まずは、私の卒論の内容について簡単にご紹介します。
私が卒論でやったことを簡単に言うと、悲嘆を経験された遺族の方にインタビューをして、その語りを分析するというものでした。
ただテキトーに自分の主観的な洞察だけでインタビューを分析しては、独りよがりの読書感想文みたいになってしまうので、Acceptance and Commitment Therapy (ACT) という心理療法の理論を使って、遺族の方の経験を分析しました。
まず、ACTを使って分析する必要を説明しなければなりません。なぜ、他の理論ではダメなのか?どんな強みがこの理論にはあるのか?など、ACTを選択した理由を説明するために、理論の研究をしました。ACTという心理療法には、機能的文脈主義 (functional contextualism) という背景の科学哲学が存在します。そして、その哲学の考え方を心理学実験によって実証した理論として、関係フレーム理論 (Relational Frame Theory) というものがあります。その理論を応用して作られたのが、ACTという心理療法の実践です。
今までの悲嘆治療へのアプローチは、精神分析や認知行動療法といわれるような機械論という立場をとっていました。機械論というとなんだか冷たい響きがしますが、要は因果関係に基づく世界の理解の仕方です。例えば、この物質はこの病気に効く、というような考え方のことです。しかし、人間の心理は因果関係だけでは説明がつきません。悲嘆を経験したからといって、喪の作業が行われる人もいれば、長引く人もいれば、喪の作業が行われない人もいるわけで、因果関係による法則よりも多様性が人間理解では大切な視点となってきます。
このように、哲学、心理学、臨床心理学に裏付けされた洞察の深い理論であること。今までとは違う立場をとっている心理療法の理論だからこそ、既存の悲嘆の理解とは別の見方ができることで、新たな介入の可能性も見出されるのではないかということです。
実際にインタビューの内容を分析してみると、非常に多義的な解釈が可能になりました。遺族の方の言葉の1つ1つが色々な機能的な意味をもっており、遺族の方の人生と日々の行動にどのように亡くなった方が影響を与え続けているのかを分析することができました。
私の卒論は、合計で10万字を超えました!(岩波文庫300ページ分くらいの量です)
実験や量的調査であれば、結果を数字で可視化することが可能ですが、実際に人の語りを分析しているため、文字量が多くなってしまいました。要点をもう少し絞って研究ができれば、文字数を減らすことができたかと思いますが、書きたい想いが溢れ出てしまいました...!
研究テーマの決め方 ー健康も大切に!
元々、私が遺族の支援について興味があったため、研究の対象は定まっていました。しかし、その対象をどのように研究したらよいのかという方法については分からなかったので、人の経験をどのように理解するか?をテーマにおいて研究していた臨床教育学の研究室に入りました。「人を亡くす」という極めて複雑な経験について研究していくためには、独自の分析方法を作る必要性を感じました。
ただ、私のように元々、関心領域や対象、テーマが決まっている人は少ないかと思います。卒論は、以下にも書いていますが、年単位での作業になります。イメージとしては、授業で出されたレポートを1年中書き続ける感じです。これって、かなり頭を使いますし、ストレスもかかることかと思います。だからこそ、強調したい、卒論で一番大切なことは、「健康」を維持すること。
人間嫌なことを長時間やり続けるのは、相当なストレスがかかると思います。だからこそ、卒論の執筆では、いかに自分が書きたいことを健康に書き続けるられるか、だと思います。卒論はテーマが自由であることがほとんどだと思います。だからこそ、自分が少しでも興味のあることや、就職で役に立ちそうなこと、昔から疑問に思っていたこと、好きなことに関連させて書くことを強くおススメしたいです!正解はない卒論だからこそ、自分らしさを表現することも卒論執筆の上で大切なことだと思います。
時期 | やったこと |
2021年6月ごろ 2021年10月ー22年8月 2022年1月ー3月 2022年8月ごろ 2022年10月ごろ 2022年11月ごろ 2022年12月ごろ 2023年1月ごろ |
臨床教育学研究室に配属 (指導教員と課題図書を決める) ゼミに参加し、卒論の基礎知識を固める ACTを学ぶためのワークショップに参加 卒論中間発表 (執筆前) 卒論執筆開始 (1章書けたら、指導教員にコメントを依頼) 実際に研究参加者にインタビュー インタビュー結果の分析と考察の執筆 卒論提出! 卒論で引用した本,論文等は,合計で45本でした。ただ,入門書などは引用文献に加えていないので,実際には60本くらいだと思います。 |
指導教員の方の方針は、基礎知識をしっかりと固めさえすれば、それをどのように応用するかは個人の自由に委ねていただけたので、基礎固めをするゼミが主な指導教員とのコミュニケーションの場でした。ゼミでは、自分の卒論の構想や進捗を発表するのではなく、全員で数冊の本を読みこみ、それを自分の目指すものにどのように使えるかを議論する形式でした。また、半期に1回ほど面談があり、卒論の進捗を報告する形式でしたので、基本的に自分のペースで卒論を進める形式でした。ただ、卒論提出の3か月前からは、定期的に指導教員にコメントをしていただき、フィードバックをもらいながら書き進めていました。
指導教員とのコミュニケーションはとても大切だと感じました。基本的に、学部生は初めて卒論を執筆するわけで、わからないことや疑問などが出てくることは必然だと思います。わからないことをそのままにしていると、なかなか執筆が進まず、時間に追われながら卒論を書く可能性を高めてしまいます...。それを避けるためにも、ぜひわからないことがあれば、周りの先輩や指導教員に聞くことをおすすめします。
上にも少し書きましたが、卒論を執筆するという行動は、人によってはストレスのかかる作業になるものです。大学4年生に入ってたくさん時間があるかと思いきや、意外と就活や院試などで自由な時間を確保できなくなるものです。就活や院試も卒論と同じように、多くの人にとっては、初めての体験となるわけで、大学4年生は意外と新規場面にさらされるストレスフルな年になります。「やっと就活が終わった...あっ卒論しなければ!」というスケジュールになる方も多いため、ストレスとどうやってうまく付き合っていくかも、卒論執筆においては大切です。
多くの人にとっては初めての体験となるため、わからないことをそのままにしないことも大切だと思います。わからなかったら人に頼るということを意識しておくだけでも、わからない状態を抱えて一人で追い込まれてしまうことを予防できると思うので、ぜひ人を頼ると良いと思います。わからないことがあって当たり前というマインドを持ちながら、卒論に向き合うことも大切な勉強だったな、と振り返って思います。
最終的に卒論は量を書くことはできましたが、質についてはまだまだ改善の余地があったと少し後悔しています。先行研究をもう少し集めて論を立てることができれば、より他の人にも伝わりやすい卒論になったのではないかと考えております。また、分析も速足で進めてしまった感覚があったので、落ち着いてデータに向き合えれば、より深い論の展開ができたのではないかと考えています。そのためには、時間の管理とやることを明確化できると良いと思いました。たくさんの文献を時間をかけて読みましたが、その文献をどのように一つの論にまとめていくかという観点を持つことで、人に伝わりやすい論の展開を考えることができたと思います。この経験を糧に、修士論文では早い段階から動くことを意識しています。