頭の中でよく考えて「できそう」だと思ったことでも、
実際に行ってみると上手くいかないことはよくあることです。
そこで、データをとるための実験や観察に入る前に、
計画した方法でデータをとれるかどうかを
予備実験や予備観察によって確かめます。
特に野生動物を扱う場合、その動物が活動している間に
データを取る必要があるため、時間との闘いになります。
そのため、実験計画を立てる際には予備実験(予備観察)を行う期間も
計画に入れておく必要があります。
また、予備実験(予備観察)が上手くいかなかった時にどうするのかを
計画時には検討しておくべきでしょう。
予備実験で計画通りにできそうだと判断したら、いよいよ実験・観察を行います。
計画で立てたとおりに、無心に繰り返してデータを集めていきます。
なお、当たり前のことですが、データを集めることよりは命の方が大切です* 。
そのため、安全によく注意し、無理をしてはいけません。
* 観察・実験をするときには「休む」ことも大切になります。
動物行動学者の Ruxton らは著書『生命科学の実験デザイン』で以下のように述べています。
良いデータをとるには苦しまなくてはならない、というマッチョ文化に流されてはいけない。
疲れた記録係は間違いを犯すし、ばかなことをしていても気がつかない。
働きすぎは実際には非生産的だし、隠れた危険性もある。働きすぎに注意しよう!(p.271)
(「働きすぎ」に注意することが大切であり、「働かない」ことを推奨しているわけではない)
<さらに詳しく>
野外で実験を行う際には、様々な危険に遭遇する可能性があります。
そのため、以下の文献に目を通しておくことをおすすめします。
ーーーーー
日本生態学会 野外安全管理委員会 (2019). 「フィールド調査における安全管理マニュアル」『日本生態学会誌』 Vol. 69, Speccial Issue
ーーーーー
また、危険な生物と遭遇して怪我をした際に、まず何をすべきか(ファーストエイド)を
コンパクトにまとめた書籍として、以下も参考になります。
最近はスマホのカメラ機能が向上し、動物の行動を録画することが容易になっています。
動物の行動研究では「動画によって行動を記録する」という手法がよく取られています。
動物は人がいると警戒して普段とは違う行動をとる可能性があるため、
人がその場にいなくてもよい、動画によるデータの記録は有益です。
加えて、実験や観察時には記録し忘れていたことを後から動画で確認したり、
別の仮説を思いついたときに、以前に録画した動画を使って
その仮説を検証することもできます。
このように、動画による記録は動物の行動研究に数多くの利益をもたらしてくれますが、
もちろんコストも存在します。
それは、動画を見なければならないということです。
動画を撮影しただけでは予想を確かめたことにはならないため、
その動画を見て、解析に使えるデータをまとめていきます。
この動画からデータを起こす作業は「ビデオ起こし」と呼ばれています。
数分の動画が1つや2つであれば問題ないのですが、
(独立な)反復によって得られた数十の動画を見てデータを起こすのは大変です* 。
そのため、「ビデオ起こし」を楽に行うためのツールが研究者たちによって数多く開発され、
その多くはフリーソフトとして利用可能になっています。
動画による記録を行う際には、これらのフリーソフトを使うことも
計画時に検討しておくと良いでしょう。
(ソフトによっては特定のファイル形式に対応していない場合が存在するため、
動画を撮影する前に確認しておいて損はないです。)
* 以前、私の所属する研究室の先輩がビデオ起こしのことを
「(テレビや映画の)エンドロールを見ながらお目当ての項目(例えば、エキストラの名前)が
出たら記録するようなもの」とたとえていました。このたとえはなかなか的を射ています。
<さらに詳しく>
・BORIS(Behavioral Observation Research Interactive Software)
(公式サイト:http://www.boris.unito.it/)
動物行動の「ビデオ起こし」に特化したフリーソフトです。
パソコンの任意のキーに行動をあてはめることで、
その行動を観察した時にそのキーを押すだけで(=ノートに書きこむことなく)記録できます。
また、音のスペクトログラムを出力して動画と同時に再生することもできるため、
動物の音の発生と行動の関係を調べるときにも役立ちます。
・ImageJ
(公式サイト:https://imagej.nih.gov/ij/)
私はあまり使っていないのですが、生物系の研究でよく使われているフリーソフトです。
よく使われるため、扱い方を紹介した本(和書)も出版されています。
(例えば 『ImageJではじめる生物画像解析』)
ImageJは画像からのデータ抽出に特化しており、画像中の動物の数を数えたり、
動物の個体間の距離を算出したりする際に役立ちます。