動物の行動の「なぜ」に対する「予想」を立てたら、
その検証方法を具体化していきます。
動物を扱う場合には、ありのままの動物の様子から判断する「観察」と、
動物に対して処理を実施し、その反応から判断する「実験」の
どちらの方法で「予想」を検証するかを決める必要があります。
観察か実験かを決めたら、内容を具体的にしていきます。
例えば、以下の項目を決めておく必要があります。
1)いつからいつまで、どこで行うか
2)何を使うか(使う装置や試薬など)
3)どのような手順で行うか
4)何を記録しておくか
こうした実験の進行に直接関わること以外のことについても
確認しておく必要があります。
5)(実験を行う場合)倫理的な問題はないか
6)(野外で行う場合)危険な場所はないか、危険な生き物はいないか
7)(野外で行う場合)土地の所有者の許可を得る必要はないか
経験談ですが、実際に作業(実験や観察)をしていると、当たり前のようなことでも
分からなかったり思い出せなかったりします。
そのため、計画時には当たり前のことでもきっちりと文章化しておくことが大切です。
また、実験や観察に使う装置を自作する場合、なるべくシンプルに設計し、
身近で手に入りやすい(100円ショップやホームセンターで用意できる)材料で
作成しておいた方が良いです。
というのも、装置は途中で壊れることが多々あり、短時間で修理しないといけない場面に
よく遭遇するからです。(ガムテープ・ビニールテープを用意しておくと重宝します)
動物の行動研究では実験期間=動物の発生期間となるため、修理しやすさは大切です。
上記のように計画を立てる際、特に「どのような手順で行うか」の計画を立てる際、
注意しなければならないルールが3つ存在します。
それは反復、無作為化、ブロック化です。
1)反復
反復は、独立した実験や観察の繰り返しを意味します。
実験や観察の繰り返しが必要なことは、直観的に理解できます。
たとえば、「人類は皆、右利きである」という仮説を検証するため、
ある人(Aさん)が何か作業をしているときに、
右手と左手のどちらを使っているかを観察したとします。
すると、仮説を支持するように、右手で作業する様子が観察できました。
この結果から、「人類は皆、右利きである」と結論づけることは
妥当でしょうか。
この場合、「その作業の時にたまたま右手を使っていただけでは?」
という可能性が残るため、妥当ではありません。
動物の行動も同じで、たった1回の実験や観察だけでは
偶然生じた出来事である可能性が残るため、その行動が一般的なことだとは言えません。
とはいえ、単に実験や観察の回数を増やせば良いわけではありません。
実験や観察の繰り返し(反復)は「独立」に行われる必要があります。
この「独立」というのは、1回1回の実験や観察の間に関係性が無いことを意味します。
先に述べた聞き手の例で考えてみましょう。
ある人が右手で作業する様子を20回観察したとします。
この結果をもって「人類は皆、右利きである」と結論づけるのは妥当でしょうか。
これでも仮説の検証に充分とはいえません。
問題なのは「人類」全体の議論をしているのに、
「ある人」1人からのみデータを得ている点にあります。
最終的に「人類は…」という問いに答えるのであれば、データは「人類」全体から
とってくる必要があります。そのため、1回の観察は「人類」全体の中から
1人取り出した時の観察でなければなりません。「ある人」からの
実験や観察だけでは、「ある人」のこと以上の議論をすることができないのです。
実験や観察の手順を考える際には、1回ずつの実験・観察が独立な反復に
なっているか、注意しておく必要があります。
2)無作為化(ランダム化)
実験や観察によって関心のある行動を引き起こす要因を突き止めても、
実際には別の要因が行動を引き起こした原因である可能性が残ります。
無作為化(ランダム化)はこの可能性を減らす(≠無くす)ために、
データを無作為に取ることを意味します。
再び利き手の問題を考えてみましょう。
独立な反復のために、20人が作業するときに使う手を観察したとします。
その結果、20人全員が右手を使って作業している様子を観察できました。
では、「人類は皆、右利きである」と結論づけてよいでしょうか。
ここで注意しなければならないのは、
観察された20人が「人類」全体からどのように選ばれたのかということです。
もし、観察された20人が全員、右手しか使わない宗教を信仰する国の人であれば、
右利きのみの観察は「人類は皆、右利きである」からなのではなく、
その宗教による影響となるでしょう。
そこで、人類全体から無作為(ランダム)に選んだ20人を観察することが無作為化です。
「無作為に選んだのだから、別の要因(ここでは宗教)の影響はないだろう」
という考えがこの背景にあります。
3)ブロック化
ブロック化とは何かを簡単にいうと、
無作為化を行う際に全体から無作為にとるのではなく、
似た性質のものをまとめた塊(ブロック)をつくり、
そのブロックの中から無作為に取り出すことを意味します。
再び右利き問題を考えてみましょう。
どうにか頑張って、全人類から無作為に選んだ20人を観察して利き手を調べたとします。
(あくまで仮定です。現実的には「全人類」という仮説を
「日本人」などと変える方が妥当でしょう。)
しかし無作為に選んだとしても、偶然、
宗教的に右手しか使わない人を20人選んでしまう可能性があります。
宗教が今回の「右利き」仮説の検証に影響することは避けられないでしょう。
この場合にはそれぞれの宗教を信仰する人々を一つの塊(ブロック)とみなし、
各ブロック(各宗教の信仰者)から無作為に選んだ人を観察することで、宗教の影響を減らします。
これがブロック化です。
あらかじめ結果に大きな影響を与えると予想される要因(上の例では宗教)が
ある場合、ブロック化によってその影響を効果的に取り除くことができます。
<さらに詳しく>
実験計画については統計関連の様々な本で紹介されています。
本ガイドで紹介している『動物行動の観察入門』の第4章や
『統計思考の世界:曼荼羅で読み解くデータ解析の基礎』の7,8章にも紹介があります。
実験計画に特化した本としては、以下があります。