僕の卒論表紙
I. 内容
僕が2015年に書いた卒論について、まずはタイトルを手がかりとして明らかにしていきましょう。
卒論タイトル(英): ”’Scientific Magic' beyond Space-Time: Hank Morgan's Adaptation to 6th Century England in Mark Twain's A Connecticut Yankee in King Arthur's Court"
卒論タイトル(和): 「時空越ゆる科学的魔術――マーク・トウェイン『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』におけるハンク・モーガンのイングランド化」
文学系の論文のタイトルには、分析する作品とその著者、それに自分が着目したテーマを盛り込むのが通例です。これらの要素をタイトルに明示することで、①この論文では何を分析対象としているのか、及び②その対象をどのような観点から分析していくのかを論文の読者に対して端的に示せるのです。
英語の論文タイトルには本題(タイトル)と副題(サブタイトル)があり、「言い換え」を示す記号であるコロンをつけて本題‐副題の対応関係を作ります。コロンの左側に本題、右側に副題が入ります。コロンを日本語に置き換えると「(本題)、あるいは(副題)」と言えるでしょう。僕の卒論の英語タイトルの場合、”’Scientific Magic' beyond Space-Time"が本題で、"Hank Morgan's Adaptation to 6th Century England in Mark Twain's A Connecticut Yankee in King Arthur's Court" が副題です。日本語タイトルではコロンの代わりにダッシュ記号を用います。
文学系の論文タイトルの中の本題で論文の主題やキーワードを暗示し、副題で具体的な作品名や着眼点を明示することが多いです。本題には作品から引用した一節を入れたり、詩的な言い回しを盛り込んだりして、論文や分析する作品の本質を言い表そうとします。副題がつかず、本題に分析対象と着眼点が記される場合もありますが、まずは本題‐副題形式に慣れておくことをおすすめします。
1. 分析対象
i. 分析する文学作品の言語
文学研究では、その名の通り1つ以上の具体的な文学作品を対象として分析を行います。英語文学であれば、対象となるテクストの言語は「英語」に絞り込まれます。しかし、用いられる語彙や構文は、個性的な文体を駆使する作家ごとに、また作品の登場人物や作家自身が属する社会・文化ごとに、多様な姿を見せます。皆さんが思っている以上に、「文学英語」の中には様々なバリエーションがあります。また、"pro bono publico" (公共善のために)といったラテン語の名句や、フランス語やドイツ語、スペイン語、イタリア語などが英語テクストの中に混ぜられていることもあります。自分の知らない表現は、各言語の辞典や作品に付された注釈、名句集などを使って調べていきます。
ii. 分析する作家
英語文学の中でも、19世紀アメリカの小説家マーク・トウェイン(1835-1910年)の作品を扱いました。日本では児童文学として広く読まれてきた『トム・ソーヤの冒険』(1876年)の作者です。アメリカ文学史においては、『トム・ソーヤ』の続編の『ハックルベリー・フィンの冒険』(1885年)が重要な作品の一つとして評価されています。
iii. 分析する作品
トウェインの作品のうち、『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』(1889年)という作品1つに考察対象を絞りました。主人公は19世紀アメリカの東海岸の工場労働者ハンク・モーガンで、事故で気絶した彼がアーサー王のいた6世紀のイングランドにタイムスリップし、その地で物語が進んでいきます。SF黎明期の作品の一つとして挙げられることもあります。九大図書館に邦訳もあります。
2. 分析方法、着眼点
上記の分析対象に対して、自分の論文ではどのような着眼点から分析していくのかについて明確にしておきます。文学作品は、物質的には羅列された文字の集合であるにもかかわらず、その中で描かれている世界はそれ自体で1つの世界です。論文のような限られた紙面でその全てのテーマを網羅しようとすれば、分析の中身が薄くなり、単に自分が気になった箇所を列挙しただけの雑文になってしまいます。
文学系の論文の目的は、特定のテーマに基づいて作品を深く掘り下げ、得られた新たな解釈を言葉で論理的に説明していくことです。われわれ人間は、小説や詩、戯曲などを読むと、感動や驚きなど、多様で豊かな「印象」を抱くことが出来ます。何故そのような印象を作品が読者に抱かせるのかを、また読者に作用する作品の力・要素は何なのかを、作品の中身(テクスト)や文化・社会的背景(コンテクスト)を丁寧に参照しながら明らかにするのが、この分野の大きな目標です。また、このような論文がピースとなって、「ある作品を読んで論じる」という研究の歴史が作られていきます。
文学研究は、「文字で成り立つ複雑な世界を読み解く試み」なのです。
僕の卒論のキーワードは科学、魔術、中世への適応、です。本ガイドの「おまけ」でより詳しく解説しています。
II. 長さ
九州大学英語学・英文学研究室(以下、英文研究室)では英語で卒論を書き、日本語要約をつけます。用紙はA4サイズです。
僕の卒論は、
日本語要約5ページ(5,364字) + 英語本文30ページ(注と文献リストを含めて8,686語)
となりました。目次は以下の通りです。
Introduction ・・・・・・1
Chapter I ・・・・・・3
Chapter II ・・・・・・9
Chapter III ・・・・・・22
Conclusion ・・・・・・27
Notes ・・・・・・28
Bibliography ・・・・・・29
英文研究室で書く卒論の場合、英語本文は25ページ以上(授業で扱った作品を使う場合は30ページ以上)書きます。また、図表を用いることはほとんどありません。章の変わり目には改ページしますが、基本的には文章だけで規定枚数を書き上げます。研究室にある卒論マニュアルに基づいて行間や余白を調整すれば、1ページあたり300語前後となります。規定枚数や「授業で扱った作品」の範囲は変わることもあるので、卒論マニュアルを読み込んだり、研究室の先輩や先生に確認を取ったりして、確実な情報を手に入れましょう。
文献リスト(BibliographyまたはWorks Cited)は、英文研究室の卒論レベルでは「2ページ目に到達すること」が目標です。文献リストで1ページ分を丸々埋めるためには、作品を含めて10点前後の文献が必要です。
日本語要約は6,000字程度で、目安としては示された数値の9割弱~11割強の分量を目指します。
なお、日本語で卒論の本文を書く研究室では、要約 (Abstract) を英語または専攻語(独文学研究室の場合はドイツ語)で書くことがあります。