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私の卒論ができるまで: 大坪快(九州大学教育学部・2022年卒): できるまでの道のり

九州大学の図書館でティーチングアシスタントとして働く院生が学部時代に卒業論文にどのように取り組んだか紹介します。

目次

初めに

  • 私の卒論シリーズ
  • 今回の先輩は大坪 快さん

できるまでの道のり

  • 卒論の内容と長さ
  • 最終提出までのスケジュール
  • ここがポイント

Q&A

  • 普段の生活との両立
  • 活用したツール

終わりに

  • オススメ本
  • 後輩へのメッセージ

おまけ

  • 卒論の内容をもっと詳しく

卒論の内容と長さ

卒論の内容

私が卒論でテーマとして取り上げたのは、恐怖管理理論Terror Management Theory; Greenberg, Pyszczynski, & Solomon, 1986)という理論です。
恐怖管理理論とは、一言でいえば、人間の社会行動の多くが死の不安を和らげるために生じていると考える理論です。
この理論は欧米を中心に研究が積み重ねられているのですが、欧米以外の地域での研究が不足しており、東アジアなどでも説明力を持つのかが未だ明らかになっていません。

なぜ私がこのテーマを選んだのかというと、ずばり、なんか面白そうだったからです。
恐怖管理理論は、人が自尊心を持ちたがるのも、異なる集団の他者を攻撃したがるのも、親密な友人関係を求めるのも、全て死の不安から逃れるためのものであると考えます。
恐らくこの説明を始めて聞く人の大半は、「うわっ怪しい~オカルト?」という感想しか抱かないと思います。
僕も初めて知ったときは、正直眉唾だなと思っていました。

しかし、よくよく調べていくうちに、この理論に基づく予測が実験によって繰り返し確かめられていることを知りました ¹ 。
例えば、自らの死について考えるように指示された人々が、異教徒に対してより否定的な態度をとるようになったり(Greenberg et al., 1990)、自分の政治姿勢を批判するエッセイの著者をより強く攻撃するようになったり(McGregor et al., 1998)することが過去の研究で示されています。
このように、恐怖管理理論は、ただのオカルトチックな怪しい理論ではなく、きちんと実証的証拠に基づいた理論なのです!
こんな突拍子もない理論なのに、なぜか実証的証拠があり、世界中の研究者が大真面目にああでもないこうでもないと研究を積み重ねていることに感動を覚え、学部時代の私はどんどんこの理論の研究にのめりこんでいきました。

さて、恐怖管理理論に基づくと、自分が所属する文化への脅威を感じた人は、死の不安が顕現化し、外集団への攻撃が生じるという予測が得られます(詳しく知りたい方は、「おまけ」を参照してください)。
本研究は、日本人を対象にした実験を行うことでこの予測を検証することを目的としました。

実験では、まず、日本人や日本の文化を侮辱するエッセイを用いて、脅威の操作を行いました。

操作とは、ある変数を実験の中で様々な値に動かしてみることを言います。
今回は、脅威の有無によって死の不安や外集団への攻撃がいかに変化するかという点に興味があったので、脅威を与えるかどうかという変数を操作しました。
実験参加者は、脅威がある条件(脅威条件)か、脅威が存在しない条件(統制条件)のどちらかにランダムに割り当てられました。

脅威条件に割り当てられた参加者には、外国人によって書かれた日本文化に対して脅威を与えるような内容のエッセイを呈示しました(下図参照)。

 

 

▲脅威条件の参加者が読んだエッセイ

 

 

その後、死の不安を測定し、経済ゲームのパラダイムを用いて外集団に対する攻撃行動を測定しました(下図参照)。

 

 

▲経済ゲームのルール

 

 

実験の結果、外集団攻撃行動の程度や死の不安の強さは、脅威条件の参加者と統制条件の参加者の間で有意な差はありませんでした
したがって、恐怖管理理論の予測は支持されませんでした

今回の実験で同理論の予測が支持されなかったのは、先行研究との手続き上の違いや、恐怖管理理論自体の説明力の問題などによるものである可能性があります。
しかし、統計的仮説検定の性質上、「有意差が無い」ことから「差がない」という結論を導出することはできません
恐怖管理理論の(特に、東アジアにおける)妥当性を検証するためには、今後さらなる研究が必要となります。

 

(脚注)
¹ その一方で、恐怖管理理論の実証的証拠とされてきた研究を対象とした大規模な追試プロジェクトでは、実験結果が全く再現されなかったという報告がなされています(Klein et al., 2022)。したがって、この理論の予測する効果の大きさは実際には非常に小さい、または効果の発生に何らかの条件がある可能性が示唆されています。

