CRISPR/Casシステムは、標的領域と相同な20bpのgRNAを用いてCas9タンパク質をリクルートしますが、設計したgRNAと似ている配列が、ゲノム中の他の箇所に存在することもあります。標的領域以外でゲノムの切断が起こってしまうことをオフターゲット作用と呼びます。オフターゲット作用を避けるために、gRNA設計ツールを使用し、オフターゲットの可能性の少ないもの、もしくは、オフターゲットが避けられない場合は遺伝子のコード領域以外(イントロンなど)がオフターゲットの候補となるような配列を選択すると良いとされています。
アメリカやフランスのグループによって開発された(Maximilian Haeussler, et al., Genome Biology, 2016)、最適なgRNAを見つけるためのウェブサイト。編集を行いたい領域のゲノム配列を入力すると、特異性が高く、オフターゲットの可能性の低いgRNAをランク付けて提案してくれる強力なツールです。さらに、使用するPlasmidを選択すれば、組み込むために必要な突出末端部分(のり代のようなもの)も自動で付随した配列を取得することができます。
Jean-Paul Concordet and Maximilian Haeussler, Nucleic Acids Research, 2018 より引用
CRISPRシステムを用いて変異を導入したい位置の遺伝子配列をペーストすると、上図のような結果が返ってきます。それぞれがgRNAの候補を示していますが、色によってスコアが分けられており、スコアが高いものから緑→黄色→赤となっています。スコアが高いものほど特異性の高い候補配列となっています。
前項の医療応用に向けてという欄でも述べましたが、CRISPRを使用する上で重要なのが安全性や倫理的な問題です。皆さんも耳にしたことがあるかもしれませんが、2018年12月に中国でゲノム編集を施した双子が誕生したことがニュースになりました。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染しないように、という名目でゲノムの編集を行ったようですが、その編集によって短命になるリスクが高くなるといった報告も別グループからされています。これに限らず様々な疾患の治療法開発等のためにモデル生物を用いた検証が行われていますが、ヒトでも全く同じような影響が出るのかどうかは誰にも分かりません。生殖細胞に変異が入ると、その変異は次世代へと受け継がれていくことになり、さらに個体を形成する細胞全てが変異を有するようになることから、より大きな影響を及ぼす可能性もあります。生殖細胞や受精卵に対する遺伝子治療に関しては、いくら両親の承諾があるとはいえ、本人の同意ももちろん得られないという懸念すべき点も存在します。
次のページ:まとめ