みなさんは自分の血液型を知っていますか?
昔は生まれてすぐに血液型を調べたみたいですが,現在は調べない事も多いようです.
血液型の検査は何のために行うのでしょう?
それは占いに使うためでもなく,性格を知るためでもなく,輸血をするときに必要だからです.
・・・と.言う訳で,太郎さんのようにただ風邪を引いて病院に行っただけでは血液型の検査なんてするはずがないのですが,今回はわたしがみなさんに,できるだけ多くの検査を紹介したいのであえて載せてみました.
「血液型を知らないと,輸血が必要なときに困るんじゃないの?」
と思う方もいるかもしれませんが,実際に輸血が必要な状況になったときは患者に血液型を尋ねる事は絶対にありません!
必ず採血をし,血液型の検査を行ってから適合した血液を輸血します.
だから,血液型を知らなくても焦ることは何もありません.
血液型とは
一口に血液型と言っても実はいろんな種類の血液型があります.
一般的によく知られているのがABO型血液型で,これを調べる事でA型なのか,B型なのか,といった”血液型”を知る事ができるのです.
では,A型を Aたらしめてるもの,B型をBたらしめているものは一体なんでしょう?
答えは”糖鎖”です.
下の図に示したように,赤血球の表面にどの種類の糖鎖がくっつくかでABO血液型が決まるのです.
これと同じように,Rh(+),Rh(-)というものも,Rh血液型を調べる事で分かります.
こちらはABO型よりも少し複雑なのですが・・・ある構造を赤血球表面に持つ場合をRh(+),持たない場合をRh(-)と表現します.
血液型の検査
ではどのようにして血液型を検査するのでしょうか?
それを説明するにはまず,抗原・抗体反応を説明する必要があります.
抗原・抗体反応とは,生物が異物(病原菌など)から身を守るために作り上げた体の防御機構です.
体内に異物(抗原)が侵入すると,これがきっかけとなってこの異物(抗原)と特異的に結合するタンパク(抗体)が産生され,この結合体が異物排除に必要な体内の働きを促進します.
抗体は対応する抗原と特異的に結合します.
この性質を使って血液型の検査は行われます.
上に血液型検査に用いる抗A,抗B各血清と,抗原抗体反応の模式図を示しています.
A抗原は抗体の腕の部分の結合部が丸くなっている抗A抗体と結合し,ギザギザになっている抗B抗体とは結合することができません.
同じように,B抗原は抗体の腕の部分の結合部がギザギザになっている抗B抗体と結合し,丸くなっている抗A抗体とは結合することができません.
血液型検査においては先ほど説明した各血球に発現している糖鎖を抗原とします.
たとえば,A型を表現する糖鎖はA抗原,B型を表現するのはB抗原,という風にです.
O型はA,B抗原のいずれも持たないもの,AB型はA,B抗原の両方をもつもの,となります.
血液型検査では,患者(血液型を調べる人)の血球を抗A血清,抗B血清と反応させることによって判定を行います.
血球に発現している抗原と同種類の抗体がくっついて凝集する性質を用い,血液型の判定を行います.
図:九州大学病院 検査部ホームページより引用
抗血清と凝集するかどうかで血球に発現している抗原の種類が分かります.
右上に血液型検査の結果の一例を示します.
この例では抗A血清と反応し,凝集塊を形成しているので,この血球はA抗原を持つ,ということが分かります(実はこれだけで血液型が決定する訳ではないので,ちょっとはっきりしない言い方になっています・・・).
輸血
輸血とは,出血や貧血がひどい患者に血液を入れる事です.
型の合わない血液を輸血すると,副作用が起こります.
輸血の流れを下の図に示します.
原則としてこれら全ての検査を実施してから輸血を行います.
血液型検査については先ほど説明した通りです.
では,不規則抗体スクリーニングとは何なのか,説明したいと思います.
<不規則抗体スクリーニング・検査>
血球には抗原(=糖鎖)というものが存在しています.
人間の血液は血球だけで構成されてるのではなく(そんな状態では血管がつまります),血漿(血清)という成分も存在しています.
この血漿の中には抗体が存在しており,例えばA型の人の血漿には抗B抗体が、B型の人には抗A抗体が,O型の人には抗A抗体,抗B抗体が存在しています.
AB型の人はどちらも持っていません.
先ほど説明したように,対応する抗原と抗体が出会うと,凝集を起こし,それが体内であると血球が壊れる反応となります.
そのため,輸血を必要とする患者の体内にある抗原に対応する抗体を入れてはならないし,逆もまた然りです.
そこで不規則抗体スクリーニング試験が行われます.
これはどの抗原を持っているのか分かっている4種類の血球(試薬)に患者の血漿を混ぜ,凝集の有無を調べる試験です.
凝集があればその患者の血漿にはその血球に存在する抗原に対応する抗体が存在する可能性が高いです.
凝集ありの場合,さらに多数の血球を使い,患者がどの抗体を持っている可能性が高いのか,絞り込んでいきます.
このような不規則抗体検査の結果を踏まえ,患者にどの型の血液を輸血するか決定します.
<交差適合試験(クロスマッチテスト)>
以上の過程を経て,注文した血液を輸血する前に,クロスマッチテストを行い,ダメ押しの検査をします.
輸血する血液の血球と患者血清を,輸血する血液の血清と患者血球を反応させ,それぞれ凝集が起こらないか確認するテストです.
これで凝集なしであれば輸血をしても副作用が起こらないはず,です.
輸血の検査は一見するとかなり複雑そうに見えますが,基本的には抗原抗体反応が起こらないかの確認を入念に行っているだけです.
とは言え,病気の状態によっては適合血を見つけるのが困難だったり.ある刺激がきっかけとなっていきなり抗体を産生したりするので,そのような人に合う血液を見つけるのはとても難しい作業です.
もちろん,超緊急の輸血の場合,これだけの作業を行っていると間に合いませんから,血球を輸血する際は第一選択血としてO型,血漿,血小板を輸血する際はAB型を選択する事になります(O型血球はA抗原,B抗原を持たないこと,AB型は抗A抗体,抗B抗体を持たないことを思い出してください).
その場合ももちろん,輸血を実施する前に採取した患者の血液型の検査を行い,血液型が分かり次第同型輸血に切り替えますし,輸血した血液と患者の血液についてのクロスマッチも行われます.
他人同士の血液が100%適合することはありません.
輸血検査は,”副作用の起こる可能性がより少ない血液を探す検査” であると言えます.
輸血検査(機械編)
輸血関連の検査は未だに用手法が多い分野ですが,機械を用いた,ゲルカラム凝集法による検査も増えてきています.
下にゲルカラム凝集法の原理を示します.
簡単に説明すると,血球と抗血清が凝集する場合,凝集塊はゲルの隙間をすり抜けることができないのでカラムの上部に溜まる,ということです.
凝集しない場合は血球がゲルの隙間をすり抜けるためにカラムの下部に溜まります.
つまり,ザルの目を通れるか通れないかです.
その後,どの反応カラムに凝集が見られるかを機械が判定し,血液型が報告されます.
機械による判定のおかげで,誤った血液型を報告したり,作業にかかる時間は短縮されましたが,機械では判定できない微妙な凝集を示すことが多々あります.
このような場合,やはり用手法での確認が不可欠となるので,判定を行う”目”をきちんと養うことが大切です(`・ω・´)
ふーん,血液型っていろんな種類があるんだなぁ.
それにしても,輸血をするまでには大変な検査をたくさんしないといけないんだな.
と思いながら太郎さんは検査室を後にしました.