(引用文献)
Greenberg, J., Pyszczynski, T., & Solomon, S. (1986). The causes and consequences of a need for self-esteem: A terror management theory. In Public self and private self (pp. 189-212). Springer, New York, NY.
Greenberg, J., Pyszczynski, T., Solomon, S., Rosenblatt, A., Veeder, M., Kirkland, S., & Lyon, D. (1990). Evidence for terror management theory II: The effects of mortality salience on reactions to those who threaten or bolster the cultural worldview. Journal of Personality and Social Psychology, 58(2), 308–318.
Halevy, N., Bornstein, G., & Sagiv, L. (2008). “In-group love” and “out-group hate” as motives for individual participation in intergroup conflict: A new game paradigm. Psychological science19(4), 405-411.
Klein, Cook, Ebersole, & Vitiello. (2022). Many Labs 4: Failure to replicate mortality salience effect with and without original author involvement. Collabra. https://online.ucpress.edu/collabra/article-abstract/8/1/35271/168050
McGregor, H. A., Lieberman, J. D., Greenberg, J., Solomon, S., Arndt, J., Simon, L., & Pyszczynski, T. (1998). Terror management and aggression: evidence that mortality salience motivates aggression against worldview-threatening others. Journal of Personality and Social Psychology, 74(3), 590–605.


卒論の分量

文字数は2万字程度(A4で24ページ)でした。
もっとも、自分の設定した課題に対してしっかりと議論ができていれば分量は関係ありません(下限を設定している学部もあるようですが)。
むしろ、同じ内容であれば、短ければ短いほど良い論文であると言えます。
卒論では、ついたくさん書くことで達成感を感じてしまいがちですが、文章が冗長にならないように注意しましょう(じゃあこのガイドは?)。

最終提出までのスケジュール

時期   やったこと

2021年 3月ごろ

2021年 5月ごろ

2021年 6~8月ごろ

2021年 9~10月ごろ

2021年 11~12月ごろ

2022年 1月

文献調査にとりかかる。(1)

テーマを決め、実験計画を立てる。(2) (3)

 ~院試準備のため卒論は中断~

実験を実施してデータを集める。

論文を執筆する。

指導教官に確認の上、無事提出。(4)

 

(1) 文献調査では、論文を約30本(日本語1:英語4くらいの比率。乱読は除く)と書籍を1冊(日本語)読みました。
また、読んだ論文や書籍はノートに内容をまとめていました。まとめることで内容が頭に残りやすくなりますし、後で見返す際に便利です。

(2) 漠然と文献を読んでいる過程で出会った恐怖管理理論という理論に惹かれ、テーマとして設定しました。偶然の出会いって大事です。

(3) 私の所属していた研究室では、研究の進捗状況を発表する場が半期に2回ありました。
当たり前と言えば当たり前ですが、発表スライドを作る際には、研究の論理構造(e.g., 「なぜその仮説が導かれるのか?」「なぜその方法が仮説検証に適当なのか?」)をしっかりと示すことを重視していました。
発表スライドがきちんと作れていれば、それを元に論文を執筆できるので非常に楽です。

(4) 指導教官とのやりとりは、実験の実施に伴う倫理的な配慮に関する相談などが中心でした。
人を対象として実験や調査を行う場合は、必ず指導教官の先生とよく相談した上で行いましょう。
執筆後に研究成果を発表することを考えているのであれば、倫理審査委員会の審査を受けることを強くおすすめします。
特に論文として発表する場合、倫理審査を受けていないことは致命的になり得ます。

ここがポイント

ダメだった点・苦労した点

私は現在卒論でやったこととは少し違うテーマで研究をしているので ¹、修士の研究までを見据えた上でテーマを決めればよかったと後悔しています。
とはいえ「面白そう!」と思ったことを全力で取り組む経験も貴重なものではあると思うので、難しいところです。

また、最も苦労した点は実験参加者の募集です。色んな先生にお願いして授業で告知させてもらうのですが、200人受けている授業で告知した後、応募フォームを確認すると応募者が2人しかいなかった時は吐き気を催しました。
実験が6人1組で行う集団実験だったので、日程調整もかなり大変でした。

 

¹ 前々項の脚注1で述べたように、近年、恐怖管理理論自体の再現性に疑問が呈されているため、修士・博士までこの理論だけで突っ走るのはリスクが高いと考え、いったんお休みしています。しかし、外集団のメンバーに対する攻撃、という大きな枠組みは変わらないので、全く別のことを研究しているわけではありません。


よかった点

1人で0から研究計画を立て、データを取って論文を書くまでの流れを一通り実践できたことは良かったと思います。
実際にやってみないと分からない示唆をたくさん得ることができましたし、その後の研究にもそれが生きています。
何より、卒論で「研究(者)ってこんな感じなんだ」という実感を掴むことができたので、将来自分が進みたい方向を考えるきっかけになりました。

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普段の生活との両立

活用したツール