※このページの内容に関しては、2025年1月時点での情報をもとに作成しています。
建築の資格にはどんなものがある?
建築系の資格には、建築士、施工管理技士など数々の資格がありますが、一般的に最も有名なのは、建築士だと思います。
建築士を簡単に説明するなら、一定規模以上の建築物を設計・監理ができるようになる資格(監理とは、建築物が設計通りに建てられているか監視するような業務)です。建築士は、これらの業務を独占して行うことができます。
建築士の中でも、一級建築士はあらゆる規模の建築物を設計・監理できる資格で、建築系の資格の中でも最高峰の資格です。九大の建築学科を卒業すれば、一級建築士試験の受験資格を得ることができ、ほとんどの人はいきなり一級を受けるので、今回は一級建築士についてお話したいと思います。
一級建築士は必ず必要?
建築の仕事をする上で、一級建築士の資格は必須というわけではありません!
一級建築士の資格がいるのは、大規模な建築物の設計・監理をする時なので、住宅などの小規模な建築物であれば二級や木造の資格でも設計することができます。また、現場で施工管理として働く場合には、建築士よりも施工管理技士等の施工系の資格の方が重宝されたりします。
学生の間に取るメリット・デメリット
前述した通り、法改正によって建築学科を卒業した時点で受験が可能になるため、大学院に在学中に取ることも可能になりました。実際に私も含めて毎年一定数は在学中に受験しています。
私が実際に受験をして感じた、学生の間に取るメリット・デメリットについて書きたいと思います。私が受けた理由も踏まえて説明しています。
人によって、就職先での一級建築士の必要性、在学中の忙しさ、お金の余裕等事情が異なるので、受験するかどうかは総合的に判断してください!
メリット
①社会人に比べて時間がとれる
学生で取るメリットは間違いなくこれだと思います。学科と製図ともにかなりの勉強時間を確保する必要があり、社会人になって平日の夜と休日を返上で勉強するよりはスケジュールに余裕をもって勉強できると思います。
私は就活が終わったタイミングで、一級建築士が必要な職種であったこと、先輩から社会人だと勉強時間の確保が大変ということを聞いたため受験を決意しました。
②気軽に受けることができる
社会人と違ってとらなければいけないというプレッシャーもあまりないため、気軽な気持ちで受けることができます。気軽に受かる試験ではないですが、仮に落ちても次の年受ければよいというスタンスで受ける人も結構多いです。
デメリット
①試験勉強に時間を取られる
メリットの裏返しになりますが、本気で試験に受かろうとすればかなりの時間を一級建築士の勉強に充てることになると思います。結果的に、研究や遊びの時間がひっ迫する可能性もあるので、これについては人それぞれだと思っています。
②お金がかかる
詳細は後述しますが、マークシート形式の学科試験はテキストさえ購入すればそこまでお金をかけずに独学で勉強できると思いますが、製図試験は受験者のほとんどが資格学校に通っているため、受かるためには対面またはオンラインで資格学校に行くことがほぼ必須になっています。その費用が数十万以上かかるため、製図試験まで大学院の間に突破するとなるとかなりの費用を要します。これが理由で学科試験に受かっても、製図試験は社会人になってから受けるということもできます。(学科試験の免除についても詳細は後述します。)
ここからは、一級建築士についてさらに深堀したいと思います。かなり細かい話になるので気になる方は読んでみてください。
受験資格・登録要件
受験資格については、先ほども述べたように九大の建築学科を卒業していれば誰でも受験資格を得ることができます。しかし、卒業後すぐに試験に受かったとしても2年以上の建築系の実務経験が無ければ建築士として登録することはできず、建築士と名乗ったり、建築士の業務を行うことはできません。
試験に受かったのに、名乗れないなんて!と思われるかもしれませんが、少し前までは2年の実務経験が無ければ受験資格を得ることもできなかったので、大学卒業後すぐに試験を受けられるのは、大学院生や新社会人にとっては非常に良い変更だと思います。
受験スケジュールについて
一級建築士の試験は1次の学科試験と、2次の製図試験に分かれています。それぞれの試験の詳細は下に書きますが、先に受験のスケジュールについておおまかに説明します。スケジュール等の情報は筆者が受験した2024年度の試験のものですので、最新の情報を必ず確認してください!
