理学府物理学専攻の塚原壮平(つかはら そうへい)です。
大学院では素粒子理論を専攻しています。
素粒子理論というのは本ガイドの大きなテーマである素粒子物理学を理論的に研究する分野です。
一般的な理系のイメージでは研究というとフィールドワークや実験をたくさんするイメージがあるかと思いますが、この分野における研究は極論紙と鉛筆で完結してしまいます(場合に応じてパソコンやスーパーコンピュータなども)。
頭の中にある武器(数学)で未踏の理論を開拓する、そんな分野です。
私の地元(佐賀県)には自宅から車で40分程度のところに佐賀県立宇宙科学館があり、小学生の頃は毎週末のように通っていました。
当時の私はそこにある竜巻発生装置とジャイロ効果の体験装置(回転する椅子の上で回転する円盤を持つと円盤の傾きに応じて体が回り始めるあれ)が大好きでした。
佐賀県立宇宙科学館についてはこちら。
「目に見えないもの」や「形を捉えづらい現象」に興味があり、水の"流れ"とは何か、空気分子は小さいのになぜ私たちは息をできるのか、等といった問を立てて考えるのが好きな少年時代でした。
そんな折両親から原子図鑑を貰い、電子、陽子、中性子の組み合わせでこんなにも豊かな性質が現れることに衝撃を受けました。
ミクロの世界に何があるのか、この世界は何でできているのか、そんなちょっとませた疑問に憑りつかれてしまいました。
原子や素粒子に興味を持つようになったのはそれがきっかけです。
おそらく皆さん一度は考えたことがあるのではないでしょうか?
砂粒をもっと細かくするとどこまでも細かい砂粒ができるのか、それとも別の何かが存在しているのか。
水はどこまで拡大しても水なのか。
古代ギリシャでは、物質は「火・水・土・空気」の四つから構成されるという四元素説が一般的でした。
「万物の根源は水である」とするタレス、「いや、空気が根源だ」というアナクシメネス、「いやいや火こそが根源だ」とヘラクレイトス、喧々諤々と議論されたのち、エンペドクレスによって万物の根源は「火・水・土・空気」と四つにまとめられました。
今となっては荒唐無稽なアイデアに思えますが、重要なのは、この時既に物質には何らかの最小構成単位が存在するというアイデアが萌芽していたことです。
因みに同時代、同じくギリシャの哲学者デモクリトスは現代でも一般的に受け入れられている原子論を既に提唱していましたが、当時優勢を誇った四元素説の前に顧みられることはありませんでした[注1]。
現代を生きる私たちはあらゆる物質は原子により構成されていることを当然のように思っています。
それは実験でも確かめられたゆるぎない事実です。
しかし、原子は本当に"最小"構成単位でしょうか?
この問いに挑むのが素粒子物理学という学問です。
[注1]このアイデアは19世紀初頭、イギリスの化学者ドルトンによってふたたび日の目を見ることになります。ただし、デモクリトスが提唱した原子は今でいう分子に近いもので、ドルトンの提唱したものとは正確には異なります。