僕たちに馴染みやすいので、「お酒」を例に話をしましょう
世の中には酒をいくら飲んでも顔色変わらず、なかなか酔わない人もいれば
カルーアミルク一杯で真っ赤になる人、また簡単に悪酔いしてしまう人もいます
原因には、飲み方や、飲み合わせもあると思いますが
お酒に強い人と弱い人の違いは、実は、遺伝子に原因があったりします
僕たちの肝臓には、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)という酵素がいます
ALDHは、有害なアルコールを最終的に分解し、無毒なものにしてくれる働きがあります
しかし、このALDHを作り上げるうえで必要な設計図(=遺伝子)の情報が、人によって違うことがあります
そうなると、できあがるALDHもちょっと違うものになり、最悪なことに、モノによっては全く役に立たない仕上がりになります
ALDHが通常の出来なら問題なく働いてくれるのですが
アルコールを無毒化できないALDHだと、体に有毒な成分がどんどん溜まっていき、酔いが悪化してしまいます
つまり、
ALDHの設計図の情報(=遺伝子情報)が、お酒に強いか弱いかを決める要因(の一部)になります
遺伝子情報の違いは、「ガラッとまるまる変わってる」ということはまずありません
遺伝子は、約30億個ほどの「塩基(A/T/G/Cの4つ)」が様々に組み合わさって配列になっていますが
遺伝子情報の違いの多くは、このハンパない量の文字の並びの中で、たった一か所だけが人と違うことを指します
一か所の塩基が違う(≒人によってバリエーションがある)と言うことで
こういう遺伝子の違いを「一塩基多型」
または英訳して(Single Nucleotide Polymorphism)さらに略して「SNP(スニップ)」と呼びます
お酒の強さを左右するALDHの設計図情報の違いも、このSNPなのです
ALDHの遺伝子にある文字列の中で、とある場所の「G」が「A」に代わっちゃってるSNPがあります
このSNPを持ってる人は、ALDHの働きが悪く、お酒に弱くなります
さらに、大体の遺伝子は、パパ由来のものとママ由来のもので2種類1セットですが
片方の親からの遺伝子が「G→A」のSNPを持っている人より、
両親のどっちからも「G→A」のSNPをもらってしまった人の方が、よりお酒が弱くなります
というか、ALDHは全く働かなくなります。
すなわちそういう人は、お酒を分解できません。下戸タイプです。
残念なことに日本人の4%くらいは、全く機能しないALDHを持っています
片方だけSNPを持っていて、ALDHが通常より弱い人も40%くらいいます
一方で、白人やアフリカ人は、100%全員がALDHの完全体(SNPなし)を持っているそうです
外国人がやたらお酒に強かったり、強い酒でも平気なイメージは、実はこういうところにもあるのです
ALDHからも分かるように、ある遺伝子に対するSNPの割合には、人種差があります
国民性や、その国の風土なんかも、実は遺伝子に依る、かもしれません
※ ちなみに、ALDHのSNPの診断は簡単で、アルコールパッチテストで分かっちゃいます
※ ちなみに、ALDHの性質は生まれつきなので、酒を飲む訓練とかによって克服することは出来ません
「酒は百薬の長」とも言いますし、ある意味ではお酒はくすりです。僕はそう信じてます。
前ページの話題とつなげるなら
アルコールが「くすり」で、ALDHが「薬物代謝酵素」で、酔いは「くすりの動き・効き目」になります
酒とALDHの関係のように、くすりとなにかしらの遺伝子の関係が、その薬の効き目の個人差を説明してくれる場合があります
次のページでは
ALDHのような、「SNP」で基質となるくすりの動態が変わってしまう例をいくつか紹介いたします