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★ヨーロッパ文学の〇〇主義って何?:中世ヨーロッパの文学: 文学こぼれ話:『アーサー王物語』とサブカルチャー

啓蒙主義、古典主義、ロマン主義などなど…。文学で必ず出くわすこの〇〇主義をその思想史的・歴史的背景と共に俯瞰します。

サブカルチャーにおける聖剣エクスカリバー

【ファンタジーと聖剣エクスカリバー】

ファンタジー世界を舞台にした映画や漫画、ゲームやアニメが好きな人は、次のような武器を見たことがあると思います。真の勇者だけが抜くことができる剣、王者の剣、勝利を約束された剣、あるいは岩に刺さったまま鈍器として使われる剣、伝説のバールのようなもの…。その特徴や形態は作品ごとに様々ですが、みな同じ名前を持っているはず。そう、その名は「聖剣エクスカリバー」もはやファンタジーに必須と言えるほど頻出してくるこの聖剣エクスカリバーは『アーサー王物語』がその源泉になっています。

エクスカリバーは『アーサー王物語』においてアーサーの愛刀として登場します。しかしこのエクスカリバー、実は彼が岩から抜いた剣ではないのです。確かにアーサー王物語においてアーサーは「この剣を引き抜きし者は王たる資格を持つものなり」と言われた剣を見事に引き抜きます。しかし、その剣の名は「カリバーン」もともとはアーサーの父ペンドラゴンの剣でした。この剣を携えてアーサーはブリテンを統一しようとしますが、のちに円卓の騎士となるペリノア王によって意外にも折られてしまいますその後、湖の妖精あるいは魔法使いマーリンによって授けられた剣こそが、かの「聖剣エクスカリバー」でした。

ただし、前述の通り『アーサー王物語』に原典と言われるものはなく、さまざまなヴァリエーションが存在するために、物語によっては聖剣エクスカリバーは折れたる剣カリバーンと同一視されることも間々あり、同様にしてアーサー王をモチーフにした映画や漫画、アニメやゲームといった諸作品においても、聖剣エクスカリバーがしばしば「岩に刺さった剣」「真の王者あるいは真の勇者だけが抜くことができる剣」として表象されています。

エクスカリバーは剣それ自体もさることながら、そのには「あらゆる傷を癒し、災いを避ける」という剣にも負けない、というより、剣よりも強力な能力が備わっています。このエクスカリバーによってアーサー王はブリテンの統一をはじめとする偉業を成し遂げ、その栄華を極めます。しかし、策謀によって鞘を失ってしまうことで円卓の騎士や息子の反乱、そして究極的にはアーサーの死といった彼の没落が始まります。エクスカリバーという剣はアーサー王の運命そのものを象徴しているのです。

 

さて、この聖剣はファンタジーを描く際には欠かせない道具立てになっています。例えば、ゲーム『ドラゴンクエストIII』では「おうじゃのけん」という剣が登場します。真の勇者しか振るうことができない剣として描かれ、この剣を手にした勇者の子孫がのちに国王の座につくことになります。また、作中最強の性能を持つ武器で、その剣の威力を恐れたゾーマによって3年の月日をかけて破壊されることになります(もっとも、主人公が手にするのは修復された「おうじゃのけん」ですが)。「おうじゃのけん」にまつわる「真の勇者」「国王」「その驚異的な威力」「破壊される」といった設定は聖剣エクスカリバーをモデルに描かれています。この剣は『ドラゴンクエストIII』以降も「王者のつるぎ」や「王者の剣」、あるいは「勇者のつるぎ・真」などその名前をたびたび変えながら『ドラクエシリーズ』に登場しつづけます。ほとんどの場合「勇者」のジョブの最終装備で、最強格の武器として登場します。「勇者」として「魔」に立ち向かうという『ドラクエシリーズ』の基本的な構造上、「災いを避ける」力を持つ聖剣エクスカリバーはやはりァンタジーな物語と親和性の高い道具立てなのでしょう。

(画像: Arthur Rackham, "How Galahad drew out the sword from the floating stone at Camelot." From The Romance of King Arthur (1917).

サブカルチャーにおけるアーサー王の表象

【アーサー王とFateシリーズ】

これまで『アーサー王物語』に登場する重要な道具立ての一つである「聖剣エクスカリバー」と日本のサブカルチャー、とりわけ『ドラクエシリーズ』に登場する「おうじゃのけん」の関係について解説してきましたが、今度はアーサー王本人がサブカルチャーにおいてどのように描かれているかを見てみましょう。

アーサー王本人が登場する日本のサブカルチャーのなかで最も有名な作品の一つは『Fateシリーズ』でしょう。『Fateシリーズ』は最初にPCゲームとして発売され、その人気の高まりとともにアニメや漫画などの様々なメディアへと展開していったシリーズで、持ち主の願いを叶えるという「聖杯」を巡って「魔術師」(マスター)「使い魔」(サーヴァント)とともに戦う「聖杯戦争」を描いた作品です。


この作品において主人公である衛宮士郎によって召喚された「セイバー」(剣士)の「サーヴァント」としてアーサー王は登場します。もともと、いわゆる「ギャルゲー」として始まった『Fateシリーズ』においてアーサー王は女性ヒロインとして描かれていますが、その他の「設定」の大部分は『アーサー王物語』を引き継いでいます。しかし、ある点において『アーサー王物語』の「設定」を基調にしつつも独特の色彩を見せている描写があります。それは、聖剣エクスカリバーの「鞘」についての描写です。

『Fateシリーズ』におけるエクスカリバーの鞘は聖遺物として現代にも残っており、主人公はこの鞘を偶然手にすることによって、鞘が主人公に「取り込まれ」、鞘の能力によって驚異的な回復力を手にします。このエクスカリバーの鞘が持つ「あらゆる傷を癒す」能力それ自体は『アーサー王物語』にも描かれていますが、『Fateシリーズ』の鞘の描写における特異な点は鞘が主人公に取り込まれ、同化する点にあります。鞘はアーサー王の英霊を召喚する触媒であり、主人公と鞘が同化することによって主人公は「サーヴァント」であるアーサー王の「マスター」になるわけですが、「サーヴァント」は「マスター」自身が持っている魔力によってその力が弱化されたり強化されたりします。従って、アーサー王と彼女の「マスター」であり「鞘」である主人公は運命を共有していると言えるでしょう。『アーサー王物語』において聖剣エクスカリバー、正確に言えばエクスカリバーの鞘は彼の運命そのものを象徴する存在でした。『Fateシリーズ』においてもアーサー王はその基本的な「設定」を「原典」から引き継ぎつつも、アーサー王と鞘の関係「サーヴァント」と「マスター」の関係に移し替えることによって、独特の魅力を生み出しているのです。

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