2024年3月1日 その年の試験日程と試験案内が公表
2024年4月1日~4月15日 インターネット上で受験申込開始(卒業証明書とは別の証明書が必要になるため余裕をもって準備しましょう)
2024年7月26日 2次の製図試験の課題が発表(学科試験より一足先に製図試験の課題が発表されます。2次試験から受ける人はここから本格的な製図勉強が始まります。)
2024年7月28日 学科試験日
2024年7月29日 製図試験の勉強開始(学科試験の自己採点で基準点を超えた人は、休む間もなく製図試験の対策を始めます。)
2024年9月4日 学科試験合格発表(ここで学科の合格発表がありますが、おおよその結果は自己採点で分かっているので製図対策を継続します。)
2024年10月13日 製図試験日
2024年12月25日 製図試験合格発表(発表はなぜだかクリスマスの朝にありました。受かれば天国、落ちれば地獄のクリスマスを過ごすことになります。)
学科試験の免除について
2024年現在の制度では、1度学科試験に合格すると、その年を含めて5年間の間に3回学科が免除され、製図試験から受験することができます。受験回数のカウントは試験元の下記リンクを参照してください。
学科免除の回数について(公益財団法人建築技術教育普及センター公式HPより)
学科試験の概要
ここからは1次の学科試験について説明したいと思います。
1次試験はマークシート形式の試験で、4択の中から答えを一つ選ぶ形式となっています。
学科の科目は以下の5科目です。
科目名 | 内容 | 問題数 | 試験時間 |
Ⅰ計画 | 建物の配置計画や都市計画、建築史等 | 20問 | Ⅰ、Ⅱ合わせて2時間 |
Ⅱ環境・設備 | 建物の空調、上下水、電気、快適性等 | 20問 | |
Ⅲ法規 | 建築基準関連規定について | 30問 | 1時間45分 |
Ⅳ構造 | 鉄筋コンクリート造、鉄骨造等の建物の構造について | 30問 | Ⅳ、Ⅴ合わせて2時間45分 |
Ⅴ施工 | 建築物の施工方法(作り方)や建築材料について | 25問 |
以上のようにⅠ~Ⅴまでを計6時間30分で解く試験となります。一級建築士は建築系の資格の中でもかなり出題範囲が広大なため、自身の専門分野以外の知識も必要となります。大学院生であれば院試の知識も少し役に立ちます。
満点は125点で、合格基準はおおよそ90点以上で、割合で言えば72%以上となります。合格基準はその年の難易度によって若干前後し、2024年は92点が合格点でした。
また、一級建築士試験には科目ごとの足切り点数が設定されており、仮に合計点が合格基準を超えていたとしても、1科目でも足切り点未満であればその時点で不合格となります。この足切り点も年によって変動がありますが、だいたい50%~55%くらいの範囲です。したがって、苦手な科目を捨てて、得意な科目で点を取るような戦略がとりにくくなっています。
対策はどのようにした?
学科については基本的に暗記することがとにかく多かったというイメージです。私個人は過去問と一問一答形式の問題集を主に用いて学習しましたが、学科についてはそれぞれ自分に合った勉強法があると思うので、点数さえ取れれば勉強方法自体はなんでも良いと思います。
学科試験で少しだけ他と毛色が違うのが【法規】の試験です。この科目のみ辞書のような分厚い法令集を持ち込むことができます。基本的にこの法令集を引けば問題を解くことができ、楽勝じゃない?と思われる方もいるかと思いますが、実際すべての選択肢を法令集で確認していては絶対に時間が足りず解き終わりません。(大学の授業でも持ち込み可のテストは時間がないみたいなテストあると思います。)
そのため、法規は頻出の問題については法令集を使わずとも解ける状態、少なくとも一瞬で引くことができる状態まで学習しなければなりません。そして初出題の問題や難問と呼ばれる問題を余った時間で解くといったイメージとなります。
概要
続いて2次の製図試験についてです。
製図試験は一級建築士試験と言えばこれ!といった感じの試験ですが、どのような試験なのか知っている人は多くないと思います。私も正直、製図試験の勉強を始めるまでは、「え?製図ってなにすんの??」といった状態でした。ここでは、実際に試験を受けたうえで、製図試験をなるべく分かりやすく、詳細に説明したいと思います。
製図試験とは何をする試験なのかを一言で言えば、、、
課題書をもとに、決められた時間内で、要求と法律を満たした建築物を設計する試験
となります。
これだけ言っても分かりにくいので具体的な特徴を挙げていきます。
①試験時間が6時間30分!(長くて短い)
6時間30分と聞くと長いと思うかもしれませんが、初受験者にとっては6時間30分はかなり短く、時間との厳しい戦いとなります。実際に私が受けたときには時間がギリギリ過ぎてトイレに行くこともできませんでした。
②勉強期間が短い
初受験者であれば、学科試験終了後から製図試験当日までの約2か月半で合格レベルまでもっていく必要があります。仮に一年空けたとしてもその年の課題は学科試験の数日前に発表なので、勉強時間はそこまで長くはなりません。
③合格基準が独特(曖昧)
後述しますが製図試験の合格はランクという基準で行われます。試験元からある程度の判定基準は公表されていますが、細部の採点基準や配点は明言されていません。
6時間30分の間ひたすら図面を描いている?
