くすりの添付文書に書かれる「用法・用量」というのは、一般的に
SNPを持ってて、通常と違う動きをするような、薬物代謝酵素・トランスポーターの存在を気にしていません
そのため、SNP持ちの各酵素を持っていた場合、それに合わせて用法用量を変えていく必要があります
目的地に着く薬物が、少なすぎても効きが悪いだろうし、多すぎても、効きすぎ ≒ 副作用の危険があるからです
こういった背景で、SNPの有無などは、遺伝子診断により、あらかじめ把握できたら素敵ですね。という考えがあります
では、くすりとSNPの関係で、よく研究されている例を3つ、見ていきましょう
※「*」は「スター」と読みます。例えば「*3」は「スタースリー」と読んでください
OATP1B1(オーエーティーピーワンビーワン)は、肝臓の表面に居ます
大切な化合物などを肝臓内に取り込む「取り込みトランスポーター」で、高脂血症治療薬であるスタチン系薬剤などが担当になります
OATP1B1は2種類のSNPが重要と考えられ
1つは、とある場所の「A」が「G」に代わる変異で、これを「OATP1B1*1b」と言います
このSNPは、OATP1B1の活性を上げることがあります
もう1つは、別の場所の「T」が「C」に代わる変異で、これを「OATP1B1*5」と言います
このとき、OATP1B1*1b の変異も同じ遺伝子に持っていた場合、特別に「OATP1B1*15」と呼ばれます
*5、*15 を持っていると、OATP1B1の活性が著しく下がってしまいます
日本人の半分は、OATP1B1*1b 保有者で、15%くらいが OATP1B1*15 保有者といわれています
もし自分が血中コレステロールが多いことに悩み、スタチン系のくすりを飲んでるとして
OATP1B1の活性が弱いSNPを持っていたならば、くすりが予想よりも取り込まれず、十分な薬効が示されないかもしれません
そのときは、もっと飲む量を増やすか、OATP1B1が途中で絡まないようなくすりに切り替える、などが案に上がってきます
CYP2C9(シップツーシーナイン)は、薬物代謝酵素で、抗てんかん薬であるフェニトインなどを担当しております
CYP2C9で日本人にとって重要とされるSNPは
とある場所の「A」が「C」に代わる変異で、これを「CYP2C9*3」と言います
パパママ由来のどちらかが持ってると、活性はガタ落ちし、両方が持ってると、活性が消失してしまいます
日本人の2%は、この変異を持ってるとされます
てんかんは、発作のコントロールが非常に大事な疾病なので、ちょっとでも「効かない/効きすぎる」ことは命取りになりかねません
そのため、慎重な治療設計(投与量・投与間隔の設定)がカギとなります
上のような特徴を持っているかどうかを知ることは、治療設計の上での重要な要素と言えます
CYP2C19(シップツーシーナインティーン)は薬物代謝酵素で、
胃酸の分泌を抑える薬であるオメプラゾールなどを担当しております
CYP2C19は2種類のSNPが重要と考えられ
1つは、とある場所の「G」が「A」に代わる変異で、これを「CYP2C19*2」と言います
もう1つは、別の場所の、これもまた「G」が「A」に代わる変異で、これを「CYP2C19*3」と言います
どっちのSNPを持ってても活性の消失が伴います
パパママ由来の組み合わせにおいて、「*2/*2」「*2/*3」「*3/*3」を持つ人は、CYP2C19が働かない人です
日本人の20%は、CYP2C19が全く働かない人だと言われています
この場合オメプラゾールは、別の薬物代謝酵素で、担当がカブってるCYP3A4が、主な代わりとして代謝してくれます
しかしこのとき、一般量のくすりを投与すると、
通常の仕上がりのCYP2C19を持つ人に比べたら、SNPアリの人の体内には、生き残り薬物が予想より多くなりえます(代謝係が通常より少ないため)
くすりが多いことは、薬効がちゃんと現れる反面、効きすぎ(副作用)の危険が出てきます
こういうときは注意して、くすりの量は減らした方が良いかもしれません
一方でオメプラゾールは、ピロリ菌除菌にも用いられますが、このとき、*2、*3 保有者では
通常の場合と比べ12倍の効率で、体内のピロリ菌を除去してくれます
活性消失が悪いことばかりではない、ということになるでしょうか