森に囲まれた伊都キャンパスには昆虫や鳥、ヘビやカエルなど様々な動物が生活しています。
伊都キャンパスに限らず、街中でも植え込みや街路樹といった様々な場所に動物が存在します。
こうした身近に生息する動物でも、その行動をよく観察していると、
「なぜ、そのような行動をするのだろううか?」と不思議に思うことが多々あります。
本ガイドでは、そうした動物たちの行動に対する「なぜ」を
どのようにすれば解明できるか、大まかな流れを紹介していきます。
<本ガイドは以下の本を主に参考しています>
動物の行動に対する「なぜ」に対する答え方は、4通りあります。
1)機能
その行動にはどのような意味(価値)があるのか
2)機構
その行動は、どのような仕組みによって生じているのか
3)発達
その行動は、発達過程(生まれてから死ぬまで)を通してどのように獲得されたのか
4)進化
その行動は、進化の過程を通してどのように獲得されたのか
この考えはオランダの動物行動学者ニコ・ティンバーゲンによって提唱されたことから、
ティンバーゲンの「4つのなぜ」と呼ばれています。
例として、「ホタルはなぜ光るの?」と問われたとしましょう。
ティンバーゲンの「4つのなぜ」の視点では、
1)機能
オスがメスを呼ぶ、求愛のため
2)機構
ホタル体内に存在するルシフェリンという化学物質が酵素ルシフェラーゼによって
分解された際に放出されるエネルギーが光になるため
3)発達
ホタルは生まれる前(卵の時)から発光器官を持っているため
4)進化
昼行性の発光しない祖先種から飛べないメスが発光する種が進化し、
オス、メスともに発光する種が進化したため
と答えることができます。
動物の行動研究は、「4つのなぜ」の中で自分が知りたいのは
何なのかを把握することから始まります。
<さらに詳しく>
行動生態学は、上述した「4つのなぜ」の内、機能に着目した学問分野です。
動物の行動の意味(価値)を適応進化の観点で探ります。
適応進化とは、
「生物の遺伝子には突然変異が生じており、
その変異によって多くの子孫を残すような性質* を持つようになるなら、
そのような変異・性質が世代を通して集団中に広まっていく」
という進化** の考え方です。
動物の行動の機能(意味・価値)を探るということは、動物の行動に対し、
その行動は子孫を残すうえでどのように有利となるかを探ることを意味します。
この適応進化のプロセスは人間による新商品開発の流れによく似ています。
突然変異(新商品)が生じ、その変異(新商品)が多くの利益をもたらすのであれば、
そのような変異(新商品)は集団(人間社会)に広がっていきますよね。
ただし、動物の行動は必ずしも適応進化によって形成される
わけではありません。子孫を残すうえで有利でも不利でもない性質
(=中立な性質)を持つ変異であれば、時間の経過に伴って偶然、
集団中に広がることがあります。
この中立な性質を持つ変異が確率的に広がる進化は、中立進化と呼ばれます。
そのため、動物の行動の機能を考える場合には、
それが中立的に進化したという可能性にも注意する必要があります。
行動の機能の研究は、機構や発達、進化の研究に比べ、高額な装置が無くても
アイデアによって興味深い発見をできる可能性が多く秘められています。
* 「多くの子孫を残すような性質」とは、例えば天敵に見つかりにくい体の色(隠蔽色)、
異性をめぐる戦いに有利な武器(カブトムシやシカの角など)、
子供の生存率を高める行動(保護行動)といった、形や動きを意味します。
** 進化という言葉は様々なアニメやゲームで、
生き物が今より良い状態を目指して、能動的に変化する様子を表すときに使われています。
しかし、生物学上の進化は上述のように、偶然生じた変異が有利、
または中立であれば集団に広がる、という受動的な変化を意味します。
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