2000年から2014年の間で [1] |
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(経済産業省 [2] より)
ここ数十年の間で、衣類の価格は下がり続け、大量の衣類がこれまでにない速いスピードで生産・消費・廃棄されるようになりました。ファストファッションと呼ばれる大アパレルチェーンはこの方法によって莫大な利益を上げてきました。それによって、誰もが気軽にファッションを楽しむことができる時代が到来しました。しかし、典型的な衣類の生産は染色の段階で大量の水と化学薬品が使用され、また縫製段階において人の手を必要とします。これだけの大きな量的変化が起こっているのですから、同時に大きな弊害が起こらないわけがないことはちょっと考えてみると分かるわけですが、それらが消費地から遠く離れた地で発露する場合が多いため、消費者である私たちからは見えにくくなっています。
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ファッション産業の環境負荷は非常に大きく、水質汚染、土壌汚染、生物多様性の損失、温室効果ガスの排出などその影響は多岐に渡ります。下に示したのはCO2排出量の例ですが、全体として、原料調達から始まる生産段階の環境負荷が非常に大きくなっています [6]。
(株式会社日本総合研究所 [6] より)
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ファッションブランドの多くは今や自社の工場を持たず、低中所得国に立地する工場と契約する形で製品を作っています。ファッション業界のサプライチェーンにおけるバイヤーの権力は絶大で、バイヤーは多くの場合工場を自由に選ぶことができます。メーカーである工場は契約を得るためにより安く早く製品を作らなくてはならなくなり、人件費は極限まで削られ厳しい納期が労働者に強いられます。人権費の安い工場が立地する国々の多くは労働者を守るための制度が確立されていないため、労働者は劣悪な環境・条件で働くことを強いられている場合が多いのです。杜撰な安全管理によって人々が命を落とすケースも少なくありません。2013年にバングラデシュで、縫製工場が多く入るラナ・プラザ(Rana Plaza)という建物が崩壊した事故では、死者・行方不明者は1500人を超え、また2500人以上が負傷しました。この事故が起きた時、管理側は建物にヒビが入っていることに気付いていたにもかかわらず、何も手を打つことなく労働者を働かせ続け、そして多くの人の命が奪われることになりました [10]。
化学薬品や廃水による二次的な健康被害も甚大ですが、それらも同じようにバイヤーや消費者から隔絶されたところで発生しており、明るみに出ることはほとんどありません。
これらの問題について、「各国で労働者や環境を守るための制度が欠落していることが問題で、むしろファッション産業は貧困地域に雇用を生み出しているのだ」との主張もありますが、人権や環境を顧みずに利益だけを追求するブランド側とただ「安さ」を求める消費者のニーズが人々を追い込んでいると見ることもできます。
Fashion is a winner-takes-all industry.
(BOF, McKinsey & Company [8], p.93)
暗澹たる気持ちになってきましたね??次の日本の現状までもう少し続きます!笑
The life cycle of a t-shirt | Angel Chang (2017)
The High Cost of Our Cheap Fashion | Maxine Bédat (2016)
ファストファッションが環境に与える影響を解説 | BBC (2020)
[1] Remy, N., Speelman, E. and Swartz, S., 2016. Style that's sustainable: A new fast-fashion formula. [online] McKinsey Sustainability. Available at: <https://www.mckinsey.com/business-functions/sustainability/our-insights/style-thats-sustainable-a-new-fast-fashion-formula?cid=eml-web> [Accessed 22 March 2022].
[2] 経済産業省. 2018. 繊維産業の課題と経済産業省の取り組み. [ebook] Available at: <https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/mono/fiber/pdf/180613seni_kadai_torikumi.pdf> [Accessed 22 March 2022].
[3] 国連広報センター. 2019. 国連、ファッションの流行を追うことの環境コストを「見える化」する活動を開始. [online] Available at: <https://www.unic.or.jp/news_press/features_backgrounders/32952/> [Accessed 27 February 2022].
[4] Fairtrade Foundation, 2020. Fairtrade and Cotton. [online] Available at: <https://www.fairtrade.org.uk/wp-content/uploads/2020/10/Cotton_commodity_briefing_2020.pdf> [Accessed 24 March 2022].
[5] ICAC. n.d. Did you know?. [online] Available at: <https://www.icac.org/LearningCorner/LearningCorner?CategoryId=1&MenuId=14> [Accessed 24 March 2022].
[6] 株式会社日本総合研究所, 2020. 環境省 令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務:「ファッションと環境」調査結果. [online] Available at: <https://www.env.go.jp/policy/pdf/st_fashion_and_environment_r2gaiyo.pdf> [Accessed 25 February 2022].
[7] Bick, R., Halsey, E. & Ekenga, C.C., 2018. The global environmental injustice of fast fashion. Environ Health 17, 92. [online] Available at: <https://doi.org/10.1186/s12940-018-0433-7> [Accessed 27 February 2022].
[8] BOF, McKinsey & Company, 2018. The State of Fashion 2019. [online] Available at: <https://cdn.businessoffashion.com/reports/The_State_of_Fashion_2019_v3.pdf> [Accessed 22 March 2022].
[9] Clean Clothes Campaign, 2020. Un(der) paid in the pandemic: An estimate of what the garment industry owes its wokers. [online] Available at: <https://media.business-humanrights.org/media/documents/files/documents/CCC-Report-Web-DEF.pdf> [Accessed 22 March 2022].
[10] 夫馬賢治, 2019. 日本人は知らない、いま世界中で広がる「強制労働」の悲しい現実. [online] マネー現代. Available at: <https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66570?page=2> [Accessed 23 March 2022].