中世という時代区分に関して、その発端および終焉がいつかという認識は歴史家によってさまざまですが、中世という時代を象徴する歴史的事件は歴史家の間でもほとんど一致を見ることができます。すなわち、フランク族の王 カール(シャルル)が教皇レオ三世から帝冠を戴いた事件、いわゆる「カール大帝の戴冠」です。この事件によって、中世は古代とは決定的にその特徴を異にします。カールの戴冠が歴史的重要性を持つのは、ローマ皇帝という世俗の最高権威をゲルマン人が担うことになり、その結果、カトリック教会と世俗の王権が結びついた神聖ローマ帝国が誕生したことに他なりません。つまり、ゲルマン民族が時代の担い手となったこと、彼らがキリスト教的世界観をその精神的支柱として歴史を展開させていったこと、このことこそ中世という時代を特徴づける要素です。
(画像:ジャン・フーケ「カールの戴冠」)
文学においても同様の特徴が見られます。アイスランドの『サガ』のように散文形式の物語も例外的には存在しますが、中世の文学は主として歴史的な出来事を伝える叙事詩や物語詩、人物の内的感情を歌った抒情詩がほとんどで、韻律を伴うものであるという点で形式的な面には古代ギリシア・ローマとは変わりません。一方、文学の内容に関しては、主題がそれまでのギリシア・ローマの神々や英雄からゲルマン的伝統とキリスト教へと移ってゆき、その結果、叙事詩はゲルマン民族の文化的遺産とキリスト教的要素が混ざり合った英雄的叙事詩へと発展していきます。
この英雄的叙事詩では、キリスト教的要素はまだ成熟しておらず、ゲルマン的な荒々しさを残したままでした。しかし、王権の確立によって宮廷文化が次第に広まり、キリスト教的情感が洗練されるにつれ、宮廷文学が花開いていきます。その主題とするところは、騎士が貴婦人に捧げる永遠の愛であり、フランスの「ロマン」と呼ばれる物語詩やドイツの「ミンネザング」といった抒情詩が歌われるようになります。更にこの「ロマン」や「ミンネザング」といった、いわゆる「騎士道もの」は聖杯伝説を媒介としてケルト民族の伝説と結びつき、物語詩『トリスタンとイゾルデ』や『パルツィヴァル』といった「アーサー王物語」が生まれます。
(画像:エドモンド・レイトン「騎士号授与」)
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