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★ヨーロッパ文学の〇〇主義って何?:中世ヨーロッパの文学: 文学こぼれ話:ワーグナー『ニーベルングの指輪』

啓蒙主義、古典主義、ロマン主義などなど…。文学で必ず出くわすこの〇〇主義をその思想史的・歴史的背景と共に俯瞰します。

「指輪」を巡る物語の伝統

 【ワーグナーと『ニーベルングの指輪』】

ゲルマン民族の伝説を主題とした『ニーベルンゲンの歌』をモチーフに創作された作品といえば、やはりリヒャルト・ワーグナー(1813-1883)の代表作『ニーベルングの指輪』でしょう。

この作品は演劇と楽曲によって構成される楽劇、いわゆるオペラです。作品自体も大変有名ですが、特に象徴的な序奏で始まる作品中の楽曲「ワルキューレの騎行」を聞いたことがあると言う人は多いでしょう(Youtubeリンク:「ワルキューレの騎行」MP3ver. 歌劇『ニーベルングの指輪 第二夜 ワルキューレ』Tielemann指揮

ワーグナーはこの作品を35歳から61歳までの26年間をかけて作り上げました。作品完成までの年月もさることながら、この作品の上演はなんと4日間、15時間にも亘ります。ワーグナー自身が設計したドイツ・バイロイトの祝祭劇場で最初に上演された作品がこの『ニーベルングの指輪』であり、毎年この劇場で上演されています。ワーグナーと師弟のような関係にあり、のちに彼から決別したニーチェもこの作品から(良くも悪くも)影響を受けています。

『ニーベルンゲンの歌』が歴史的事件の影響を強く受けているのに対し、ワーグナーの『ニーベルングの指輪』は神話的要素のより強い作品となっています。物語は世界を支配する力を持つと言われる「ラインの黄金」によって作られた「指輪」を中心に展開します(あらすじは後記)。

(写真:Franz Hanfstaengl, Richard Wagner


【『ニーベルングの指輪』と『指輪物語』】

ちなみに、映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作であるJ・R・R・トールキンの『指輪物語』もこの作品と同じ題材をルーツに持つ作品であり、『ニーベルングの指輪』と同様に指輪がライトモチーフ(主題)になっています。『指輪物語』の原作者トールキンはもともとオックスフォード大学アングロ・サクソン語教授であり、北欧神話(エッダ)や「サガ」に精通していました。二つの作品を見比べてみると、様々な点での類似が見られますが、それは『ニーベルンゲンの歌』や『ニーベルングの指輪』のいわば元ネタであるところの北欧神話が『指輪物語』にも影響しているからです。

作品のあらすじ

【『ニーベルングの指輪』のあらすじ】

序夜:『ラインの黄金』

神々の王ヴォータンは巨人族のファーフナーとファゾルトに義理の妹であるフライアを報酬として神々の館ヴァルハラを作らせました。しかし、フライアは巨人族に身をささげることを拒みます。そこでヴォータンは、ニーベルング族(小人族)の長アルベリヒがラインの妖精から奪い取った黄金で作らせた指輪を策略によって彼から奪い取り、巨人族にヴァルハラ建設の報酬として与えました。しかし、指輪にはアルベリヒによって死の呪いがかけられており、巨人族は指輪を巡って殺し合いをはじめ、ファーフナーがファゾルトを殺して指輪を手に入れます。

(画像:Arthur Rackham, Fasolt suddenly seizes Freia and drags her to one side with Fafner


第一夜:『ワルキューレ』

舞台は人間世界に変わります。ヴォータンは指輪の呪いがかかった神々の運命を変えようと、ヴェルズング族の人間女性にジークムントという男の子を生ませました。ある夜、嵐にあったジークムントはフンディングという男の家に避難し、そこでフンディングの妻ジークリンデと恋に落ちます。最初、ジークムントはフンディングが世話してくれたことに感謝していましたが、フンディングとの会話の中で次第に彼が一族の敵であること、そして彼の妻ジークリンデが生き別れの妹であることを知り、遂にはジークムントは彼との決闘を申し込みます。ヴォータンはジークムントを勝たせようとします。一方、ヴォータンの妻で結婚を司る神のフリッカはフンディングの結婚と復讐を守るためにヴォータンに抗議します。結局、ヴォータンはフリッカの非難を受け入れてしまい、ジークムントを殺すべくワルキューレの中で最愛の娘ブリュンヒルデを遣わせることになります。彼女は父ヴォータンの命令に逆らってジークムント兄妹を守ろうとしますが、怒ったヴォータンにジークムントを殺され、彼女は神性を奪われてしまいます。そして、ヴォータンは燃えさかる炎に包まれる岩山にブリュンヒルデを眠らせ、彼女の眠りを最初に覚まさせた男を彼女の夫とするよう宣告します。一方、ジークムントの子を宿したジークリンデはジークムントの砕かれた剣をもって森へ逃げます。

(画像:This image was created based on the Die Walküre opera by Richard Wagner.


第二夜:『ジークフリート』

第二夜ではジークムントとジークリンデ兄妹の間に生まれたジークフリートの冒険が描かれます。アルベリヒの弟で、ジークフリートの育ての親であるミーメは彼を使って指輪を手に入れようと画策します。というのも、彼の出生と力を知っていおり、彼ならばドラゴンに化けたファーフナーを倒せると思ったからです。ミーメがファーフナーを倒させようとする過程でジークフリートは自身の出生の秘密を知り、折れたる剣ノートゥングを鍛えなおしてファーフナーに挑みます。ファーフナーを倒したジークフリートはその返り血によって小鳥の言葉がわかるようになり、小鳥の教えにより指輪を手に入れ、陰謀を企てていたミーメを倒し、更には岩山に眠るブリュンヒルデのことを知らされます。さてジークフリートが岩山に到着すると、ブリュンヒルデへの道を「さすらい人」と名乗るヴォータンが遮っていました。しかし、ジークフリートはノートゥングによってヴォータンの槍を砕き、炎を乗り越えてブリュンヒルデに接吻します。すると、ブリュンヒルデは目を覚まし、二人は永遠の愛を誓います。

(画像:Arthur Rackham, Brünnhilde and Siegfried


第三夜:『神々の黄昏』

ジークフリートはブリュンヒルデに指輪をわたしていたのですが、アルベリヒの子で指輪を狙うハーゲンによってジークフリートは記憶を失ってしまい、ブリュンヒルデから指輪を奪ってしまいます。裏切られたと勘違いしたブリュンヒルデは復讐を誓い、ハーゲンにジークフリートの背中にある弱点を教えてしまいます。ハーゲンはブリュンヒルデから教えられた弱点を突き、ジークフリートを殺します。ラインの妖精たちから事の顛末を聞いて過ちに気付いたブリュンヒルデはハーゲンを殺して、指輪を奪い返し、その指輪をラインの妖精たちに返します。彼女はジークフリートの亡骸が横たわる薪に火をかけ、彼への愛を歌いながら炎の中へと身を投げます。その炎は天上にまで広がり、神々の館ヴァルハラが炎上するところで物語は幕を下ろします。

(画像:Arthur Rackham, Brünnhilde on Grane leaps onto the funeral pyre of Siegfried.

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