はじめに
みなさん、「アート」や「美術館」という言葉にどんな印象を抱きますか?日常的に美術館に行っていてアートに馴染みがある人、これまで興味を持ったことがない人、興味はあるけどなんだか難しそうでどう楽しめばよいか分からない人…。いろんな方がいると思いますが、本ガイドは今挙げた「みなさん」に読んでいただきたい内容です。アート初心者におすすめのコンテンツや、もう美術館に行き過ぎて飽きてしまった人への新しい楽しみ方など、盛りだくさんの内容になっていますので、今より少しでもアートへの興味を深めるきっかけになれば嬉しいです!
なぜアーティストでもない、芸工生でもない、工学府の一学生がみなさんにアートへの興味を深めてほしいのか。それは、自分が好きな場所が消えてほしくないからです。実は私、年間60以上の展覧会を訪れるほどの美術館マニアなんです!ですが、今のままではこの先大好きな美術館が減っていってしまうかもしれない…。こう思うようになったきっかけは『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏』という1つの映画です。2020~2022年にかけて行われていた国立西洋美術館の工事に密着したドキュメンタリー映画なのですが、中でも学芸員や専門家の方へのインタビューがとても印象に残っています。今回は、映画パンフレットに記載されているインタビューを抜粋・要約して記載します。
「展覧会の主催として美術館とともに新聞社や放送局が名を連ねていることが多いが、これは日本独特のスタイル」
「財政面だけでなく、海外の美術館が複数の部署で担っている膨大な作業を、日本ではメディアが引き受けている。人員の数が非常に少ない日本の美術館だけで、大規模な海外展を企画し実現することは難しい」
「国立美術館では予算がこの10数年で半減しており、国立西洋美術館であっても職員がわずか20人。都道府県や政令市の美術館よりも少ない予算や人員で運営されている」
「本来、博物館・美術館は永続性や非営利性が求められている。しかし、今日の特別展開催は民間のマスメディアの協賛なくしては成り立たない。国立館でありながら、特別展開催のための主な資金は民間から出資され、その収益は民間に吸収されている。展示のテーマ性も、スポンサーの意向が強くなることは自明。」
インタビューによると、日本の美術館は資金面・人員面共にメディアに依存しており、学芸員が本当にやりたい展示が出来ている訳ではないということでした。私は日頃から美術館・博物館に行く習慣がありますが、通っていてもこのような課題があることを映画を観るまで全く知りませんでした。美術館がメディアから自立するためには、その分の収入をスポンサー以外から得る必要がある、つまり、来館者(美術館にお金を支払う人)を増やす必要があります。そこで、美術館に関心を持つ人・美術館に定期的に足を運ぶ人を増やすことで、微力ながらこれからの美術館経営の助けになるのでは?と考え、このガイドを執筆することにしたのです。