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オンラインで心理学研究:jsPsychを使ってみよう: オンライン実験について

心理学分野でよく用いられるオンライン上で行う実験・調査の手法を他分野の方にも分かりやすく解説するガイドです。

ここからのページについて

ここからのページでは,心理学研究で実験が行われる理由や,その中でオンラインの実験が急速に普及している背景について解説しています。
オンライン実験の具体的な実施方法については次のページから始まるので,そちらだけを知りたい方は読み飛ばしていただいても構いません。

目次

はじめに

  • このガイドについて
  • 執筆者について

オンライン実験について

  • 心理学における実験の重要性
  • なぜ今オンライン実験なのか

オンライン実験の仕組み

  • 誰がどのように参加するのか

jsPsychの導入

  • jsPsychとは
  • jsPsychの導入

実験プログラムの構造

  • 実験プログラム作成の前に
  • 部分ごとの解説
  • 実際の見え方

アンケートを作ってみる

  • 練習問題
  • 事前準備

アンケートを作ってみる2

  • プログラムの中身の設定
  • プログラムの実行
  • 実際の実験へ

おわりに

  • 注意点など
  • 参考文献
  • まとめ

心理学における実験・調査の重要性

心理学で実験?

「心理学」と聞いて,皆さんは何を思い浮かべますか?
好きな相手を振り向かせる方法」や「流行のファッションを追いかけてしまう理由」などでしょうか。実際に,これらのテーマは,いずれも心理学の研究対象となり得ます(一般的な研究テーマかどうかは措いておくとします)。

さて,皆さんは,このような問いに対して何らかの答えを提示することができますか?
恐らくですが,いずれのテーマについても,多くの人が自分なりの「答え」を持っていると思います。例えば前者でいえば,「結局顔がいい人じゃないとダメだ」とか,「いやいや優しく接するのが一番だ」とか...。
心理学の大きな特徴は,この「誰しもがなんとなくの答えを持っている」という点にあります。

では,心理学者たちとそうでない人たちとの違いはどこにあるのでしょうか?
それは,問いに対して科学的なアプローチをとるかどうかであると考えます。心理学者たちは,これらの問いに対し,データを用いて客観的に回答を提示することを試みます。主張の根拠となるデータを取得する手続きが,実験や調査なのです。

なぜ今オンライン実験なのか

オンライン実験の必要性

心理学において実験が重要であるのは先に説明した通りです。では,なぜ今,「オンライン」の心理学実験が急速に広まっているのでしょうか。これにはいくつかの要因があると考えています。

1つ目は,Covid-19のパンデミックによる影響です。
これまでは,心理学者たちは,実験に参加してくれる参加者を実験室に集めて実験を行ってきました。しかし,パンデミックにより,多くの参加者を集めて対面で実験を行うことがそもそもできなくなってしまいました。

2つ目は,近年の検定力に対する意識の高まりです。
詳しい説明はここでは省きますが,心理学で用いられる推測統計学的な手法では,一般的に背理法の手続きで仮説が検証されます。例えば,「A群の平均値とB群の平均値の間に差がある」という仮説を検証したいときには(検証したい仮説を対立仮説といいます),まず,「A群の平均値はB群の平均値と変わらない」というような,検証したい仮説と相反する仮説を扱います(帰無仮説​​​といいます)。この帰無仮説をデータに当てはめた時に,「帰無仮説が真であることはほとんどありえない」と言えるほどの大きな乖離が見られる場合,帰無仮説は棄却され,対立仮説が採択されます。

検定力とは,帰無仮説が真ではない場合に,帰無仮説を正しく棄却できる確率のことを言います。
つまり,検定力が足りない場合,帰無仮説が真ではなくても(対立仮説が正しくても),帰無仮説を棄却できない可能性が高まります。研究は(対立)仮説の正しさを検証するために行われることが多いので,この状況はとても困ります。したがって,近年は,実験デザインの段階で検定力を十分に確保することが求められています。

検定力は,サンプルサイズの大きさ有意水準捉えたい効果の大きさの3つの要因によって決まります。
他の要因が変わらなければ,サンプルサイズの大きさ(人を対象とした実験ならば参加者の数)が大きくなるほど,検定力も高まります。なので,検定力を高めるためにサンプルサイズを大きくしよう!となるわけですが,特に対象とする効果が小さい場合,十分な検定力を確保するために必要なサンプルサイズは膨大な数になります(時には1,000を超えることも...)。1,000人の参加者を1人ずつ実験室に呼んで,一回一回実験を行うことを考えると,気が遠くなりますよね。そこで,力を発揮するのがオンライン実験なのです。詳しくは後述しますが,オンライン実験では,1,000人を超えるような大規模サンプルを対象とした実験をわずか数時間で行うことも可能です。

上述の内容については,統計学に関するガイドも併せてご参照ください。

3つ目は,実験参加者の画一性に対する批判です。
これまで行われてきた対面の心理学実験では,主に,研究者が所属する大学の学生が参加者としてリクルートされていました。皆さんも掲示板で心理学実験の参加者募集の張り紙を見たことがあるかもしれません。しかし,このような方法には大きな欠点があります。それは,実験結果の一般化が難しいという点です。心理学の研究は,通常,人が一般に持つ認知や行動を説明することを目指します。したがって,偏ったサンプルを用いた実験において,ある結果が示されたとしても,それが他のあらゆる人々についても当てはまるのか(「一般化可能性」といいます)という問題が残ります。極端な例を出せば,ハーバード大学の学生を対象とした実験で示された結果を人間一般の傾向として主張されても,「うーん...」と思いますよね。実際にこのような研究は多いです。

このような問題に対処するためには,多様な参加者を実験にリクルートする必要があります。物理的な場所に縛られないオンライン実験は,多様な属性を持つ参加者を集めるのに最適な方法なのです。

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このページでは,今心理学でオンライン実験が必要とされる背景について解説しました。
次のページからは,オンライン実験の具体的な実施方法について踏み込んでいきます。

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