実は試験時間の間ずっと図面を描いている訳ではありません!
課題文を読んでいきなり大きなA2の回答用紙に製図するということはほぼ不可能なので、どの受験生もある程度の手順を踏んで徐々にプランを固めていきます。一般的な6時間30分の時間の使い方を簡単に説明したいと思います。
~試験前
試験前に持ち込んだ道具の準備を済ませます。試験開始直前に、課題書、エスキス用紙(下書き用)、解答用紙Ⅰ(A2製図用紙)、解答用紙Ⅱ(計画の要点)の4点が配られます。
試験開始~
読み取り 30分
試験開始から30分で課題文の読み取りを行います。ただ読むわけではなく蛍光ペンで要求を色分けして、チェックの時に見落としが無いようにします。慣れると単純作業になりますが、ここで要求の勘違いや見落としがあると、取り返しのつかない事態になるので個人的には最も重要な工程です。
エスキス 2時間
課題書で読み取った内容から、エスキス用紙で具体的なプランを練っていきます。この過程で1/1000や1/400の清書より小さめの図面を描いていきます。
中間チェック 15分
この段階で課題書と照らし合わせて、要求や法律にあっているかを確認します。
計画の要点 1時間
計画の要点とは、受験生が作った設計のポイントについて、計画、設備、構造の点から設問に答えていきます。ここで書いたことと、図面に描いたことの整合性が必要になります。
製図 2時間15分
ここで解答用紙に1/200で図面を描いていきます。私が一番最初に描いた時にはこれを描くのに5時間かかっていましたが、何度も繰り返して2時間ちょいで描けるようになりました。
最終チェック 30分
この試験で個人的に2番目に重要な部分です。図面と計画の要点を課題書に照らし合わせて、チェックをしていきます。どんなに丁寧にやっても、このチェックで何個かはミスがでるので、ここでミスに気付けるかが試験の合否を分けるといっても過言ではありません。私も本番で2,3個ミスを見つけて、そのうち一つはかなり致命的な一発不合格のミスだったので、気づけて本当に良かったです。
以上が時間配分になります。実際に解答用紙と向かいあう時間は全体の半分くらいで、残りの時間はチェックとエスキスを行っています。
どうやって合格者がきまる?
先ほど少し述べたランクについて説明したいと思います。ランクとは受験者の解答をランクⅠからランクⅣに分けたものです。以下、ランクの説明をしています。
ランクⅠ
知識及び技能を有するものとされ、法令と要求を満たし、ミスがほとんどないものがこのランクⅠに該当します。製図試験はこのランクⅠに該当する受験者が合格となります。製図試験の受験者の内、約25~35%がこのランクⅠになります。
ランクⅡ
知識及び技能が不足しているものとされ、法令を満たし、要求も概ね満たしているが、ミスが少しあるものがランクⅡに該当します。製図のランクⅠとⅡは相対評価とされていて、ランクⅠとの違いは、少し大きいミスをしていたり、小さなミスの数が多いことです。受験者全体で言うと約1%~2%のみの受験者が該当し、かなり惜しいできだったということなので、かなり悔しいランクです。
ランクⅢ
知識及び技能が著しく不足するものされ、重大な法律の不適合はないが、課題書の要求に対して大きなミスや不足があったときに該当します。ミスの例としては、指定された室の作り忘れ、面積の不足、トイレがない等が挙げられます。受験者全体では20~25%が該当します。
ランクⅣ
設計条件および要求図書に対する重大な不適合に該当するものとされ、法律に適合しないもの、要求への重大なミス、建築物としての基本的なミスなどがあります。具体例として、斜線制限や避難経路等の法律のミス、階数や延べ面積の指定を守らないなどの要求へのミス、扉がない、柱の位置がずれているなど基礎的なことへのミスがあります。受験者全体では、40%~50%が該当します。
このようなランク分けで合格者が決まる試験となっています。