水素の使い方として、一番知れ渡っているものが燃料電池自動車の「燃料」ではないでしょうか。しかし、水素は非常に燃えやすく、燃やしても二酸化炭素を排出しないので様々な産業でクリーンなエネルギーとして化石燃料の代わりに「燃やす」といった使い方もされています。
このページでは
・燃料電池の仕組みと水素
・燃料として使う水素
・水素社会を実現するための課題
の3つについて、お話しします。
燃料電池という言葉はよく聞くけど、どういう仕組みかわかっていない人は多いと思います。燃料電池の仕組みと燃料電池を使うことの難しさを説明します。
燃料電池は図のような構造をしています。
図7 燃料電池の仕組み
出典:中国電力HP、https://www.energia.co.jp/energy/general/newene/newene3.html
このように水素を空気と反応させて電気を生み出すため、排出するのは水だけです。燃料電池自動車では酸素は空気中の酸素を使います。自動車に使われる燃料電池は図7のピンクの電極とその間に挟まれた電解質膜(水素イオンを通す膜)のセットをセルと呼びますが、これがたくさん重ねられたものが使われています。ちなみに、名前の由来は燃料が燃える時と同じように酸素との化学反応を利用していることから燃料電池(Fuel Cell)と呼ばれています。このため燃料電池自動車のことをFCV(Fuel Cell Vehicle)と呼びます。
燃料電池に使う水素は非常に純度の高いものでないといけません。純度の低い水素を使うと発電性能が悪化することが知られています。2021年12月時点の技術では燃料電池に使うには、99.97%以上の高純度の水素が必要です。(ISO(国際標準化機構)14687-2 :水素品質規格による)
ここで純度とは?という疑問が出てくると思います。製造方法によっては、水素を作る際に出た他のガスも混じってしまいます。この場合、取り出したそのままでは燃料電池などには使えません。つまり、この状態では他のガスと水素を分ける必要があるので圧力変動吸着法と呼ばれる方法などで水素と他のガスを分離します。これによって求められる水素の純度になる様に水素の純度を高めます。この精製のためにさらにエネルギーを使うことにもなり得ます。
つまり燃料電池を使うには水素の製造から精製にかかるコストやエネルギーも踏まえて、本当にエコなのかを考えなければいけません。
水素を燃やして使う方法として、水素エンジンがあります。従来の石油燃料を使ったエンジンと同じように使えます。
燃料電池と比べて勝ることは、純度の低い水素も使えるというところです。
以下の記事に詳しく書かれていますので、ぜひ読んでみてください。
[参考]
日経 X TECH 「トヨタが着手もFCVと両立するか 「水素エンジン」10の疑問」
IT Media「「水素エンジン」は本当に実用化するのか」
問題点は
・燃焼制御が難しい
・少量のNOxが出る(ガソリンエンジンなどと比べるとかなりクリーンですが)
などが挙げられます。
なぜNOxが出るかといえば、水素と一緒に空気も燃焼するので大気中の窒素と酸素が反応するからです。この時の「燃焼」は燃料(水素)と支燃物(大気中の酸素)が熱エネルギーを使って反応し、発熱する現象です。
また水素燃焼エンジンでは副生水素(ホワイト水素)も燃料として使えます。副生水素とは、化学製品を作るときに副次的にできる水素のことです。有名なものとして、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)や塩素を作る際にできる水素があります。(図8)
図8 電解ソーダ工場で作られる副生水素
出典:岩谷産業、水素エネルギーハンドブック 第6版、https://www.iwatani.co.jp/jpn/images/bookdata/h2/book.pdf
副生水素を使うメリットとして既存の設備で副産物として出ているものを使うためにコストは抑えられますが、逆にデメリットとしては、
供給の不安定性 - 苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)などの生産量に依存するため
追加のコスト - 純度を上げるために精製する必要がある
などがあります。
最近、車屋さんにPHEVやHVなどと書いてあるのを見かけますが、これらが一体何なのかご存知でしょうか。
他にもFCVやEVもあります。これは車の動力によって名前をつけたものです!
それぞれの名前と説明をします。
HV(HEV)
(Hybrid Electric Vehicle : ハイブリッド自動車)
メインはエンジンで走行しますが、負荷が大きくなる時などにモータを使います。モータのための電力は外部からは給電せずブレーキをかけた時などに電力を作り、充電します。
PHEV
(Plug-in Hybrid Electric Vehicle : プラグインハイブリッド自動車)
ハイブリッド自動車と似ていますがこちらは外部からの充電が可能です。短距離なら電気を使って、長距離ならガソリンを使って走行します。「HVとEVのいいところどり」といった言い方をされることも多いです。ただし、ガソリンを使うためヨーロッパでは規制対象になります。
EV(BEV)
(Battery Electric Vehicle : 電気自動車)
バッテリーに充電し、モーターを動力として走る車です。内燃機関(エンジン)はなく外部から給電された電気のみで走行します。最近では災害時などの電源としての使用も計画されています。
FCV(FCEV)
(Fuel Cell Electric Vehicle : 燃料電池自動車)
燃料電池で動く自動車です。水素を使って発電し、モーターを動力として走行します。一回の燃料充填による航続距離は電気自動車よりも長く、充填時間も短いです。
以上のような、自動車が開発されています。日本はHVやPHEVで高い技術がありますが、ヨーロッパで2035年にこれらが規制されることもあり、EVやFCV(もしかしたら水素エンジン車も)で戦っていかなければいけません。それぞれに一長一短があり、もしかしたら用途(家庭用か商業用か)によって使い分けられるかもしれません。
水素はクリーンなエネルギーで脱炭素社会に向けてとても注目されているものですが、燃料電池自動車や水素を使った技術が広く使われる社会を実現するための課題は多くあります。
まず製造の面では、「水素には色がある?」で説明したように、製造方法によっては温室効果ガスの排出の削減に寄与しないため、将来的にはブルー水素、グリーン水素ですべてを賄うことが求められます。グリーン水素を安定して作るためには再生可能エネルギーを普及させることがまず必要です。また、安定して生産するための海水から水素を作る技術(精製など)、燃料として使う場合の燃焼制御技術など水素を扱うための技術的な課題も多くあります。
その中でも水素の最大の問題といっても過言ではないものが、貯蔵と輸送の問題です。水素はエネルギー密度が非常に低く、常圧で(そのまま)運ぶには非常に効率が悪いです。常圧ではガソリンと比べると約2900分の1のエネルギーしかありません。
そのため水素を圧縮したり、液化したりすることが考えられました。こうすると燃料電池自動車用の圧縮水素タンクで700分の1、液化で800分の1のように小さくして効率よく輸送できます。しかし、圧縮では700気圧、液化には約-253℃など、これはこれでかなり厳しい条件が求められます。そこで水素を効率よく運ぶ水素エネルギーキャリアとして、MCHなどの有機ハイドライド、アンモニアなどが注目されるようになりました。
しかし以下の表のようにそれぞれに一長一短があるため、それぞれの用途や貯蔵期間や輸送の有無によって使い分けることが必要です。
表1 エネルギーキャリア
出典:国際環境経済研究所、CO2フリー燃料、水素エネルギーキャリアとしてのアンモニアの可能性(その9)、https://ieei.or.jp/2020/07/expl200708/
この中でもアンモニアは水素キャリアの一つとしてだけではなく、そのまま燃料として使用でき、燃やしても二酸化炭素は出さないため代替燃料としても注目され始めています。
次章では、アンモニアの可能性とこれからの課題について説明していきます。