Skip to Main Content

狩野亨吉と九州大学: 古医書

近代日本を代表する思想家・教育家・蒐書家である狩野亨吉が、九州大学にもたらした貴重な図書の紹介

眼科教室旧蔵古医書

 医学図書館貴重図書室に所蔵される眼科教室旧蔵の古医書のうち、大西克知が狩野亨吉から購入したものは総計1475部4644冊を数える。医学図書館所蔵の古医書については、研究開発室室員のミヒェル・ヴォルフガング氏のご尽力により目録・電子化が進んでおり、展覧会等でも紹介されたが、その中には狩野からもたらされた貴重書も少なくない。
 注目されるのは、丹波園部出身の漢方医寺尾元長(1800~1847、「柳外園蔵書印」)、越後加茂の蘭方医森田千庵(1798~1857、「山吉文庫」等)の旧蔵書が多数含まれていることであり、狩野が良質の蔵書群を丸ごと買い取って、それを惜しみなく九州大学に売却したことがわかる。

参考文献・関連サイト

五臟之守護并虫之図―五臓六腑を襲う虫―

     
勢至 文殊  腎膀胱虫 胃腑虫 好婬虫 小腸虫 大腸虫 胆腑虫 寸白虫 閻大虫
陰好虫 針穴虫 背腸虫 針狂虫 好食虫 独孤虫 積衆虫 産後虫 女之白血見虫 五臓六腑砕之次第之明鏡


五臟之守護并虫之図 医学図書館所蔵 コ-25 眼科/和書7245号 
※電子画像はタイトルをクリック ※閻大虫の閻字の原本の表記は[門+田])

 人間ははるか昔から、自身や身近な動物で目にする幾つかの虫について認識し、想像上の虫を病因としたりしていた。本書は九州国立博物館所蔵『針聞書』と同じく、大変ユニ-クな虫を描いた江戸期の写本。「五臟之守護并虫之図」4葉半と「五臓六腑砕之次第之明鏡」6葉半の2部で構成されている。前半は五臓に宿る五仏と体内に巣くう18種の虫が列挙され、後半は内景図とその解説が記されている。

参考文献:ミヒェル・ヴォルフガング解説「」(『東西の古医書に見られる病と治療-附属図書館の貴重書コレクションより』)、長野仁「『五臟之守護并虫之図』 について」(『鍼灸』OSAKA24(3)、2008)

和蘭金瘡―紅毛流医学の写本―

   
腹部の縫合例 伝統的な腫れ物の概略  


和蘭金瘡 附請腫物師語 医学図書館所蔵 オ-26 眼科/和書5672号 ※電子画像はタイトルをクリック

 鎖国下の江戸時代では、長崎出島のオランダ商館医を通じて、西洋医学が日本に伝えられた(いわゆる紅毛流医学)。本書は紅毛流外科の写本の一つで、中医風の腫れ物図が附されている。本草学者白井光太郎(1863~1932)旧蔵。

参考文献:ミヒェル・ヴォルフガング解説「外科処置」(『東西の古医書に見られる病と治療-附属図書館の貴重書コレクションより』)

新刻秘伝眼科七十二証全書―中国眼科専門書―

 


明・哀学淵撰『新刻秘伝眼科七十二証全書』 明刊 医学図書館所蔵 ヒ-47 眼科/和書7104-7105号

 中国明時代に哀学淵が著した中国眼科専門書で、17世紀後半に日本で翻刻され、日本の眼科諸流派の教科書となった。本書は貴重な明刊本(補写あり)。図の五輪とは、眼の各部位を、脾心肺肝腎の五臓と、木火土金水の五行と関連づける考え方で、五臓六腑における五行運行状態に異常があると、眼の五輪にも異常が発生すると考えられていた。
 本書は丹波園部出身の漢方医寺尾元長(号柳外園、1800~1847)の旧蔵書の一つ。寺尾元長の蔵書は散逸して、各地の図書館に「柳外園蔵書印」が押印された図書を見出すことができるが、九州大学に最もまとまって所蔵されている。明刊本をはじめとする貴重な漢籍古医書を数多く含み、医学図書館におけるその中核となっている。

参考文献:千葉彌幸「江戸時代の眼科小史」(『千葉医学雑誌』78-6、2002)、「秘傳眼科全書」(『研医会通信』122、2015)

馬島眼療之図―江戸時代の眼病治療―

 


馬島眼療之図 文政13年(1830)写 医学図書館所蔵 マ-5 眼科/和書7373号 ※電子画像はタイトルをクリック

 江戸時代の眼科の名門馬島流の秘伝書の写本。馬島流は尾張海東郡馬島の医王山薬師寺の僧で、同寺中興の祖といわれる清眼僧都(?~1379)を開祖とする。以降馬島流は多くの流派によって継承され、近代に至るまで隆盛を極めた。
 馬島流の技術は口伝や秘伝書によって継承され、本書もそうした秘伝書の一つである。眼病の薬種とその功能および治療法を眼病図入で解説している。

参考文献:谷原秀信「日本で最初の眼科専門医 : 馬島清眼と馬島流について」(『眼科』55(9)、2013)、「麻嶋灌頂小鏡之巻」(『研医会通信』21、2008)

重訂解体新書銅版全図―精密な解剖図―

 


杉田玄白・大槻玄沢訳『重訂解体新書銅版全図 天保14 (1843)刊 医学図書館所蔵 カ-31 眼科/和書3617号 ※電子画像はタイトルをクリック

 『重訂解体新書』は、安永3年(1774)に刊行した『解体新書』の訳に満足しなかった杉田玄白(1733~1817)の命で大槻玄沢(1757~1827)がクルムスの『解剖図表』(ターヘル・アナトミア)を訳しなおしたもの。銅版図は、中伊三郎(?~1860、大坂の蘭学者中天游の従弟)の作で、木版に比べはるかに精密になっている。
 本書には「狩野氏圖書記」の蔵書印が捺されており、眼科教室の狩野本発見のきっかけの一つとなった。

参考文献:ミヒェル・ヴォルフガング解説「東へ伝わる西洋医学」『東西の古医書に見られる身体』、『解体新書とターヘル・アナトミア : 解剖図の洋風表現』(武田科学振興財団杏雨書屋、2012)
参考:慶應義塾大学所蔵オランダ語版『ターヘル・アナトミア