の流れを区別した」ことです。マスメディア、そしてインターネットの場合も同様に、その影響力について論じられる際、このことは往々にして忘れられがちです。というより、普及の早さや新たなメディアに関連する事件から、快不快に関わらず「このメディアの影響力はすごい」と判断してしまっている場合が多く見られます。これは先述した強力効果説の時代となんら変わらない考え方です。
SNSにおけるフォロワーやブログの閲覧数、動画の再生回数など、情報に触れる人々の数や範囲がある程度可視化されるようになった現代だからこそ、そこから影響を受けるかどうかを区別し、慎重に考察していく必要があります。