このガイドを読んで「もっと卒論の内容について知りたい!」と考えた方がもしいらっしゃれば、是非私の所属している研究室のホームページにアクセスしてください。岩盤・開発機械システム工学研究室のホームページには私の卒論要旨に加え、教授陣や研究室メンバーのプロフィールや研究内容について理解を深めることができます。鉱山開発系の研究室ですが、石炭の地下ガス化や私のように植物の研究など、風変わりなテーマに取り組んでいる人もたくさんいるのでぜひホームページをご覧ください。
岩盤・開発機械システム工学研究室ホームページURL: https://rock.mine.kyushu-u.ac.jp/
それでは私の卒業論文の内容についてもう少し解説します。背景は「できるまでの道のり」の項目で触れたため、具体的な実験内容について3つほど紹介しようと思います。
(1つ目の実験:腐葉土を用いたヨモギの生育試験)
4月にヨモギの種子をamazonで取り寄せた後、ヨモギが鉢植えで生長することを確認するための実験を行いました。おそらく皆さんは「ヨモギなんて雑草なんだからどんな環境でも生育する」と思われるかもしれませんが、鉢植えの場合は鉢本体の熱に加え、水を長時間鉢の中にとどめておくことが難しいため、生育に失敗してしまうことが考えられます。よって水をやりすぎればすぐに根腐れし、逆に2日ほど水やりをしないだけですぐに枯れてしまうため、定期的に適量の水やりを心がける必要があります。実験を始めたばかりの頃は上記にある鉢の性質を理解していなかったことに加え、夏の暑さで鉢本体に熱が蓄積したことによる根腐れが発生し、4月から8月までに行ったヨモギの生育試験はすべて失敗しました。よって生育環境を変えるため、農学部の研究棟にあるファイトトロン(恒温恒湿室)を使用しました。
24時間温度25度湿度70%に調整された環境で実験を行いました。その結果ヨモギは順調に生育することが確認でき、次の実験で用いるためのヨモギの苗を確保することに成功しました。
ヨモギの苗
(2つ目の実験:黄鉄鉱含有土壌におけるヨモギの生育観察)
1つ目の実験でヨモギの苗の確保に成功したため、10月から2つ目の実験ではヨモギの苗を異なる黄鉄鉱土壌に植え替え1か月生長観測を行いました。黄鉄鉱含有土壌は黄鉄鉱と真砂土(何も栄養がない土)を異なる比率で混ぜ合わせ作成しました。水やりは根腐れを防ぐため2日に1回行い、約1か月生育したところ下にある画像の通り、それぞれの黄鉄鉱含有率でヨモギの生長に明らかな差異が生じることが確認できました。
黄鉄鉱含有土壌におけるヨモギの生育結果
画像の左から黄鉄鉱含有率0%,1%,5%,7.5%,10%,20%になっており、黄鉄鉱含有率が上昇するほどヨモギ本体の高さと葉の枚数は減少傾向にあることがおわかりいただけると思います。
本来採掘跡地では緑化を行う前に土壌改良という汚い土を取り除く工事を行うため、本来植物を黄鉄鉱含有率20%の土壌に植えて緑化を行うことはありません。しかしヨモギは黄鉄鉱含有率20%の土壌であるにもかかわらず、約2週間でわずかに生長が観測されたため、ヨモギは酸性土壌に強く緑化の第一段階で用いる植物として最適であると結論付けました。
(3つ目の実験:ICP-MS誘導結合プラズマ分析)
2つの実験を通してヨモギが酸性土壌に耐性があると結論付けることに成功しました。しかし、黄鉄鉱含有率が上昇するほどヨモギの生育状況は悪化することも同時に判明しました。要因は黄鉄鉱土壌が水と大気に触れることにより土壌全体が酸化するためですが、酸化するだけでは植物が枯死する直接的な原因にはなり得ません。多くの場合酸性土壌において植物の生育に悪影響を及ぼすのは微量に存在する土中の金属元素であり、それらが植物の根から吸収され植物全体に蓄積されることで、成長阻害が引き起こされます。
よって以下の写真にあるICP-MS誘導結合プラズマ分析装置を用い、ヨモギの根と葉と茎のそれぞれ各部位に残存した金属元素を調査し、生育に悪影響を及ぼした金属元素の特定をしました。
ICP-MS誘導結合プラズマ分析装置
(図やグラフはかなり複雑であるため今回は割愛させていただきます)
実験結果から判明したことは、ヨモギの葉にはマンガン、茎には鉄、根にはアルミニウムが多く蓄積されていたため、それらが生育疎外の要因であると結論付けました。確かに酸性土壌では鉄、アルミニウム、マンガンが多量に溶出し植物に悪影響を与えてしまうということは論文でも確認できたため、想定通りの結果を得ることができました。しかし、それぞれの金属元素がヨモギの場合どこに吸収されているのかということについては私が初めて導いた結果なので、少しうれしさを感じました。
まとめ
・ヨモギは黄鉄鉱含有率20%の劣悪な土壌でも生育するほど酸性土壌に対する耐性が高い植物である。
・ヨモギの生育疎外の要因は土中から溶出したアルミニウム、鉄、マンガンの三元素である。
以上が私の卒論研究の概要です。かなり端折った説明になってしまったので、詳細をもっと聞きたいと思った方は理系・中央どちらでもいいので図書館の学習相談デスクで私に質問してください。学習相談デスクでは勉強やレポートに関する質問だけでなく、私たちの研究や学校生活に関する相談についても受け付けているので、気軽に足を運んでください。