今でこそあまり騒がれなくなりましたが、「石油はあと50年でなくなってしまう」という言葉は本ガイドを読まれている皆様も馴染みのある言葉ではないでしょうか。私も小学生のころ社会の教科書で上記のような言葉を目にしたことがあり、一昔前にテレビで専門家が「石油はあと50年しか使うことのできない有限資源であり、我々人類はいつか迎えるエネルギーの枯渇に対抗するため、再生可能エネルギーの開発に積極的な姿勢を保たなければならない」と発言をしていたことが記憶に残っています。確かに石油・天然ガスは有限資源であり、いつかは枯渇してしまいます。しかし、考えてみると少し変だと思いませんか?上記の言葉はかれこれ何十年も言われ続けてきたにもかかわらず、現在石油は枯渇していません。
このからくりは埋蔵量という言葉の定義にあります。まず石油業界において埋蔵量とは一般的に可採埋蔵量を指しています。可採埋蔵量とは現存している油ガス田から現段階の技術力で経済的に回収可能である炭化水素の量を意味します。つまり将来新たに油ガス田を発見し、経済的かつ効率的に開発を可能とする技術力が向上すれば、可採埋蔵量は増加します。因みに近年の可採埋蔵量増加の要因となった例としてシェール革命が挙げられます。シェール革命とは水平ボーリングや水圧破砕などの技術力が向上したことにより、従来掘削が困難とされていたシェール層(頁岩層)に含まれる油ガスが経済的に開発可能となった技術革新です。よって上記の技術革新により既存油ガス田の生産効率は向上しており、将来新たに巨大油田が発見され、シェール革命に次ぐ新たな技術革新が起きれば可採埋蔵量はさらに増加する可能性があります。よって油ガスの枯渇は現段階においてあまり心配する必要は無いと考えられます。
石油に対する皆さんの不安を解消したところで、まずは石油業界について解説します。石油業界は主に石油の探鉱、開発、生産をメイン事業とする上流部門と石油の精製と販売をメイン事業とする下流部門に分かれています。上流部門の事業を展開する会社を石油開発企業、下流部門の事業を展開する会社を石油元売り企業と一般的に呼びます。上流は上の立場の会社で下流だと下の立場の会社であるという意味はなく、石油が加工され私たちの手元に届けられる工程を川の流れに例えた結果、上流・下流と呼ばれています。石油元売り企業は原油を精製してできるガソリンの販売を手掛けているため、「石油元売り企業」とネットで検索すれば、このガイドを読まれている皆さんも一度は目にしたことがある企業名が見つかると思います。
石油開発企業と石油元売り企業は世間やネットでは石油企業というくくりでほぼ同じように扱われがちですが、上記にも示した通り事業内容が全く異なります。株式市場においても石油開発企業は銘柄が「鉱業」であるのに対し石油元売り企業の銘柄は「石油・石炭製品」と完全に別業種として扱われています。また、上流部門と下流部門ではビジネスの性格が正反対であり、上流部門である石油開発企業のビジネスは油田権益の獲得や事業投資に多額の資金が必要とされます。よって経済的な油ガス生産が可能となれば莫大な利益を得ることができる反面、失敗すれば大きな不利益を被る可能性があります。一方で石油元売り企業は石油製品の需要がある程度景気や燃料を必要とする業界(自動車産業や運輸産業など)の動向に左右されるため、慎重さや自社の顧客を守り他社の顧客を奪う競争的な姿勢が必要とされます。
以上より将来石油業界に携わりたいと考えている就活生の方々は、まず初めに自分自身が石油業界の上流・下流どちらの部門に携わりたいかを考え企業研究を行うようにおすすめします。
(上流部門のイメージ)
(下流部門のイメージ)